一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『瞳の奥の秘密』 ……この作品の前では、誰もが黙り込むしかない……

2011年01月06日 | 映画
エンドロールが終わり、館内が明るくなっても、私はしばらく動けなかった。
それほど、この映画の私に与えた衝撃は大きかった。
すごい作品であった。
派手なアクションシーンがあったワケではない。
目を覆いたくなるほどの残酷なシーンがあったワケでもない。
フィルム・ノワールのようでいて、それとはまったく違う。
話は謎を追ってむしろ淡々と進行してゆく。
だが、ラストに凄い衝撃が待っている。
……このラストには激しく心を揺さぶられる。
ミステリーとしても一級品なのだが、
ラブストーリーとしても一級品。
しかも、この作品には、いくつもの「愛の形」がちりばめられている。
百戦錬磨の「愛の達人」であろうが、
巷で噂の「愛の伝道師」であろうが、
この作品の前では、誰もが黙り込むしかない。
それほどの「愛」がここにはある。
我々が普段論じている「愛」が、いかに軽いものであったかを思い知らされるのだ。


【ストーリー】
刑事裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)は、仕事も家族もない孤独な時間と向き合っていた。
残りの人生で、25年前の殺人事件を題材に小説を書こうと決意し、久しぶりに当時の職場を訪ねる。
出迎えたのは、彼の元上司イレーネ・ヘイスティングス(ソレダ・ビジャミル)。
変わらずに美しく聡明な彼女は、今や検事に昇格し、2人の子供の母親となっていた。


彼が題材にした事件は1974年にブエノスアイレスで発生したもの。
幸せな新婚生活を送っていた銀行員リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)の妻で23歳の女性教師が、自宅で暴行を受けて殺害されたのだ。
現場に到着したベンハミンは、その無残な遺体に衝撃を受ける。
やがて、捜査線上に1人の男が容疑者として浮上。
その男はリリアナの幼なじみ。
古い写真に写った、彼女を見つめる彼の瞳には暗い情熱が宿っていた。
ベンハミンは部下で友人のパブロ・サンドバル(ギレルモ・フランチェラ)と共に、その男の居場所を捜索。


だが、判事の指示を無視して強引な捜査を行ったことで、事件は未解決のまま葬られることとなってしまう。
そして1年後。
ベンハミンは駅で偶然、モラレスと再会。彼は毎日、曜日ごとに駅を変えて容疑者が現れるのを待っていた。
彼の深い愛情に心を揺さぶられたベンハミンは“彼の瞳を見るべきだ。あれこそ真の愛だ”と、イレーネに捜査の再開を嘆願。
ベンハミンとパブロはようやく容疑者逮捕の糸口を掴み、事件の真相に辿り着くが……。


25年後、タイプライターを前に自分の人生を振り返るベンハミンに、イレーネの存在が鮮やかに甦る。
いまだ過去に生きる自分と決別するために、彼は事件の裏側に潜む謎と、今も変わらぬイレーネへの想いに向き合うことを決意する。
果たして、ベンハミンは失った歳月を取り戻すことができるのだろうか……?
(ストーリーはgoo映画より引用し構成)


この作品、アルゼンチン・スペイン合作映画であり、
2010年アカデミー賞の最優秀外国語映画賞受賞作品である。
普段はあまり目にしないスペイン語圏の映画ではあるが、今回見ることができたのは、やはりアカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞のおかげと言えるかもしれない。

監督は、ファン・ホセ・カンパネラ。
1959年、アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。
アメリカで人気ドラマシリーズも手掛けているほどの実力派である。
(写真左の人物)


主演のベンハミン・エスポシトを演じたリカルド・ダリン。


ベンハミンの元上司イレーネ・ヘイスティングスを演じたソレダ・ビジャミル。


両人とも日本ではあまり知られていないが、どちらもアルゼンチンの国民的俳優だ。
映画では、25年前と現在を交互に映し出すのだが、それぞれがひとりで過去と現在を完璧に演じ分けている。
特に、イレーネを演じたソレダ・ビジャミルは、初々しい少女ような表情から、初老に入りかけた女性のたたずまいまでを見事に演じきり、私はすっかり魅了された。


……この作品、もうこれ以上の予備知識は必要ない。
語りたいことは山ほどあるのだが、今は語るまい。
ただ見てもらうだけでいい。

だが、残念なのことに、佐賀での上映は明日まで。
福岡、長崎などでは、もうすでに公開を終えている。
残念!
【佐賀】シアター・シエマ 1月7日(金)まで。
【大分】日田リベルテ 1月15日(土)~1月28日(金)
【宮崎】宮崎キネマ館 1月8日(土)~1月28日(金)
山登りに行ったついでに、日田あたりで見るのもイイかな~と思います。
ぜひぜひ。

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