一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『今度は愛妻家』 …エンドロールの時に席を立つ人が一人もいなかった…

2010年01月28日 | 映画
大抵の男はそうだと思うのだが、愛している人に対して素直に「愛している」とはなかなか言えないものだ。
もし「言える」という男がいたならば、あるいは、いつもそう言われているという女がいたならば、その男、もしくはその女の相手の男は、かなり信用できない奴と思って間違いない。(言い切るか~)
(外国人の男はともかく…)日本の男は愛情をうまく伝えられない不器用な奴が多い(と思う)。
かく言う私もその一人だ。(コラコラ)
だが、言わないから……伝えられないからといって、「愛していない」ことにはならない。
いや、むしろ、「愛してる」を連発する奴よりも、言わない奴の方が愛は深いかもしれない。(きっとそうだ)
この映画の主人公・北見俊介(豊川悦司)も、妻・さくら(薬師丸ひろ子)に愛情をうまく伝えられない不器用な男だ。


職業はカメラマン。
だが、結婚10年目のクリスマスに、妻に半ば強引に連れて行かれた沖縄旅行から一年、かつては売れっ子カメラマンとして名も実力もあった俊介だが、今はまったく写真を撮ることができないでいた……


と、ストーリー紹介は、これ以上はしない。(オイオイ)
この作品に限っては、その方が映画を見たときの感動が大きいと思うからだ。

映画を見終わっての感想は、構成がしっかりしていて、会話が素晴らしいということ。
この作品は、ほとんど家のなかとその周辺だけで物語が進んでいくので、脚本も良くできてるし、「演劇向きの作品だな~」と思っていたら、後から調べてみると、私が思ったのとは逆で、舞台を映画化したものだった。(お恥ずかし~)
鴻上尚史率いる劇団サードステージ【第三舞台】が、中谷まゆみ原作の『ビューティフル・サンデー』『ペーパー・マリッジ』に続く第3弾として2002年に上演した同名舞台を、行定勲監督が映画化したものだったのだ。(知らなかった~)
上映時間2時間11分。
ラストまでまったく飽きさせない。
薬師丸ひろ子目当てに見に行った私は、予想外の「驚き」と「感動」をもらい、そして、作品の3分の2を過ぎたあたりからは涙が止まらず、困ったことを正直に告白しておこう。


薬師丸ひろ子。
かつてはアイドル的存在だった彼女も、もう45歳。
角川映画を経て、近年は、
鈴木清順監督作品『オペレッタ狸御殿』(2005)、
日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)、
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007)
などの話題作に出演、日本を代表する女優に成長した。
この映画でも、透明感のある美しさはそのままに、時にコミカルさも見せ、素晴らしい演技で作品を感動的なものにしている。


豊川悦司。
ここ数年、大袈裟な演技が目に付き、ややウンザリしていたのだが、この作品の彼はなかなか良かった。
この作品では、いろんな意味で(それは映画を見てもらえば解る)、複雑な感情を表現しなければならず、それを見事に演じていた。


「被写体に興味があればある程、良い写真がとれるんだよね」との彼のセリフはけだし名言。
美しく撮ってもらいたいと思っているあなた、美しく撮ってもらいたかったら、あなたのことに興味を持っている人、あなたのことを好きな人に撮ってもらうのが最善の方法なのですよ、ハイ。(おっといけねぇ、余計なことを書いちまった)


石橋蓮司。
オカマの原文太(ブンちゃん)役なのだが、彼なくしてはこの作品はありえなかったと思わせるほどの存在感があった。
今年の最優秀助演男優(?)賞にノミネート間違いなしの怪演、いや快演であった。


その他、水川あさみ、濱田岳、井川遥の演技が光っていた。
行定勲監督の演出も冴え、すれっからしの大人の鑑賞にも堪えうる作品に仕上がっている。


この作品では、井上陽水が、主題歌として新曲「赤い目のクラウン」を書き下ろしており、その曲が最後に流れる。
イントロだけで、ゾゾ~と鳥肌が立ち、
陽水の歌声、それから歌詞の内容の深さで、躰が震えた。
エンドロールの時に席を立つ人が一人もいなかったのは、私にとっては久しぶりの体験であった。


あっ、それから、映画館を出る時に思ったのは、前言をひるがえすようだけど、自分の大切な人にもし「愛してる」や「ありがとう」を言いたいのであれば、「今度」とは言わずに、今すぐ言っておいた方がいいかな……ってこと。
理由は……映画を見て、ね。

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