大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

米上院、今週中の税制改革法案の可決をめざす

2017年11月29日 | 日記

 上院共和党は、今週金曜日(2017/12/1)までに税制改革法案を可決することをめざしている。

 現在、可決をめざすうえで次の3点が大きな問題となっている。

(1)小規模非株式会社(パススルー)の税率

 上院案では、17.4%の税控除を新設することでパススルーの実効税率を30%程度に引き下げるとしている。

 しかしこれを不十分として、ロン・ジョンソン氏(ウィスコンシン州)とスティーブ・デインズ氏(モンタナ州)の2人の上院議員が、パススルーの税率を法人並み(20ないし25%)に引き下げることを求めている。2017年11月27日(月)にジョンソン氏は、この問題が解決しなければ反対票を投じると発言している。

 ちなみにヘッジファンドのマネジャーやいわゆる士業の人たちは、収入を自営業(パススルー)の収益として税金を納めており、ニューヨーク・タイムズパススルーの収益の70%は所得トップ1%の人が得ていると指摘している。

 ただでさえ富裕者優遇と批判されている法案が、さらに富裕者有利なものに修正されるのか注目される。(下院はパススルーの税率を25%に引き下げるとしており、個人的には、そのあたりで妥協が成立するのではないかと思う)

  <→最終上院案では税控除を17.4%から23%に引き上げ、実効税率を30%弱にすることで決着した 2017/12/13追記>

(2)想定通りの経済成長(税収増)がなかった場合の措置

 現在の法案は、減税によって経済成長率が大きく上振れすることを前提に収支予想がなされている。

 しかしこれに対し、ボブ・コーカー氏(テネシー州)、ジェフ・フレーク氏(アリゾナ州)、ランクフォード氏(オクラホマ州)の3人の上院議員は、想定する経済成長率が高すぎて達成できない可能性が高く、その場合、政府債務が想定以上に悪化する可能性があるとの懸念を表明している。

 コーカー氏とランクフォード氏は、税収が想定通り伸びなかった場合、自動的に減税を見直す仕組み法案に盛り込むことを求めている

(3)医療保険の加入義務の廃止 

 上院案は、医療保険の加入義務を廃止することで、保険加入者を減らし、政府支出を削減することが盛り込まれている。

 しかしそうなると、健康な若い人が保険に入らなくなり、保険料が上昇することや、無保険者が大幅に増加(10年で1300万人)することが予想されている。

 スーザン・コリンズ氏(メイン州)は、医療保険への加入義務廃止を減税案に盛り込むことに強く反対している。氏はまた、地方税の控除を全面的に廃止することにも反対で、なんらかの控除を残すべきだと主張している。<→最終上院案では地方税のうち固定資産税を1万ドル(110万円)まで税控除できることになった 2017/12/13追記>

 共和党から3人以上の造反者がでると法案は可決できない。ここに挙げた人たちが、共和党指導部とどのようにおりあいをつけ(あるいはつかず)、最終的にどのような立場をとるのか見ていきたい。

2017/11/29追記

 2017年11月28日(火)、共和党指導部あるいはトランプ大統領との会談をへて、コーカー氏やコリンズ氏らから法案賛成に前向きな発言がでてきた。上院での可決の可能性がかなり大きくなってきた。

 上院での法案可決後は、上下院で法案のすり合わせがおこなわれることになる。

 あとアラバマ州の上院補欠選挙で、共和党のムーア氏の支持率が回復している。民主党からも複数のセクハラ疑惑が出ており、その影響もあるかもしれない。このまま大きな変化がなければ、最終的にはムーア氏が逃げ切る可能性が高くなってきた。


