大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

オバマ大統領、性別賃金格差の是正に挑む

2016年01月31日 | 日記

 2016年1月29日(金)オバマ大統領は、100人以上の民間企業に対し毎年、性、人種別の賃金を連邦政府に報告することを義務づけることを決定した。実施は2017年9月から。担当部署となるEEOC(雇用機会平等委員会)は、これによって生じる企業の負担は初年度で400ドル(5万円:1ドル=120円)、以降は毎年200ドル(2.5万円)程度と見積もっている。

 米政府によれば、フルタイム女性の賃金は男性の79%にとどまっており、欧州の多くの国より格差が大きなものとなっている。またアメリカでは2000年までは男女間賃金格差の縮小が進んだが、それ以降、格差にほとんど変化がなくなっている。今回の決定は、こうした状況に変化をもたらそうとするもの。

 なお米政府はOECDのデータに基づいて決定の背景を説明しているが、同じデータによれば、OECD加盟国の中でとびぬけて男女間賃金格差が大きいのが日本。日本の男女間賃金格差はイスラム教国トルコにくらべても格段に大きなものとなっている。


フェラーリの独立

2016年01月24日 | 日記

 2016年1月3日、FCA(フィアットクライスラー)とフェラーリの両社は、フェラーリの独立が完了したと発表した。

 2015年、FCAは債務削減などを目的に子会社フェラーリを分離することを決定。2015年10月にフェラーリはNY証券取引所でIPO(新規株式公開)をおこなった。このIPOに際し、FCAは持ち株10%相当を売却し10億ドル(1200億円:1ドル=120円)の資金を調達することに成功した。

 フェラーリの財務報告書(Form 6-K)によれば、2015年第1四半期~第3四半期の売上は21億ユーロ(2700億円:1ユーロ=130円)、純利益は2.4億ユーロ(300億円)。売上に対する利益率は10%を超える。

 この独立を主導したのはFCAのマルキオンネCEO(フェラーリの会長も務める)である。マルキオンネCEOは2018年にリタイアすると公言しているが、これまで数多くの功績を残している。

 なかでもとくに大きな功績は、

1)経営不振に陥っていた2005年にGMとの提携解消を認め、GMから違約金20億ドル(2200億円:1ドル=110円)を得て経営再建を軌道に乗せた。

2)リーマンショック後、経営破たんしたクライスラーに資本参加。2014年にはクライスラーを完全子会社化したうえで、同社とフィアットを傘下にもつFCAを設立してNY証券取引所に上場した。

 といったことがあげられる。

 これほどドラスティックな改革、投資をおこなえる人物なので、きっと創業者一族なのだろうと思っていたが、最近読んだFT紙の記事でそれが間違いであることに気がついた。

 マルキオンネ氏は、1952年、南部イタリア生まれ。14歳の時に親戚を頼って両親とともにカナダのトロントに移民。その後、弁護士、公認会計士の資格を取得。いくつかの会社をへて2003年にフィアットの取締役に就任。翌2004年、ジャンニ・アニェッリ会長が死去した際、当時28歳だった後継者ジョン・エルカーンにこわれてフィアットCEOに就任し現在にいたる。

 FT紙では大口をたたく人物(big mouth)と評されているが、ヨーロッパの大企業に過ぎなかったフィアットを短期間で世界的な自動車メーカーに押し上げた功績ははかりしれない。マルキオンネ氏引退後のFCAが少し気がかりである。 


タカタ製エアバッグ、10人目の死者

2016年01月23日 | 日記

 2016年1月22日(金)のNYTは、タカタ製エアバッグによる10人目(アメリカでは9人目)の死者が認定されたと報じた(事故発生は昨年の12月)。

 今回の事故車はフォード製で、ホンダ製以外では初めての死者認定となる。

 これに合わせ連邦安全規制局は、リコール対象メーカーを拡大。リコール対象車はこれまでより500万台多い2,400万台となった。

 高速道路交通安全事業団(NHTSA)によれば、いまだリコール対象車の4分の1程度しか改修されていない

 NYTはNHTSAの広報担当者による、1,000万台を超えるさらに大規模なリコールが必要になるかもしれないとする発言も紹介している。ちなみに今回のケースではないが、10人の死者の中には妊婦も含まれている。

