一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『騙し絵の牙』……吉田大八監督の面白過ぎる傑作エンターテインメント……

2021年04月02日 | 映画


吉田大八監督作品である。


長編劇場用映画としては、これまで、
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007年)
『クヒオ大佐』(2009年)
『パーマネント野ばら』(2010年)
『桐島、部活やめるってよ』(2012年)
『紙の月』(2014年)
『美しい星』(2017年)
『羊の木』(2018年)
の7作品があるが、
いずれも秀作、傑作揃いで、ハズレがない。
題材も多岐にわたっており、
本谷有希子が主宰する劇団「劇団、本谷有希子」のブラック・コメディの舞台劇の映画化、
実在した結婚詐欺師の物語、
田舎の漁村にある唯一の美容院を舞台にした西原理恵子の漫画作品の実写映画化、
朝井リョウによる日本の青春小説の映画化、
角田光代のサスペンス小説の映画化、
三島由紀夫のSF的な小説の映画化、
元受刑者を地方都市に移住させるという国の極秘更生プロジェクトを描いた山上たつひこ原作、いがらしみきお作画の漫画の実写映画化など、
なんでもござれで、
どんなジャンルの映画でも料理してみせる力を持った監督だ。
その上、味も極上。
新作『騙し絵の牙』(2021年3月26日公開)は、
「罪の声」などで知られる作家の塩田武士が、
大泉洋をイメージして主人公を“あてがき”した同名小説を、
その大泉洋の主演で映画化したもので、
廃刊の危機に立たされた雑誌編集長が、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿を描いたエンターテインメント作品。
塩田武士の小説と、主演の大泉洋を、吉田大八監督がどう料理しているのか、
ワクワクしながら映画館に駆けつけたのだった。



大手出版社「薫風社」に激震が走った。
かねてからの出版不況に加えて、創業一族の社長が急逝し、
次期社長を巡って権力争いが勃発。
専務・東松龍司(佐藤浩市)が進める大改革で、
お荷物雑誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水輝(大泉洋)は、
無理難題を押し付けられ廃刊のピンチに立たされる。


速水は、
薫風社の看板雑誌「小説薫風」から新人編集者・高野恵(松岡茉優)を引き抜き、


イケメン作家・矢代聖(宮沢氷魚)、


大御所作家・二階堂大作(國村隼)、


人気モデル・城島咲(池田エライザ)を軽妙なトークで口説きながら、


「トリニティ」の副編集長・柴崎真二(坪倉由幸)、


「小説薫風」の編集長・江波百合子(木村佳乃)、


薫風社の常務・宮藤和生(佐野史郎)など、


次々と現れるクセモノたちとスリリングな攻防を繰り広げていく。
嘘、裏切り、リーク、告発。
クセモノたちの陰謀が渦巻く中、
速水が生き残りをかけた“大逆転”の奇策を仕掛ける……




ワクワクしながら映画館に駆けつけ、
(文字通り)ワクワクさせてもらい、大いに楽しませてもらった作品であった。
正直、これほど楽しませてくれるとは思わなかった。


出版業界を舞台とした映画の、
『舟を編む』(2013年)
『バクマン。』(2015年)
『SCOOP!』(2016年)
出版業界を舞台としたTVドラマの
「重版出来!」(2016年4月12日~6月14日、TBS)
「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」(2016年10月5日~12月7日、日本テレビ)、
「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(2021年1月12日~3月16日、TBS)
などの面白さを掛け合わせて、エキスを抽出したような作品であった。
〈さすが、吉田大八監督!〉
と感嘆したことであった。


私自身が出版業界の片隅にいた若き頃(約40年前)は、
雑誌全盛の時代で、
次々と新しい週刊誌や月刊誌が刊行され、
出版業界そのものに活況があり、実に楽しい時代であった。
ネット社会となった現代は、
記事も画像もネットで簡単に手に入れられるようになり、
雑誌も本も売れない時代になっている。
そんな中で、
なんとか売れる雑誌を作ろうとする出版社の社員たちの奮闘ぶりに感動させられたし、
「面白さ」とは何かを追求し、突き詰めていく過程にワクワクさせられた。



「トリニティ」の編集長・速水輝を演じた大泉洋。


原作が、大泉洋を主人公に“あてがき”しただけあって、
速水という男の特徴を巧く捉え、表現しており、感心させられた。
ずるがしこさがありつつも、良い雑誌を作ろうとする強い意志も感じられ、
“軽さ”と“真面目さ”のサジ加減が絶妙であった。
吉田大八監督から、
「いまのは大泉さんぽいからNG」
と、言われたこともあったそうで、

私をあてがきした原作で、私が演じた芝居を「いまのは大泉さんぽいから、もう一回」って。なにがいけないんだ!

