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柴田淳さん( @shibatajun )の"All Time Request BEST しばつくし"をライナノーツを読みながら聴いて

2016-03-10 14:26:15 | 趣味

 このブログ記事は,日本には稀有な歌手 「柴田 淳 (@shibatajun )」さんへのラブレターになるはずの記事である。そのことを,初めに記しておく。決して,レビューなどというものではない。

 

柴田淳さんのCDアルバムはメジャーデビューの『オールトの雲』から聴き続けている。レンタルCDを使ってコピーしたり,iTunes Storeで購入したりとメディアの入手方法は,様々であるが,オリジナルアルバムはほとんど持っている。

オールトの雲
柴田 淳
Dreamusic

 

よって,これまでに発売されたベスト盤は購入せずに来た。昨年末(2015年11月)に発売された"All Time Request BEST しばつくし”についても同様に考えていた。私のiPhoneには「柴田淳スペシャル」というプレイリストには全てのアルバムと,『リラックス」というプレイリストには,オールトの雲と最近のオリジナルアルバムの曲が入っている。

しかし,心変わりして購入した。しかも,iTunes Storeにおいて購入済みの"COVER 70's"も併せてである。できれば,"Billboard Live 2013"も買い直したかったが,予算が許さなかった。

All Time Request BEST ~しばづくし~ 通常盤(2CD)
柴田 淳
ビクターエンタテインメント

 

COVER 70’s
柴田 淳
ビクターエンタテインメント

 

柴田淳 Billboard Live 2013【通常盤】(期間限定盤)
柴田 淳
ビクターエンタテインメント

 

写真投稿サイト Instagramに『 #私を構成る9枚 』というハッシュタグがある。イイ歳のオヤジがそんなことをするのも恥ずかしいが,自分の人生を少し振り返るために作ってみた。以下のようなものになった。左上から右下に向かって,私の中での重要度が変化する。左上が重要度が大きく,左から右に,上から下に行くほど重要度が小さくなる。

今,iTunesを起動して確認したら,私のライブラリには587枚のCDアルバムが入っている。齢の割に多いほどでもないが,少ない方でもあるまい。その,587枚の中から9枚を選ぶというのは,かなり難儀なことである。

結局,50年とちょっとの人生の中で,各世代のときの自分を象徴するアルバムを選ぶことになった。そういう,9枚である。

 

私に最も影響を与えたCDアルバムは,40歳になってから聴いたAlison Krauss & Union Station(略して"AKUS"と呼ばれる)の "Live"という2枚組のライブ盤である(DVDも販売されている)。CDを聴いたとき,一体どんな人が歌っているのであろうと不思議になるほど衝撃を受けた『歌声』であった。そして,AKUSとAlison Kraussの既発のCDは全て買い揃えた。いわゆる大人買いではなく,1ヶ月に1枚というペースでである。そうでないと,一枚をじっくりと聴くことができない。

残念なことに,彼女たちは,日本ではそれほど知名度がない。だから,公演に来日したこともない。しかし,彼らは,何度もグラミー賞を受賞し,米国大統領が主宰するパーティーにおいて演奏する「御前歌手」でもある。Alison Kraussのことを,”Icon of Bluegrass"と呼ぶ人もいる。ブルーグラスミュージックのアイドル(偶像)ではなくアイコン(象徴)だというのである。彼女たちの音楽のジャンルは便宜上ブルーグラスとされてはいるが,Live を聴くと,ブルーグラスの範疇を大きく超えている。アコースティック弦楽器のみを使うポピュラー音楽として,彼女たちは,おそらく,最高峰にいる。彼女らの奏でるインスツメンタルは,ほとんど,弦楽五重奏である。Alison Kraussはフィドル(ヴァイオリン)の名奏者である。

Live (CD2枚組)
Alison Krauss & Union Stations (AKUS)
Rounder / Umgd

 

Live [DVD] [Import] 2枚組 Amazonではリージョン2を購入可能
Alison Krauss & Union Station (AKUS)
Rounder Records

 

Alison Kraussに字数を取られたが,柴田淳さんのアルバムは,#私を構成する9枚 の 6番目に"COVER 70's"がある。同時期に八神純子さんが同じようなカバーアルバムを出している。#私を構成する9枚 の4番目にある井上昌己さんも似たコンセプトのカバーアルバムを出している。しかし,柴田淳さんの声+選曲+アレンジを含めて,このアルバムが,私の少年期の70年代を一括りにまとめてくれた1枚となる。つまり,私の70年代の象徴として選んだ1枚である。

 

