一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『娼年』 ……セックスによって心身ともに解放されていく女性たち……

2018年07月10日 | 映画


原作は、
2001年の直木賞候補となった、
“娼夫”として生きる男を主人公に性の極限を描いた石田衣良の小説『娼年』。


2016年8月に、
三浦大輔演出、松坂桃李主演で舞台化され、
俳優陣が観客の目の前で一糸まとわず演技するという、
センセーショナルな内容で話題騒然となり、
全公演「即ソールドアウト」の伝説的な舞台となった。


その三浦大輔・松坂桃李コンビで、原作を映画化したのが、
本日紹介するR18の衝撃作『娼年』である。
今年(2018年)の4月6日に公開された作品であるが、
公開日には、佐賀での上映館は無く、
〈福岡まで見に行かなければならないか……〉
と思っていたら。
イオンシネマ佐賀大和で、
6月22日(金)から7月5日(木)まで2週間限定上映されることが判り、
2ヶ月半待って、
先日、ようやく見ることができたのだった。



リョウと呼ばれている森中領(松坂桃李)は、


東京の名門大学生。
日々の生活や女性との関係に退屈し、
バーでのバイトに明け暮れる無気力な生活を送っている。


ある日、
ホストクラブで働く中学の同級生・シンヤこと田島進也(小柳友)が、
ホストクラブの客・御堂静香(真飛聖)を、領が働くバーに連れてくる。
「女なんてつまんないよ。セックスなんて、手順が決まった面倒な運動です」
と言って、恋愛や女性に興味を示さないリョウに、
静香は、「バーの閉店後に店の前で待ってて欲しい」と書き残して立ち去る。
閉店後、車で迎えに来た静香は、
リョウがどんなセックスをするのかをテストするという。
それは、静香が手がける会員制ボーイズクラブ、「Le Club Passion」に入るための、
“情熱の試験”であった。


ひとりよがりなリョウのセックスを見た静香は「不合格」の判断を下すが、
セックスの相手を務めた静香の娘・咲良(冨手麻妙)が、
リョウのセックスを気に入ったことから、一転「合格」となり、
リョウは静香の店で働くことになる。
“娼夫”として働き始めたリョウは、
最初こそ戸惑ったものの、
女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不思議さや奥深さに気づき、
心惹かれ、やりがいを見出していく……




原作も読んでいなかったし、
予備知識もほとんどなく映画を見たので、
本当に“衝撃作”であった。(笑)
大袈裟に言えば、「全編セックスシーン」と言ってもいいほどの内容で、
しかも、そのセックスシーンが、
これまでTVや映画で演じられてきたような(ありきたりな)ものではなく、
「AV(アダルトビデオ)か?」
「実際にヤッちゃってるんじゃない?」
と思わずツッコミたくなるほどの激しいものであったのだ。
私自身もそれほどAVを観たワケではないが、(オイオイ)
松坂桃李が加藤鷹やチョコボール向井のように見えてきて仕方なかった。(爆)


こんな風に書くと、
〈じゃ、見に行ってみようか……〉
と思う(助平な……否、好奇心旺盛な)人もいるかもしれないが、
そんな(助平な……否、好奇心旺盛な)人の期待を裏切るようで申し訳ないが、
これが本物のAVのような欲情を煽るようなものではないのだ。
いやらしさがなく、(ホンマかいな?)
清潔感させ漂っており、
様式美さえ感じさせるのだ。
それは、松坂桃李という男優から醸し出される雰囲気もあると思うが、
調べてみると、
演出法にも工夫が凝らされていたのだ。
本作の全てのセックスシーンは、
事前に画コンテを作成し、
それを基に、
スタンドイン(撮影の準備のために俳優の代理をする人物)によるビデオコンテを作成し、
さらに松坂桃李ら出演者による入念なリハーサルを実施していたのだ。

ひとつひとつの行為によって、どういう感情が沸き起こり、それを積み重ねることによって、人間と人間の間にどういうコミュニケーションの形が生まれるのか、丁寧に細かく、その解像度を高めて、描いていきました。

