大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

トランプ大統領、医療保険で低所得者向け補助金を廃止

2017年10月31日 | 日記

 2017年10月12日、トランプ大統領はオバマケアにかかわる低所得者向けの政府補助金を廃止した。

 学会があり少し遅くなったが、大事な出来事なのでここに整理しておきたい。

<補助金廃止の影響>

 これまで連邦政府は、低所得者が支払う医療費を低くするため保険会社に対して補助金を支払っていた。

 今回、トランプ大統領はこの廃止を決めた。

 これにより今後10年で1千億ドル(11兆円:1ドル=110円)の補助金削減になる。

 補助金が廃止されると、低所得者の保険料が上がったり、採算割れなどからオバマケアから退出する保険会社が増える(地域によってはオバマケアで選べる保険会社がなくってしまう)ことが心配されている。

<補助金の法的問題>

 ところでこの補助金はもともとオバマ大統領が大統領令で決めたものだが、大統領令で大きな支出をともなう決定をおこなうことは法的には問題が多い(予算を決める権限は議会にある)。

 実際、ワシントンD.C.の連邦地裁は2016年、この大統領令を違法と判断している<アメリカの司法は党派色が強いので、党派性の強い問題法案は反対派の裁判官によって違法と判断される可能性が高くなる-最近ではトランプ氏の入国禁止令が違法と判断された->。

 トランプ大統領は、違法状態にある補助金を続けることはできない、と主張している。

 一方、トランプケアに積極的な州は、補助金廃止の一時差し止めを求め連邦政府を連邦地裁に提訴する動きなどがでている。

<今後の動き>

 前述のように補助金が廃止されると、低所得者の保険料が大幅アップするなど大きな影響がでることが予想される。

 このため共和党議員からも補助金の継続を望む声がでている。

 この解決策は、予算権限をもつ議会が補助金支出を認める法案を成立させることである。

 実際、上院の超党派(議事妨害を阻止できる60人が参加)で法案作りが進むようにみえた

 しかし現在、トランプ大統領がそれにストップをかけるかたちになっている。

 トランプ氏が、失敗におわった共和党のオバマケア改廃案と同じような内容を法案に盛り込むことを求めているためである。

 具体的には、(1)医療保険に入っていない人への罰金を廃止する(健康な人が保険に入らないことを認めるもので、保険加入者に占める健康状態の悪い人の割合が高まり保険料の高騰が引き起こされる)

(2)医療保険を提供しない大企業への罰金を廃止する(大企業が従業員に医療保険を提供しないことを認める)

(3)出産などを保険のカバーから外すことを認める(これが認められると最低限のカバーだけの保険に入る若い人が増え、カバーの広い保険が必要な中高齢者の保険料が高騰する)

(4)企業・団体が共同で保険を提供するのを認める(その場合、団体構成員の病歴、病者割合、年齢などに応じて、団体ごとにことなった保険料を設定することが可能となる)

 この内容では民主党は賛成できない。

 補助金廃止の影響が来年以降どのようにでてくるかしっかり見ていきたい。


テスラ、労働者を大量解雇: UAW、テスラを不当労働行為で訴える

2017年10月28日 | 日記

 オート・モーティブ・ニュース(AMN)によれば、2017年10月25日(水)、UAW(全米自動車労組)はNLRB(米労働関係委員会)にテスラ不当労働行為で訴えた。

 電気自動車ブームの火付け役としてテスラは今、世界中から注目を集めている。

 ただテスラの生産労働者の賃金は17-21ドル(1900-2300円:1ドル=110円で計算)で、他の自動車メーカーよりかなり低い(ビッグ3のティア1-古参-労働者の賃金は28ドル)。<テスラCEOのマスク氏は、従業員持ち株などを入れれば賃金水準はビッグ3を上回ると主張している>

 またテスラの労働者の一部は、労働者不足スピード・アップによってテスラでは労災が多発していると告発している。 <テスラは否定>

 こうした状況をうけ、UAWスラ(カリフォルニア)の組織化を強化するなか、テスラは400人以上の労働者を解雇

 UAWは組合を支持する者が狙い撃ちで解雇されたとして、NLRB(日本の労働委員会に相当する組織)にテスラを訴えた

 一方、テスラは解雇はあくまで業績評価に基づくものだと主張している。

  