実は柴田淳さんをずうっと聴いていると言いながら,曲名を把握していたのは,メジャーデビューアルバム「オールトの雲」中の「ぼくの味方」だけである。

しかし,ずうっと聞いていた。それは,間違いないし,柴田淳さんが,新しいアルバムを出したと知ればすぐに聴いた。

ライブに行くのはずうっと躊躇していたが,2013年の東京都渋谷文化村オーチャードホールにおいてコンサートをすると知ったら,無性にその場に居たくなり,2階席で聴かせて頂いた。そして,2016年1月のパシフィコ横浜国立大ホールの15周年アニバサリーコンサートも聴かせて頂いた。

ただ,ライブを聴いただけで,新しいベスト盤を買おうと思ったわけではない。書斎に埋もれていたアンプとスピーカを使わないのも勿体無いので,リビングのテレビとDVDプレイヤーに繋ぎ直した。そして,ASKUSのLIVEを聴き直した。iPodが出てから,ヘッドホンで音楽を聴くことに慣れすぎてしまったが,スピーカー(高価なものでは無い)で聴くと,ヘッドホンで聴くよりも,やはり,音楽が愉しいのである。

そして,柴田淳さんのオールトの雲を聴き直した。やはり,愉しい。

 

だから,曲名と歌詞を確認しなおそうと考えて,新しいベスト盤を購入した。そして,あたかも70年代に,新しいLPレコードを買ったばかりの少年のように,ライナーノーツを読みながら,一曲ずつ聴くということを行った。こんなことをしたのは,AKUSのLIVEのCDを聴いた時以来だから,およそ,10年ぶりである。

 

そして,思った,「なぜ,私は,彼女の歌を聴き続けているのであろう?曲名も歌詞もほとんど覚えていないのに.....」。

分析をしてしまうのは,私の職業柄である。

私は,「柴田淳さんの声」が好きなのだと思っていた。しかし,声の好みであれば,上の #私を構成する9枚 にある,井上昌己さんや松たか子さんの明るい声の方が好みである。柴田淳さんの声は,良く言えば「落ち着いている声」だし,悪く言えば「暗い声」だ。

 

ライナーノーツを読みながら,なぜ,柴田淳さんの『歌』が好きなのか,やっとわかった。柴田淳さんの「音楽」は『歌』だからであった。

 

歌手なのであるから,歌を歌うの当たり前なのであるが,柴田淳さんが歌う『歌』は「和歌」や「短歌」と言われる日本固有の『歌』のことである。

これは,説明を要するであろう。

日本人は短い簡単な歌が好きである。そのスタンダードが中村八大さんと永六輔にメロディーと歌詞が計算に計算され尽くして,坂本九さんが歌った「上を向いて歩こう」であろう。

そして,その系譜に近い曲に,岡村孝子さんの「夢をあきらめないで」や岡本真夜さんの「TOMORROW」がある。ジャンルは異なるが,爆風スランプの「RUNNER」も同様だ。覚えやすい簡単なメロディに覚えやすい歌詞が載っている。

一方,日本のポピュラーミュージックには,サウンド(メロディ+リズム+コード)に歌詞を乗せるというものがある。代表的なのは,サザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」である。全く雰囲気は異なるが宇多田ヒカルさんの楽曲もそのような印象を受ける。90年代を席巻した小室哲哉さんの音楽も同様であろう。

 

しかし,柴田淳さんの『歌』はそれらの歌と,全く異なる歌の構造を持つ。

柴田淳さんの曲を楽譜として見ていないので,曲の構成を把握できていないのであるが,いわゆる「サビメロ」はある。しかし,歌詞の「サビ」がない。同じ歌詞の繰り返しがないのである。たまたまかと思って,ベスト盤のライナーノーツを全て読んだが,ベスト盤全ての歌詞に「サビ」がない。

これは,歌を覚えてもらうのに,圧倒的に不利である。しかし,他の人の楽曲にはない,柴田淳さん固有のものがある。

『韻(いん)』である。

この記事のこの部分を書いている途中のBGMとしてベスト盤を聴きなながら,ちょうど,DISK−2の3曲目「花吹雪」になっていた。

著作権的に問題はあると思うが,一部歌詞を引用させて頂く。「花吹雪」の2番の歌詞と言っていいのであろうか,以下のような言葉がある。

「桃色 花吹雪の拍手喝采が道を塞ぐ」。この部分を柴田淳さんは,

「ももいろ {は}なふぶきの {は}くしゅ {か}っさいが みちをふさぐ」と歌う。『あ』の音にアクセントをつけて,韻を踏んでいる。これは,ほんの一部分であり,「花吹雪」曲全体に「韻」が溢れている。

わかりやすいのは,冒頭の

「泣いたり,笑ったり,傷ついたり....」の部分であるが,「い」の音で韻を踏む。

これが,柴田淳さんの『歌』の心地やすさの一つであろうと思った。

これは,例として「花吹雪」を選んだけであり,他の歌も多くの韻に溢れている。

 