と語るのは、三浦大輔監督。


リョウと女性たちが織りなす物語は、
単なる性行為、性表現ではなく、
「人と人との本質的なコミュニケーション」
なのだ。
リョウは、女性たちと体を重ねながら、
自分を買った女性たちの欲望を引き出し、
彼女たちを心身ともに解放していく。
そして、自らも人間として成長していく……



主人公のリョウこと森中領を演じた松坂桃李。


このブログの『孤狼の血』(2018年5月12日公開)のレビューで、

数年前までは、単なるイケメン俳優であったが、
ここ2~3年、意識していろんな役に挑戦しているのが判る。
『ユリゴコロ』(2017年9月23日公開)
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年10月28日公開)
『不能犯』(2018年2月1日公開)
『娼年』(2018年4月6日公開)
など、難役に挑む姿勢は評価に値する。
その挑戦する志の最初の到達点が、本作『孤狼の血』と言えるかもしれない。


と書いたが、
この時点では、まだ『娼年』を見ていなかった。
もし見ていたら、最後の文章はちょっと違っていたような気がする。

……など、難役に挑む姿勢は評価に値する。
その挑戦する志の最初の到達点が、『娼年』と言えるかもしれない。


と。
『孤狼の血』の続編の映画化も決定しており、
その続編『凶犬の眼』の主人公は日岡秀一(つまり松坂桃李)である。
『孤狼の血』『娼年』を経た松坂桃李は、
『凶犬の眼』で、さらに進化した男優として我々の前に立ち現れるだろう。
期待して待ちたい。



会員制ボーイズクラブ『Le Club Passion』のオーナー・御堂静香を演じた真飛聖。


舞台版では、高岡早紀が演じていた役であるが、
評判は耳にしていたものの、真飛聖自身は舞台は観ていないそうだ。
リョウと様々な女性たちとの“性描写”ばかりがクローズアップされていたので、
御堂静香役でオファーがきたときは不安の方が大きかったとのこと。
台本を一度読んでも完全に作品のことを理解することができず、
原作を読み、さらに台本を読み、
何度も原作と台本を読み込んでいく中で、
“性描写”の奥のあるものが見えるようになってきたという。
女性の誰もが持っている欲望、
人が心の中に抱えている切なさなど、
もっと繊細なところにテーマがあることに気づいたとき、
突然、涙が溢れてきたそうだ。
そのとき、
〈この作品に是が非でも携わりたい〉
と心から思ったとのこと。
御堂静香という女性は、
一見クールで、強い女性に見えるものの、
切ない過去を隠しているという役柄であるが、
それが、元宝塚歌劇団花組トップスターである真飛聖にピッタリで、
素晴らしいキャスティングであったなと感心させられた。



その他、リョウと関わる女性たちの演技も良かった。

リョウのゼミの同級生・白崎恵を演じた桜井ユキ。


静香(真飛聖)の娘・咲良(生まれつき耳が聞こえない)を演じた冨手麻妙。


ある特殊な状況で性的快感を得るというイツキという女性を演じた馬渕英里何。


セックスレスの主婦を演じた荻野友里。


わけありの泉川夫妻の妻・紀子を演じた佐々木心音。


リョウを翻弄する大人の女性・ヒロミを演じた大谷麻衣。


謎めいた老女を演じた江波杏子。


リョウと関係を持つことで、
心身ともに解放されていく女性たちを、
それぞれが実に巧く演じていた。


極私的には、特に、
『四十九日のレシピ』での演技が素晴らしかった荻野友里と、


『最低。』で「一日の王」映画賞の主演女優賞を(森口彩乃、山田愛奈と共に)受賞した佐々木心音に注目していたが、
期待に違わぬ演技で、私を“大満足”させてくれた。



時に笑わされ、時に泣かされ、
そして、感動させられるセックス・エンタテインメント作品であるが、
すべてを脱ぎ捨てることで得られる(女性としての)あらゆる歓びが表現されているという意味で、
女性映画でもある。
私が見に行ったときも、観客は女性が多かった。
私としても、男性よりも女性に薦めたい作品である。
ぜひぜひ。

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