と、舞台挨拶で憤慨し、会場を大爆笑させていたが、
大泉洋の持ち芸(?)であるボヤキは封印し、
面白いと思ったらすぐ行動に移す直情型の編集長を熱く演じていて、秀逸であった。



新人編集者・高野恵を演じた松岡茉優。


『桐島、部活やめるってよ』(2012年)以来、9年ぶりの吉田大八監督作品であったが、
クセモノ揃いの登場人物の中で、
唯一、“誠意”の塊のようなヒロイン・高野恵という新人編集者を、
真摯に、丁寧に演じており、素晴らしかった。
大泉洋が演ずる速水との掛け合いも見事で、
本作の見所のひとつになっている。


松岡茉優という女優の、ここ数年の充実ぶりは目覚ましく、
大九明子監督作品『勝手にふるえてろ』(2017年)主演
是枝裕和監督作品『万引き家族』(2018年)カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞
石川慶監督作品『蜜蜂と遠雷』(2019年)主演
白石和彌監督作品『ひとよ』(2019年)
行定勲監督作品『劇場』(2020年)主演(山﨑賢人とW主演)
など、評価の高い作品で、重要な役にキャスティングされており、
才能ある監督たちに、いかに愛されているかが判る。
そこに、吉田大八監督作品『騙し絵の牙』も加わったことで、
彼女の評価は一段と高まることだろう。
今後の活躍に期待が高まる。



國村隼、佐藤浩市、佐野史郎、木村佳乃など、
主要キャストの演技はもちろん、
謎の男を演じたリリー・フランキー、(大好き!)


文芸評論家を演じた小林聡美、(吉田大八監督作品『紙の月』での名演)


高野恵(松岡茉優)の父親を演じた塚本晋也(『鉄男』『野火』『斬、』などの監督)、


「トリニティ」の編集部員を演じた石橋けい、
(私がここ数年注目している女優で、『ハード・コア』『あのこは貴族』などにも出演)




外資ファンド代表を演じた斎藤工など、


(出演シーンは短いものの)個性的な俳優陣の演技も素晴らしく、
吉田大八監督らしい演出にも唸らされた。



私が、本作『騙し絵の牙』を見たいと思った理由は、
吉田大八監督作品だから……と、
好きな大泉洋、松岡茉優、リリー・フランキー、石橋けいなどが出演しているから……
なのだが、
もうひとつ理由があって、
それは、池田エライザが出演していたから。


私が、人気モデルであった池田エライザを、“女優”として認知したのは、
土屋太鳳主演の映画『トリガール!』(2017年9月1日公開)においてだった。
そのレビューで、私は次のように池田エライザを論じている。

土屋太鳳以外では、
土屋太鳳とは正反対の役柄で、
冷静沈着な島村和美を演じた池田エライザが良かった。



ファッションモデルでもあり、女優でもある彼女だが、
池田エライザを一躍有名にしたのは、「エライザポーズ」と言われる自撮り写真。



口元をつまんで唇を尖らせたポーズをとった写真をTwitterのアイコンにしたのをきっかけに、
2014年中ごろから話題になり中高生の間で流行し、
現在も定番のポージングとして流行っている。



本作『トリガール!』では、
ファッションモデルをしているときのような濃いメークではなかったし、



鳥山ゆきな(土屋太鳳)とは真逆な役柄だったこともあって、
そのナチュラルさがとても良かったし、好感が持てた。



まだ映画出演は少ないが、
これからの活躍が大いに期待できる女優だとう思う。



その後、池田エライザはいつも気になる存在であったのだが、
私をいちばん驚かせた出来事が昨年(2020年)起きた。
それは、彼女が『夏、至るころ』(2020年12月4日公開)という映画の“監督”をしたこと。


池田エライザが10代で上京した自身のエピソードを基に撮りあげた半自伝的作品で、
自然あふれる福岡県田川市を舞台に、
2人の男子高校生が初めて自分の人生と向き合い、
それぞれの一歩を選び取るまでを描いた青春映画。


佐賀県での上映がなかったので、見ることはできなかったが、
ブルーレイディスクが発売されたら絶対に鑑賞しようと思っている。


最近は、歌手、


司会、


スチールカメラマンとしても活躍しており、
その多才ぶりに驚かされる。


もちろん、女優としても引っ張りだこで、
本作『騙し絵の牙』でも、
ファッションモデルとして活躍しながら、裏で別の顔を持っているという、
ミステリアスで謎めいた女性を、実に魅力的に演じていた。


池田エライザが、今後、どんな活躍を見せてくれるのか、
ワクワク感が止まらない。
(インタビューの後に、『騙し絵の牙』の予告編あり↓)

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