前回トヨダヒトシがスライドショーをやったのは2005年の春だった。
ダウンタウンにあるアンソロジー・フィルム・アーカイヴス(インデペンデント・フィルム・メーカーとして名高いジョナス・メカスの主催するアート・スペース)のギャラリーでの最終日、ショーが終わって後片付けを手伝っていた僕にトヨダが「このおっちゃんが、オレのアトリエに来ないかって言ってるんだけど。」と言う。「でも、まだ片付けが終わってないし、この機材、ほっぽり出すわけにもいかないよ…。」と僕。「でも、ホントに近いって言うし…おもしろそうだから行こうよ。」横で聞いていたキョンちゃんが「あ、このおじさん、さっきあたしのコートにワインこぼした人だ。」
トヨダと僕、キョンちゃんとワタナベトオルの四人でほろ酔いのおじさんについて行くと、近いどころか、ロビーに出る階段を昇り終わらない踊り場の壁を押すと、くるりと壁の向こう側に入り込んだ。薄暗い倉庫は一面うずたかく積み上げられたフィルム缶の山。その間をずんずん進む。まるで夢の世界へ迷い込んだ様な気分で細い通路をくねくねと曲がり、階段を上がって降りた先におじさんの小さなアトリエがあった。
ジョナスと同じリトアニア出身の画家、音楽家、映像作家のオーグストAuguste Varkalisだ。ジョナスのフィルムの共作、作曲、演奏もしている。抱えて来たワインで小さなパーティーが始まった。
彼はもう十年もここに住んで、ついにアメリカに嫌気がさし、来週にはリトアニアに帰るのだそうだ。今見たばかりのショーについて話し込み、オーグストの絵を引っぱり出して見せてもらう。機関銃のように喋りまくる。
倉庫に転がったフィルムを裸電球にかざすと裸の男二人が抱き合っていて、キョンちゃんが「うーむ、やっぱり。」とうなっている。
時が経ち、酔いがすすむ。オーグストが「音楽をやろう。」と言い出して、さらに穴蔵の奥深くへ。フィルム缶と古い映写機、テープレコーダーの山の向こうに彼らの音楽室があった。ドラムセットとオルガン、様々なパーカッション、リコーダー、アコーディオン。
オーグストがオルガンの蓋を開ける。
僕は「じゃあ、ドラムをやろう。」とセットに座る。
トヨダは怪しげなアフリカ風のマンドリンを、ワタナベトオルはタンバリンを拾い上げて、奇妙なフリーミュージックセッションが始まった。オーグストのオルガンが圧巻だ。恐ろしい勢いで弾きまくる。
キョンちゃんはボトルを抱えて呆然と眺めている。
「たしか上は映画館のはずだけど、いいのかしら…。」
カメラを持っていなかったので、明日また写真を撮りに来ていいかいと約束して、翌日トヨダと二人で再び訪ねた。
六時の約束だったのに三十分過ぎても現れない。
ロビーに聞きに行ったトヨダが帰って来て。
「彼、十年前に亡くなったんだってさ。」
と言うその後ろから、すでにほろ酔いのオーグストが現れた。
イースト・ビレッジの夜。