時代を先駆けた作家は生前、こんなことを語っていました。もしも私の小説が社会の役に立ったことがあるとしたら、自分に関係ないと思っていた人に「みんな関係のある問題なんですよ」ということを思い知らせた…。
有吉佐和子さんが俳優・高峰秀子さんとの対談で話しています(『いっぴきの虫』)。認知症や介護問題をとりあげた『恍惚(こうこつ)の人』、環境汚染を告発した『複合汚染』、人種差別を扱った『非色』。多岐にわたったテーマは、たしかに普遍的なものとして今も迫ってきます。
からだが八つほしいとこぼしていた通り、小説に評論、戯曲やドラマの脚本と、八面六臂(ろっぴ)の活躍で戦後を駆け抜けた有吉さん。53歳の若さで世を去ってから、きょうで40年。数々の作品は時代をこえて読み継がれています。
幼い頃から読書にのめり込み、小学生で鴎外や漱石全集を読破。女学校時代にはマルエン全集も読んでいたとか。旺盛な知識欲と探究心は生涯変わりませんでした。
因習や伝統にとらわれず多様な生き方を追い求めました。作品の主人公はほとんどが女性で「男が書きもらしているところを、女が書き改めなくてはいけないという意識は常に持っています」と、女性の生き方を描きました。それは現在の女性たちにも共感を。
「書き、読み、考える。私には、やはりこの静謐(せいひつ)がいちばん必要だ」と、作家であることを息を吸うように。時代を先んじた、色あせない有吉作品。研ぎ澄ました知性で世に問うたのは人間のあゆみと尊厳でした。