 今、テスラは45万台という受注残(モデル3)を抱えながら、生産が停滞している。

 日本ではあまりニュースにならなかったが、テスラは第3四半期に2.5万台の自動車を生産したがモデル3の生産はわずか260台にとどまった。

 欧米の経済紙はこぞって、テスラは生産上の大きなボトルネックを抱えていると指摘している

 テスラは年末までには週5千台の生産ペースに乗せるとしているが、労働者を大量解雇しながらはたして順調な生産が可能なのであろうか。

 南アフリカ生まれのマスク氏は、スペースX社のCEOとして火星への人類移住計画を進めるという壮大な仕事をおこなう一方、テスラ社ではストップ・ウォッチを持って生産現場に入るなどミクロ・マネジメント(現場の細かいことまで指図する)もしっかりおこなうという面ももっている。

 マスク氏には、生産効率を重視するあまりクリーンな企業イメージを壊してしまわないよう強く望みたい。 


米下院、11月上旬に税制改革案を公表か: 地方税の控除廃止、見直しの動き

2017年10月22日 | 日記

 米下院は11月1日に税制改革法案を公表、11月中に下院で法案を可決、年内に最終法案を上下両院で可決する予定と伝えられている(2017/10/31 加筆修正)。

 ところで先に発表された税制改革案に修正の動きがあった。

 州税など地方税を所得から控除して(差し引いて)連邦所得税を計算できる仕組みの廃止見直しである。

 アメリカは州によって税制が大きく異なる。

 一般に、カリフォルニアやマサチューセッツなど民主党が強い州は高い所得税(住民税)を課し、高い住民サービスを提供していることが多い。

 一方、共和党が強い州は、所得税(住民税)がなかったり、あっても低率なことが多い(最低限の住民サービスを提供)。

 地方税の控除をやめれば10年で110兆円近い税収増があるうえに、共和党の地盤州への影響は少ないという見方がこれまでは多かった(1ドル=110円で計算。以下同)。

 しかしこれで大きく増税となるのは共和党支持が多い1千万円以上層。

 共和党と民主党の支持がきっこうするスイング・ステーツ(揺れる州)で大きな影響が出かねない。

 こうしたなかウォール・ストリート・ジャーナルによれば、とくに中所得層の増税を避けるため、(1)地方税の控除廃止を高所得層に限る(中所得層はこれまでどおり控除できる)、(2)地方税の控除額に上限を設ける、(3)州が課す固定資産税の控除を残す、などの修正案が検討されている模様。

 問題は、こうした修正をおこなえば減税の財源(110兆円)が減るということ。

 その分、ほかの減税規模を小さなものにする必要がでてくる。

 先に発表された減税案(10年で260兆円)は地方税の控除廃止で110兆円の税収増を見込みながら、議会決議できめられた165兆円という減税上限を大幅に超えており、修正が必要不可欠になっている。

 控除廃止の見直しにより、それがさらに難しくなる。

 ホワイトハウスは最近、減税により4%の経済成長(とそれによる大幅な税収増)が可能だと主張しているが、ウルトラC(古い?)としては、それを前提に無理やり数字を合わせる(修正をしないで法案を通す)ということもありえなくない。

 その場合は、連邦政府の財政赤字が大幅に悪化し、金利の高騰、それにともなうドルの高騰などさまざまな問題が出てくる可能性が高まる。

 アメリカにおける減税の行方をこれからもしっかり追っていきたい。


富山のライトレール

2017年10月18日 | 日記

 この週末、富山大学で労働社会学会があり、富山市を訪れた。

 うえは富山市を走るライト・レール(日本ではとくに低床式電車の意味)。

 この間、アメリカでは減税案に大きな変化があり、医療保険でも低所得者向け補助金を廃止する大統領令がだされるなどの動きがあった。

 ここで少しずつ紹介していきたい。


カナダのGM工場のストライキが終結

2017年10月17日 | 日記

 2017年10月16日(月)、カナダ・オンタリオ州にあるGM工場(CAMI)で労働協約の批准投票がおこなわれ、技能労働者86%、専門労働者79%の賛成批准がきまった

 これにより9月17日からおそよ1か月続いていたストライキは解除され、10月16日(月)19時から生産準備に入ることになった。

 結局、Unifor(労働組合)が求めていた生産車種EquinoxのCAMIへの集中や生産継続の保証は認められなかった。

 ただ、賃金については、4年間で4%の賃上げのほか、協約締結時の6千ドルのボーナス、4年間で8千ドルの一時金の支給などがきまった。

 また新規採用者の昇給ペースのアップ(従来の労働者の賃金水準に達するまでの期間短縮)もきまった。