一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』 ……女性映画の傑作……

2018年04月03日 | 映画


昔からメリル・ストリープが好きで、
彼女が出演する映画は極力見るようにしている。
3月30日(金)に公開されたばかりの『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』も、
メリル・ストリープが主演しているので、見たいと思っていた。
共演はトム・ハンクスで、
監督は、かのスティーブン・スピルバーグ。


内容は、ジャーナリストたちの命懸けの戦いを描いた作品とのこと。
弥が上にも期待は高まるではないか!


で、公開初日に、
会社の帰りに映画館に駆けつけたのだった。



1971年、
ベトナム戦争が泥沼化し、
アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。


国防総省は、ベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、
戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
ある日、その最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」が流出し、
ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。


ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、
焦るワシントン・ポスト紙。


夫の死で、ワシントン・ポストのトップを引き継いだ、
アメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と、


編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、


残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。


真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。


しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。
保守的なワシントン・ポストの役員たちは猛反対。


会社を失い、全社員が職を失うかもしれない。
政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか?
報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた……




いや~、面白かったです。
「これぞアメリカ映画」っていう感じで、
シンプルで解り易い映画であった。
スティーブン・スピルバーグの作品といえば、大まかに言うと、
『未知との遭遇』や『E.T.』などの一種のファンタジーか、
『シンドラーのリスト』や『リンカーン』などの歴史的な事実に基づいた作品かに二分されるが、
本作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は後者に区分されるものの、
これまでのような“歴史的な事実に基づいた作品”にみられた複雑さやあざとさがなく、
構造がシンプルで、極めて単純化された作品であった。
これは、スティーブン・スピルバーグが、
トランプ政権誕生の瞬間に映画化しようと決意し、
9ヶ月ほどの短期間で創り上げたことと関係している。
トランプをニクソンになぞらえ“完全悪”として描き、
事の本質を極めて解り易く観客に差し出しているからだ。

似たような作品に、
一昨年(2016年4月15日)公開された『スポットライト 世紀のスクープ』があるが、
こちらは、ボストン・グローブ紙の記者たちが、
カトリック教会のスキャンダルを暴いた実話を映画化したものであったが、
とても面白くて、このブログにもレビューを書いている。(コチラを参照)
この『スポットライト 世紀のスクープ』で第88回アカデミー賞脚本賞を受賞したジョシュ・シンガーが、
本作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』でも脚本も担当しているのだ。
(脚本にはもう一人リズ・ハンナという若い女性も参加している)
面白くならないワケがない。


1960年代のジャーナリズムといえば、“男の世界”であり、
“男の戦場”というイメージであるが、
本作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は、
女性経営者が少なかったこの保守的な時代に、
勇気ある行動で時代を切り開いていく、
キャサリン・グラハムという女性を主役に描いた“女性映画”であった。
そう書けば、とても勇敢な女性を思い浮かべるかもしれないが、
このキャサリン・グラハムは違う。
自殺した夫のあとを仕方なく引き継いだだけの、
これまで経営とは無縁だった主婦であるからだ。
“男の世界”である新聞業界では彼女の意見は軽んじられ、
彼女自身も大いに悩み、なかなか決断することができない。
経営者としての経験も自信も乏しい彼女が、
国家権力との対立によって“会社の存亡の危機”に直面し、
人生最大の決断をすることによって、
女性として、人間として“成長”していく姿を本作は描いているのだ。


このキャサリン・グラハムを演じているメリル・ストリープが実に好い。


演技が上手すぎる故に、ややもすれば「あざとい」と言われたりしてきたが、
この『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』では、
これまでのメリル・ストリープとはまったく違った演技をしていて驚かされた。
実に淡々と演じているのだ。
物足りないほどに……(笑)


編集主幹ベン・ブラッドリーを演じたトム・ハンクスも、
これみよがしな演技はせずに、こちらも極力抑えた演技をしている。


だから、メリル・ストリープとトム・ハンクスの“演技合戦”を期待していた人には、
ちょっと拍子抜けするかもしれない。
だが、これが好いのだ。
あとからジワジワくるのだ。(笑)
あとになって、あれはまさに“演技合戦”であったのだと気づかされるのだ。


ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)の妻や、


その娘も重要な役であったし、


ラスト近くで、裁判所で若い女性がキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に話しかけるシーンも印象に残る。
そして、裁判所からキャサリン・グラハムが出てくるラストシーンでは、
深い感動があった。
私が“女性映画”という所以である。
それを確かめるためにも、映画館へぜひぜひ。

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