「2018年本屋大賞」受賞作である。
今年の本屋大賞は、
1次投票を、昨年(2017年)11月1日から今年(2018年)1月4日まで行い、
全国の504書店、665人の投票があった。
その集計の結果、
上位10作品が「2018年本屋大賞」ノミネート作品として決定。
この上位10作品がノミネート本として2次投票に進んだ。
そして、4月10日に、「2018年本屋大賞」が発表された。
【辻村深月】(つじむら・みづき)
1980年生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
2004年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。
『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を、
『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞。
他の著書に『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』など多数。
本屋大賞は、「全国書店員が選んだ いちばん! 売りたい本」ということで、
販売する側が、売れそうな本を選ぶようなイメージがあって、
正直、私個人としては、本屋大賞にはそれほど関心がなかった。
だが、気になることは気になるので、
〈どんな本なんだろう……〉
と、一応図書館に予約してみる。
受賞作でなかったら、絶対手に取らないような本が多いのだが、
読んでみると、案外面白い。
で、昨年も、一昨年も、受賞作のレビューを書いている。
(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
「2017年本屋大賞」受賞作『蜜蜂と遠雷』(恩田陸)
「2016年本屋大賞」受賞作『羊と鋼の森』(宮下奈都)
「2018年本屋大賞」受賞作の『かがみの孤城』も、
読んでみたら、とても面白かった。
で、今年もレビューを書く気になったのである。
中学1年生の安西こころは、
ある出来事を機に学校へ行けなくなり、
いつも家で過ごしている。
ある日、一人で家にいると、部屋の鏡が突然輝き始め、
鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物だった。
「安西こころさん。あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれました!」
6歳か7歳くらいの狼のお面をつけた女の子が言う。
城の管理人とおぼしきその少女は、「“オオカミさま”と呼べ」と胸を張る。
城に集められたのは、こころを含め、似た境遇にいるらしき中学生が七人。
ジャージ姿のイケメンの男の子「リオン」中学1年生。
ポニーテールのしっかり者の女の子「アキ」中学3年生。
眼鏡をかけた声優声の女の子「フウカ」中学2年生。
ゲーム機をいじる生意気そうな男の子「マサムネ」中学2年生。
『ハリーポッター』のロンみたいなそばかすの物静かな男の子「スバル」中学3年生。
小太りで気弱そうな男の子「ウレシノ」中学1年生。
そして、中学1年生の女の子「こころ」。
午前9時から午後5時まで滞在が許されるその城で、
彼らにはひとつの課題が出される。
「お前たちには今日から3月まで、この城の中で、“願いの部屋”に入る鍵探しをしてもらう。見つけたヤツ一人だけが、扉を開けて願いを叶える権利がある。つまりは、“願いの鍵”探しだ」
そして、こうも付け加える。
「ちなみに、毎日城が開くのは、日本時間の朝九時から夕方五時まで、だから、五時までには鏡を通って必ず家に帰ること。これは絶対守らなきゃならないルールで、その後まで城に残っていた場合、お前らには恐ろしいペナルティがある」
そのペナルティとは、「狼に食われる」ということ。
巨大な狼が出てきて、頭から丸のみするのだという。
戸惑いながらも七人は、
少しずつ心を通い合わせていくのだが……
読み始めると、
なんだかライトノベルのような文体だし、
私の苦手なファンタジーっぽい小説だったし、
しかも554頁もあるので、
〈ちょっと無理かな?〉
と思った。
老い先短い身なので、(笑)
無駄な時間を過ごしたくない。
そう思いながらも、
〈「本屋大賞」受賞作だから、きっと良い部分がある筈……〉
と思いながら読み進めると、次第に面白くなってきた。
この『かがみの孤城』は、
第一部・様子見の一学期
五月
六月
七月
八月
第二部・気づきの二学期
九月
十月
十一月
十二月
第三部・おわかれの三学期
一月
二月
三月
閉城
エピローグ
と、構成されており、
第一部のときは、読む方も「様子見」のような感じなのだが、
第二部になると、まさにいろいろなことに「気づく」ようになり、
第三部に至ると、頁をめくる手が止まらなくなった。
この小説と「おわかれ」したくなくなっているのだ。
そして、ラスト20頁(534~554頁)は、涙が止まらなくなった。
十代を中心とした青少年向けの小説と思っていたのだが、
このラストにきて、全世代に向けて書かれた小説であることに気づかされた。
若い人とは感動するポイントが違っているかもしれないが、
60代の私だからこそ気づくことができた部分があったし、
本当に、読んで良かったと思った。
この小説は、読む前に、あまり予備知識を入れない方がイイ。
その方が、より感動が大きくなると思う。
だから私も、最小限のことしか書いていない。
この小説を読み終えたとき、
周囲を見渡してみると、ちょっぴり世界が変わっているような気がした。
風景だけでなく、
私の近くにいる人たち、
たとえば配偶者、子供たち、孫たち、友人、知人、会社の同僚など、
縁あって私と繋がっている人々のことが、
前よりも一層愛おしく思えるようになっているのだ。
この不思議な体験を、みなさんにもぜひ味わってもらいたい。
デビューして二作目を書く時、誰に向けて書いたらいいのか分からなくなってしまった時、編集者に“作家はたった一人の信頼できる読者のために書けばいい”と言われたんです。その言葉は今も私の指標になっているのですが、デビューして十年が過ぎて、その信頼できる読者って誰なのか考えると、やっぱり十代の時の、いちばん厳しい目を持ち、強く渇望して本を読んでいた時の自分なんです。もしもタイムマシンであの頃の自分に一冊だけ自分の小説を渡せるなら、この『かがみの孤城』を渡したい。
と、辻村深月は語っているが、
タイムマシンがあったら……のくだりを書店に配るPOPにも書いたところ、
大人の読者から、
「タイムマシンはないけれど、私には届きました」
と言われ、
泣きそうになりました。頑張って書いてよかったです。
と、告白している。
そういう意味では、60代の私にもしっかり届いた小説であった。
ぜひぜひ。