 日本では完成車メーカー等によるタカタ支援へ向けた動きが強まっているが、早急な問題解決が求められている。

★ 2016年2月24日(水)追記

 2016年2月22日のロイター通信は、関係筋の話として、NHTSAが、タカタ製エアバッグのインフレーター(膨張装置)7000万―9000万個についてリコール(回収・無償修理)の必要があるかどうかを新たに調査していることが明らかになったと報じた。

★ 2016年5月1日追記

 2016年5月1日の日経新聞は、米当局がリコール対象車を数千万台規模で追加する方針を固めたと伝えた。


オバマ大統領、失業保険の改革目指す

2016年01月17日 | 日記

 アメリカの失業保険の仕組みは州によって異なる。ただ基本的には最長26週間(半年)、失業者が急増した場合はそれを52週間(1年)まで延長するというものが多い。ちなみにリーマンショック後には失業保険の受給期間が99週間(約2年)まで延長された。

 ところでWSJなどが報じるところによれば今週末、オバマ大統領は一般教書演説(1月12日)で述べた失業保険改革の具体的内容を明らかにした。そのおもな内容は次の通り。

 1)同じ仕事を3年以上続けている労働者が失業後に前の職場より賃金の低い仕事についた場合、その差額の半分を2年間補償する。補償の上限は2年間で1万ドル(120万円:1ドル=120円)。新しい賃金が年5万ドル(600万円)以下の労働者が対象となる。

 2)ワークシェアリング(景気後退期に解雇ではなく一人一人の労働時間を短くして雇用を守ること)がおこなわれた場合、労働時間短縮により手取りが減少した労働者に、失業保険からその一部の補償をおこなう。

 提案は、こうした制度設計をおこなった州に補助金を支給することで、その制度普及をおこなうというもの。なお、この実現には議会の承認が必要となる。


高級車市場で中国、インドが台頭

2016年01月03日 | 日記

 世界的な好景気は(いま曲がり角に差し掛かっているが)、高級車市場に活況をもたらしている。その大きな恩恵を受けているのが、インドのタタ自動車中国のジーリー自動車(吉利汽車)である。

 インドのタタ自動車は2008年にフォードからJaguarLand Roverを23億ドル(約2500億円:当時の1ドル=105円で計算)で買収。FT紙(2015/12/29)によれば、2つが統合したJaguar Land Rover社は、2014年に26億ユーロ(約3500億円:1ユーロ=130円)の税引き前利益を計上。1年の利益が、買収額を大きく上回った。ちなみにホンダと日産の2014年の純利益はともに約5000億円で、Jaguar Land Rover社の利益はそれに迫っている。FT紙によれば、同社の売上に対する利益率は10%に近く、高級車のもつブランド力、利幅の大きさをよく示している。

 一方、中国のジーリー自動車は2010年にフォードからVolvoを18億ドル(約1500億円:当時の1ドル=90円で計算)で買収。FT紙によれば、Volvoの2014年の営業利益は2.6億ドル(約300億円)、また2015年前半の売上に対する利益率は2.2%となっている。Jaguar Land Rover社にくらべると見劣りする数字となっているが、FT紙は、Jaguar Land Rover社がフォード時代に開発された自動車の販売に依拠できたのに対し、Volvoは買収後に自動車ラインを新開発しなければならなかったという事情の違いを指摘している。

 ところで日本の自動車メーカーに欠けているもののひとつが世界的な高級車ブランドである。アメリカでのレクサスの成功など例外はあるが、欧州市場を含め世界市場でみると日本の高級車の存在感は小さい。高級車ブランドの買収はこの問題を解決する早道だが、日本の自動車メーカーは独自路線にこだわり続けている。

 たしかに欧州の自動車メーカー、とくに高級車ブランドの運営は難しい。十分な利益を出すのが難しいため、BMWは2000年にフォードにLand Roverを売却し、フォードは2008年にJaguarLand Roverを売却している。ドイツのオペルは、たびたび親会社のGMの足を引っ張ってきた。しかし、そのブランド力、利幅の大きさはなお魅力的である。世界的な好景気が支えになっているとはいえ、インドと中国の自動車メーカーは買収により、日系メーカーに先んじて世界的な高級車ブランドの所有、運営に成功した。アジア企業が所有する高級車メーカーの今後に注目していきたい。