かわずの呟き

ヒキガエルになるかアマガエルなるか、それは定かでないが、日々思いついたことを、書きつけてみようと思う

「巨大シッポの妖怪魚と愛くるしい稚魚たち」(前篇)

2010-08-06 | 随想
「巨大シッポの妖怪魚と愛くるしい稚魚たち」
(所属の研究会編集部から急遽穴埋めを依頼され書きました)

6月26日、友人に誘われるまま、彼の車に乗せてもらってある講演会に出かけた。会場には500人ほどの聴衆がいて、ときどき爆笑が起きる楽しい会であったが、今思うと、私はそこで安眠妨害の毒を盛られてしまった。講師が語った次の二つのことが気になってしかたがない。

 《歴史上、最悪の王様も極貧の貴族も、石炭よりも小麦が安いからといって、ストーブで小麦を焚いた人物はいなかったし、小麦用のストーブを開発した職人もいなかった。 
 小麦は食糧だからである。
 それなのに今、アメリカではトウモロコシからバイオ燃料をつくる大工場を幾つも建設している。これが米国の農家の所得向上と脱化石燃料社会への移行を推進する一石二鳥の政策だという。しかし、これによってアフリカでは餓死者が急増し、対策を急いでいるが、実は打つべき手がない》
 《日本は世界に冠たる食糧輸入国であるが、輸入した食材を調理したあと残飯として捨てている国としても世界のトップクラスに入っている。食堂で、レストランで、コンビニで、各家庭で膨大な量の食べ物を捨てている。しかし、計算上とはいえ、この廃棄食糧で全アフリカの乳幼児餓死者を救うことができる》

 確かにどこかがおかしい。決定的におかしい。私自身についていえば、サブプライムローン不況とかで、就活中に卒業式を迎えてしまった高校生が膨大な人数になるという記事を読んだとき、胸が引き裂かれる思いがした。彼らに何の落ち度もない。何の落ち度もないフツ―の若者が大量に突然地獄に投げ込まれた。しかも世界的な出来ごとであった。解雇された労働者も数百万人にのぼりその家族も地獄に落とされた。有史以来のどんな天災よりも大きな災害で、失われた富は第二次世界大戦の損害を上回るという記事を読んだこともある。
 寝苦しい夜、浅い眠りの中で盛られた毒が効き始め、うなされてしまう。講師は数年前まで名大院で資源材料工学を教えておられた教授で、政府の審議会や専門委員会の委員を務められた人だ。先生は何度も《ソロバン勘定がすべてに優先する社会が、それほど長続きするはずがない》といっておられたが、この「長続きするはずがない」という言葉が私を苛(さいな)む。
 確かにどこかがおかしい。決定的におかしい。私自身についていえば、サブプライムローン不況とかで、就活中に卒業式を迎えてしまった高校生が膨大な人数になるという記事を読んだとき、胸が引き裂かれる思いがした。彼らに何の落ち度もない。何の落ち度もないフツ―の若者が大量に突然地獄に投げ込まれた。しかも世界的な出来ごとであった。解雇された労働者も数百万人にのぼりその家族も地獄に落とされた。有史以来のどんな天災よりも大きな災害で、失われた富は第二次世界大戦の損害を上回るという記事を読んだこともある。
 半醒半眠の脳の中で、幾つかの言葉が浮かんでは消える。サブプライムローン、債権の証券化、金融商品と金融工学、商業から産業を経て金融に入ったとかいう資本主義、金融ビックバン、金融立国アメリカ、などなど。これらはつまり何なのだ。
 軽い頭痛を覚え、ため息混じりに「今夜も熱帯夜だ」と呟いて寝返りをうつと、突然これらの言葉に関する幾つかのパロディを思い出す。

 《金融というのはお金の流れ、経済活動(実物経済)を魚にたとえると金融は尻尾。尻尾が正常な時には魚はスイスイ泳いでたくさん餌を食べ大きくなる。つまり世界が豊かになる。ところが最近は尻尾が巨大になりすぎて、尻尾が少し振れると体の方がガタガタ揺れて、魚は前へ進まず沈んでしまうんだ。つまり失業者が溢れる世界同時不況。》
 《どうして尻尾の巨大化が進んだかというと、アメリカが増え続ける貿易赤字に困って、資本移動の自由化=「金融立国」政策をとったからさ。世界に出て行ったドルを取り戻すために「金融商品」を売り出して世界の金融機関や資産家に買ってもらったんだ。話題のサブプライム・ローンも、「債権の証券化」という手法で売り出された》
 《債権の証券化とはね、つけで飲んでいくお客の多い飲み屋の女将が、お客への請求書をいろいろ混ぜて幾つかの束に分けて、金持ちに売ることなんだよ。金持ちは請求書の束を安く買って額面通りの金額を回収すれば儲かるし、女将は現金が入って次の仕入れができるというわけ。問題は焦げ付きね。サブプライムの場合は、品のいい紳士(権威ある格付け会社)が出てきて『焦げ付きは少ないですよ』というものだから、世界の銀行や年金基金などが買ったわけ。ところが焦げ付きがひどい。あとで調べたら出てきた紳士は女将のイロだったわけ》
 《金融商品の開発には、NASAで働いていた数学者や大型コンピューターが動員され、顧客のために低利でお金を貸してくれるノン・バンクや、損をしたときに支払われる保険まででき、その上先ほどに紳士が保証したりで、至れり尽くせりの業界を創った》

 ここで突然あのケインズ先生が言った「金融業界にあっては、情報を知っている人はそれを公に書くことはできず、書くことのできる人は情報を全く知らない」という言葉を思い出す。つまりは賭け、ウォール街は今や先物取引に狂奔する巨大な賭博場と化している。
 猫の目のように変わる円相場に一喜一憂し、小さなギリシャ政府の財政不安が日本の派遣労働者の生活を破壊する。こんな理不尽・不条理が世界を覆っていて、その上、確たる改善策が全く見あたらない。現在の処方箋は、取り合えず基軸通貨としてのドルを守るために、先進国中央銀行の協調介入と公的資金の投入なのだが、これがまたジャブジャブ通貨(実物経済の数倍にもおよぶ流通通貨)の元凶で、賭博資金の供給源になっている。
 人類の英知が生みだした『信用通貨』だったが、その中に孕まれていた鬼子は、いまや巨大な『投機マネー』として育ち、制御不能な悪魔となって、アジアやロシアの通貨を弄び、先物取引で石油を食い荒らし、穀物を手玉にとり、敵対的買収という手法で大企業さえ獲物にしている。餌食になった会社は投資ファンドに経営権を奪われ、リストラと資産売却によって増配、株価が上昇したところで売り抜かれてしまう。後に残るのは破壊された地域経済とやせ衰えた会社のミイラだけである。このありさまはもはや、トゲトゲの巨大な尾をもつ妖怪が、雲に乗って人々の住む上空に現れ、暴れまわっている風景に似ている。
 世界経済のダッチ・ロールと呼ぶべきか、いや地球規模での地殻変動、地球上のすべてのプレートの境界で、すべての海溝・トラフで歪が蓄積し、一触即発へと突き進んでいるというべきか。

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