アラバマ州の上院補欠選挙が接戦に

2017年11月23日 | 日記

 司法長官になったセッションズ氏(共和党)の後任を決めるための上院の補欠選挙が2017年12月12日(火)にアラバマ州でおこなわれる。

 アラバマ州は共和党の牙城(レッドステーツ)で、当初は無風選挙と思われていた。

 しかし、共和党候補のムーア氏(保守強硬派)に対し複数の女性からセクシャルハラスメントの訴えが出て、選挙の行方がわからなくなってきた。

 最近の世論調査では、対立候補のジョーンズ氏(民主党)の支持率がムーア氏を上回るというものも多い。

 現在、共和党は上院100議席のうち52議席を持っているが、もしアラバマで負けるとそれが51議席となる。

 法案を通すのに許される造反議員の数は現在の2人から1人に減る。

 選挙で選ばれた議員の任期は2018年1月3日から。もしその時までに税制改革法案が成立していなければ、法案成立へのハードルがさらに上がることになる。

 こうしたことから共和党からは候補者を差し替えるべきだという声が出ているが、トランプ大統領は単なる疑いで人のキャリアをつぶすことはできないと差し替えに消極的な姿勢をつらぬいている。

 重大な意味をもつアラバマの選挙結果に注目したい。


上院の減税案、中低所得者は将来増税に

2017年11月18日 | 日記

 2017年11月16日(木)、中立の両院合同租税委員会(the Joint Committee on Taxation)は上院の減税案の影響を公表した。

 同委員会によれば上院案が成立すると、2021年には年収1-3万ドル層(110万-330万円層:1ドル=110円)で増税となり、個人減税が無効となる2027年には7.5万ドル(830万円)以下の層で増税となる。

 民主党は共和党の減税案を富裕者、大企業優遇との批判を強めている。

 ところでアメリカでは、立法府である議会が法律や予算を自分たちの責任において作っている。

 そしてそれを可能にするため中立の多くの専門スタッフが存在している。

 前出の両院合同租税委員会も、経済学博士号を持つ経済専門家など50人以上のスタッフを擁し、客観的に減税案の分析などをおこなっている。

 こういう組織を維持するには大変なお金がかかるが、こうしたものがないと本当の意味での議員立法は難しいのかもしれない。


保守派の共和党・上院議員、減税法案に反対を表明

2017年11月16日 | 日記

 今日(2017年11月16日 木曜日)、米下院は税制改革法案を可決する見込み

 2017年11月15日(水)のニューヨーク・タイムズ(NYT)によれば、地方税の控除廃止に反対してニューヨーク州の5人の共和党議員が、ニュージャージー州(マンハッタンの川向うにある州)の3人の共和党議員が反対票を投じる可能性がある。しかし下院では造反議員が22人までなら法案を可決することができるため、下院の法案は成立すると見込まれている。

 一方、上院はまだ過半数の賛成票を固めきれていない(3人の造反者が出ると過半数に達しない)。

 NYTによると、ウィスコンシン州のロン・ジョンソン上院議員(保守派)は、パススルー(小規模な非株式会社)より大企業が優遇されているとして共和党上院議員でははじめて法案への反対を表明した。

 NYTはこのほかに、オバマケア改廃法案に反対した3人の上院議員(アリゾナ州のマケイン氏、メイン州のコリンズ氏、アラスカ州のマーカウスキー氏)がまだ立場を決めていないとしている。

 そのなかでコリンズ氏は、医療保険の加入義務が廃止されると保険料が上昇し、減税分が帳消しになる可能性があるとの懸念を表明している。

 NYTはさらに、テネシー州のコーカー氏(しばらく前、ツィッターでトランプ氏から激しいからかいを受けた。今期で引退)とアリゾナ州のフレーク氏(セクハラ疑惑が持ち上がっているアラバマ州の上院候補モーア氏より反対党の民主党候補を支持すると述べている。今期で引退)そしてオクラホマ州のランクフォード氏が政府負債の増加に懸念を示しているとしている。

 上院共和党指導部は、法案に修正を加えながら過半数の支持を固めていくと思われるが、NYTは法案成立に不透明感が生じたと述べている。