大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

英保守党、支持広げる

2019年09月04日 | 日記

 2019年9月3日(火)、イギリス議会は「EUと離脱条件で合意できなかったら、離脱期限の来年までの延長をEUに求める」法案の審議をはじめることを328対301で可決した。

 ジョンソン首相は、審議開始に賛成した保守党議員は次の選挙で公認しない(つまり政治生命の終わり)としたが、21人の保守党議員が審議開始に賛成した。<造反議員はその後、保守党を除名され、与党は議会の過半数を失った>

 これに対しジョンソン首相は、もし法案が可決されたら、議会を解散して離脱直前の10月14日か15日に選挙をおこなうとしている。

 強気の背景にあるのが、保守党の高い支持率

 2017年の総選挙ではコービン氏ひきいる労働党が大善戦。

 しかし最近、労働党の支持率は低迷しており、直近の世論調査では保守党の支持率は労働党を11%上回っている

 現在選挙がおこなわれた場合、保守党が圧勝すると予想されている。

 労働党の支持率が低迷している理由としては、コービン氏のEU離脱への立場がはっきりしないこと(おそらく離脱自体には肯定的)などがあげられている。

 こうしたことからEUは、ジョンソン首相が選挙に勝ってもEUがこれまでの交渉内容を変えることはないと予防線をはりだした。

 ただし、議会を解散するには下院の2/3の賛成が必要。労働党が解散に賛成しなければ、ジョンソン氏は選挙にうってでることはできない。

 大敗北がわかっているので労働党が選挙に賛成する可能性は小さいと思われる(コービン氏は選挙でEU離脱の信を問うべきと主張し続けてきたが)。

 別の可能性としては、内閣の不信任を可決して保守党から別の首相を選出するというものがあるが、フィナンシャルタイムズは、保守党議員が内閣不信任案に賛成することはいまのところ考えにくいとしている。<保守党を除名された議員が不信任に賛成した場合はこのかぎりにあらず>

 すると結局、ジョンソン氏が首相を続け、離脱条件の交渉を続けるということにしかならないのではないか。

 EUも、景気の行方が不確かになってきているなか強硬離脱の引き金を自分が引いたと言われたくないだろうから、離脱期限の延期に合意するのではないかと思われる。

 とはいえ、予想どおりにならないのが政治。

 最大の懸案となっているアイルランドとの国境問題をどのように解決してEU離脱にもっていくのか、引き続き注意してみていきたい。


米民主党の大統領候補、富裕層増税を打ち出す

2019年09月02日 | 経済

 来年2020年11月3日にアメリカで大統領選挙がおこなわれる。

 拙稿で詳しく書いているが、アメリカの所得格差はいま20世紀以降でもっとも大きくなっている(所得格差のその前のピークは大恐慌前の1920年代)。

 所得格差拡大に対するアメリカ人の不満は大きく、民主党の大統領候補はそれぞれ富裕層に対する増税を打ち出している。

 共通の焦点となっているのが株や土地の含み益への課税

 ウォールストリートジャーナル(WSJ)によれば、2017年末における株、土地、骨董その他の投資についての家計の含み益(買った後に値上がりした金額)は3.8兆ドル(400兆円:1ドル=105円)。

 これまで、この部分は売却で利益が確定しないかぎり課税されることがなかった。

 これに対し、民主党の大統領候補はここに課税の焦点をあてている。

 まずもっとも有力な大統領候補バイデン氏は、資産の所有者が死亡した時点で、すべての含み益に通常の資産課税を課すとしている(アメリカでは相続税が発生する課税基準が高いので、相続税を払うのはごくわずか。バイデン氏の課税案では相続税を払わない人々も含み益には課税されることになる)。さらに氏は、100万ドル(1億円)以上の所得がある場合、その税率を通常の2倍である40%に引き上げるとしている。

 またワイデン上院議員は、毎年、資産の含み益に課税をおこなうとしている。

 さらに過激なのがサンダース氏と2位争いをしているウォレン上院議員。氏は、5千万ドル(52億円)以上の総資産に毎年2%、10億ドル(1050億円)以上の資産にはさらに追加で毎年1%の課税をおこなうとしている。他に数人の大統領候補が、これに似た資産課税を打ち出している。

 ワイデン氏やウォレン氏の税制案は過激にみえるが、どちらも現役の上院議員が考えた政策である。

 アメリカの社会や人々はとても柔軟(フレキシブル)なので、民主党が来年の選挙で圧勝すればこうした実験的な政策も確実に実行にうつされることであろう。

 そしてもしウォレン氏が大統領になるようなことがあれば(いまのところ可能性は低いが)、アメリカの政治や経済は大きな転換をむかえることになろう。

 これまで他に関心を向けることが多く民主党の大統領候補選びについては十分なフォローができていなかったが、これからしっかりフォローしていきたい。