空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

姑息

2007-02-16 12:17:35 | 国語
 前回の投稿に続き,いい加減言い古されたような話をいまひとつ。

 現在,「姑息」は「卑劣」にほぼ等しい意味合いで用いられることが相当ある模様である。定型句のように,「姑息で卑怯な」と言う場合,原義が意識されているかどうかは非常に微妙である。

 しかしご承知の通り本来は,「その場凌ぎの」といった意味であった。古い教養ある人々は正しく用いる:

 漢の高祖の天下統治の理想は,何よりも社会を安定せしむるにあった。そこでまず行ったのは,封建と郡県を併せ用いるという,甚だ姑息な政策であった。(宮崎市定,『宮崎市定全集1』岩波書店,1993年,135頁)

 つまり「当時はまだ統一帝国を統治する経験がなく」,封建/郡県の二者択一しか選択肢がなかった。そこで(郡県制で画一的に治めるには難しい)「遠隔地の住民に対しては,王を封建してやることが」唯一の方法であった(以上「」内は宮崎よりの引用)。上掲文における「姑息」は,それ故,「その場しのぎ」「継ぎ接ぎの」以外の意味には取れない。
 いまひとつ,綺麗な例をあげることとする:

 …ところが,最近それら(手で押さえつけるだけで接着する紙枠によるスライド)が次々口をあけてきました。それを発見するのはいつも講義や講演の直前にスライドを選定する際ですから,セロテープを小さく切ってあいた口を塞ぐという姑息の手段で急場を凌いできました。これに反して,最初に東工大でコテで接着したものはいまだにそういう事故が起こりません。(三笠宮崇仁『古代オリエントと私』137頁)

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1 コメント

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Unknown ()
2018-01-17 23:01:41
「姑息」が「卑怯、卑劣」の意味で用いられるよい用例が
http://blog.goo.ne.jp/teiresias/e/727ec6111a0b7efac3ae1a4ee3cdfa55
に。
あべともこ議員の発言の中。
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