しかし,これだけではない。ベスト盤"All Time Request BEST しばつくし”は2枚組29曲の構成である。柴田淳さんの歌は言葉が多い。圧倒的に多い。しかし,29曲の歌詞の中で使われているカタカナ言葉(つまり外来語)は,たった9語(Word)である。容易に全て列強することができる。

Disk1

2. 「隣の部屋」中:「メロディー」

5.「月光浴」中:「コーヒー」

13.「ピンクの窓」中:「ピンク」,「ソファー」,「メール」

15.「パズル」中:「ピース」

Disk2

1.「HIROMI」中:「キス」

8.「マナー」中:「ナイフ」,「フォーク」

「LoveLetter」や「キャッチボール」とカタカナ語の曲名もあるが,それらにさえ「ラブレター」や「キャッチボール」という単語が現れない。

解析を更にすべきであろうが,柴田淳さん作った歌詞では音読みの漢字も少ないであろう。上に挙げた「花吹雪=はなふぶき」という曲名は漢字の訓読みである。つまり,『大和言葉』である。

私は,柴田淳さんの『歌』を日本語の『韻』と『大和言葉』の美しさと合わせて聴いていたのである。しかも,歌詞に「サビ」が無くである。

 

大和言葉の美しさを表す代表例が「万葉集」である。万葉集には,のちに和歌となった短歌と,その後,なくなってしまった「長歌」がある。山上憶良の「貧窮問答歌」は長歌の代表例である。

しかし,柴田淳さんの「歌」は主に恋愛を主題(しゅだい=これは音読み)としているから,「相聞歌」の長歌であることになる。

そんな『歌』をスタジオ録音のCDで聴くのとコンサートで生で聴くのに差がない。実際には,コンサートで聴く歌の方が,より素晴らしい。こんな歌手は,日本に滅多にいない!

#私を構成する9枚 の CDジャケットにおいて,AKUSのLIVEがなぜトップかというと,Alison Kraussに英語の音の響きの美しさを教えてもらったことも要因の一つである。私は,AKUSを通じて,アコースティック楽器の素晴らしさの再確認と英語の音の勉強もさせてもらったのである。

最も好きな曲は"Stay"という曲である。YouTubeのリンクを貼っておこう。この歌も「サビメロ」はあるが歌詞の「サビ」はないと言っていい歌詞である。「しばらく音沙汰しれずの人が戻ってきて,ここに残って」という歌詞である。日本語に直訳したら,つまらない歌詞になるだろう。歌詞に自分を投影するような歌ではない。

しかし,英語の韻の響きに溢れている。そして,Alison Kraussが歌うことによって,その響きは,ほとんど神のものとさえ思えてくる(私はとてつもなく徹底した,無神論者であるのにもかかわらずである)。

Alison Krauss & Union Station - Stay

 

柴田淳さんが,日本のAlison Kraussだなんて例えるつもりは全くない。異なる音楽として二人の音楽を聴いている。しかし,二人とも,本当に歌がうまく,歌詞の響きが美しい。

歌詞の言葉が美しいだけならば,先駆者はいる。さだまさしさんだ。さだまさしさんの歌詞は,純文学の世界である。だから,歌詞を叙情的なメロディに載せた。そして,一つひとつの文節を聞き取りやすいものとした。

しかし,柴田淳さんは,更に進めて,日本語の「文節」ではなく「単音」をメロディの載せた美しい歌詞なのである。

話題が少し外れるが,「万葉集」は高校の教科としては「国語」でしかも「古文」である。だから,「万葉集」に載っている『歌』の文学的意味を鑑賞しようとしがちである。しかし,「万葉集」は「歌集」である。歌ってなんぼ,と,いうものだ。だから,「国語」ではなく,教科としては「音楽」 の中で学ぶべきものである。モーツァルトやヨハン・シュトラウスのオペラのアリアと聞き比べながら,日本の古代音楽はどのようなものであったかを考えて「歌う」べきものである。

そんなことを,計算して曲作りをされているのか,本来の感覚(センスというと簡単なのだが,あえて,日本語を選ぶ)で曲作りをされているのかはわからないが,柴田淳さんの歌は,そんな『歌』であると思う。

 

このことに気づいてから,曲名が覚えられない とか, 歌詞を覚えられない ということが,困ったことではなくなった。柴田淳さんの『歌」を聴いていればいいからである。

これが,"All Time Request BEST しばつくし”を買ってよかったことである。

この,記事を書くのに,約3時間以上もかかってしまったが,書きたいことを書くのは,今の私の主義であるから,気持ちが楽になった。

 ラブレターになっているであろうか?



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