門脇麦という女優が好きである。
門脇麦という女優を強く意識したのは、5年前、
初の単独主演作『二重生活』(2016年6月25日公開)のときで、
そのレビューで、私は次のように記している。
門脇麦という女優を、ここ数年、
TVドラマやTVCMや映画などで度々見かけるようになり、
その独特の存在感に、強く惹かれるようになった。
NHK連続テレビ小説『まれ』(2015年4月6日~9月26日)では、
ヒロインの希の義理の妹で親友の寺岡(津村)みのり役であったが、
人気が出た土屋太鳳や清水富美加とは、また一味違った魅力があり、
いつの頃からか、
脇役ではない主演の作品(映画)を見たいと思うようになった。
映画では、過去に、
『スクールガール・コンプレックス~放送部篇~』(2013年)
という作品で、森川葵と共にW主演したことがあったが、
単独主演作がまだなかったからだ。
そこへ、今年になって、
「門脇麦の単独主演作」
というふれこみの映画『二重生活』が、
(2016年)6月25日から公開されるという情報が飛び込んできた。
(中略)
これは私が感じた印象であるが、
映画の9割は門脇麦がスクリーンに映っていたような気がする。
それほど、岸善幸監督は、門脇麦を、
あらゆる場面で、あらゆる角度から撮っている。
まるで、門脇麦のPVのようでもある。
ちょっと失礼な言い方になるかもしれないが、
門脇麦は完璧な美人ではない。
美人は美人なのだが、
完璧に顔が整った美人ではない。
だからこその魅力が、門脇麦にはある。
随分と失礼なことを書いているが、(笑)
私は門脇麦を実に魅力的な女優だと思っているのである。
虚ろな目や厚めの唇が山口百恵や小松菜奈に似ているし、
清野菜名、石橋静河、コムアイ(水曜日のカンパネラ)など、
私の好きな女優、アーティストに似ている部分もあり、
好みの顔の要素が門脇麦の顔にギュッと詰まっているのである。(コラコラ)
『二重生活』の後の作品、
『14の夜』(2016年12月24日公開)
『彼らが本気で編むときは、』(2017年2月25日公開)
『世界は今日から君のもの』(2017年7月15日公開)主演
『花筐/HANAGATAMI』(2017年12月16日公開)
『サニー/32』(2018年2月17日公開)
『止められるか、俺たちを』(2018年10月13日公開)主演
『ここは退屈迎えに来て』(2018年10月19日公開)
『チワワちゃん』(2019年1月18日公開)主演
『サムライマラソン』(2019年2月22日公開)
『さよならくちびる』(2019年5月31日公開)主演
など、門脇麦の出演作は見続けているし、
レビューも多く書いている。
それほど好きな門脇麦の主演作『あのこは貴族』が公開された。(2021年2月27日公開)
原作は、山内マリコの同名小説。
山内マリコの小説では、
『アズミ・ハルコは行方不明』(2016年12月3日公開)
『ここは退屈迎えに来て』(2018年10月19日公開)
が映画化されているが、
現代女性の日常をリアルに切り取っているのが特徴で、
2作共に独特の世界観が表現された秀作となっていた。
特に、『ここは退屈迎えに来て』には門脇麦が出演して好演しており、
山内マリコの原作小説との相性の良さも感じさせ、
『あのこは貴族』もかなり期待できると思った。
門脇麦、水原希子の他に、
私の好きな石橋静河や篠原ゆき子や石橋けいも出演している。
で、映画館が混雑しそうな公開初日、土曜、日曜を避け、
3月2日(火)に映画館へ向かったのだった。
東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、
「結婚=幸せ」と信じて疑わない榛原華子(門脇麦)。
20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。
あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、
ハンサムで良家の生まれである弁護士・青木幸一郎(高良健吾)と出会う。
幸一郎との結婚が決まり、順風満帆に思えたのだが……
一方、東京で働く時岡美紀(水原希子)は富山生まれ。
猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。
仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。
幸一郎と大学の同期生であったことで、
同じ東京で暮らしながら、別世界に生きる華子と出会うことになる。
2人の人生が交錯した時、
それぞれに思いもよらない世界が拓けていくのだった……
このようにストーリーを紹介すると、
いかにも「ありがち」な女性映画という感じで、
通俗性さえ感じてしまうのであるが、
この映画はまったくそうはなっていないのが不思議。
東京生まれの良家の子女・華子(門脇麦)と、
富山生まれで東京にしがみつくように必死に生きている美紀(水原希子)とを、
それぞれの過去を織り交ぜながら描いていき、
そこに二人のそれぞれの親友と言うべき、
相良逸子(石橋静河)と、平田里英(山下リオ)を絡ませ、
これまであまり見たことのない世界へ誘ってくれる。
普通なら幸一郎(高良健吾)という男を巡って、
妬み、誹り、嘲りなどが混じり合い、ドロドロした展開になりそうなものだが、
そうはならずに、
4人の女たちは、そこで一度立ち止まり、考え、男に頼らない行動を選択する。
これが実に清々しく、痛快に思えるほどなのだ。
男に頼らない行動を選択するからといって、
妙に気張ったり粋がったりするのではなく、自然体で、
女性同士で助け合って生きていこうとするのである。
シスターフッド(姉妹関係や姉妹のような間柄を指し、女性解放運動などにおける女性同士の連帯も意味する)映画とも言える作品で、
昨年公開された、
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、
『燃ゆる女の肖像』などに通じるものがあり、
それ以前の、
『サニー 永遠の仲間たち』、
『アナと雪の女王』、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
など、
近年、このシスターフッド映画が増加してきているのが判る。
シスターフッド映画はこれまでにもあることはあったが、ほとんどが恣意的なもので、
意図的な、普遍性も持ったシスターフッド映画の出現が、
ここ数年の特徴と言えるのではないか?
そして、
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、
『燃ゆる女の肖像』、
それに『あのこは貴族』もそうだが、“女性監督”によって生み出されている。
2017年に“#MeToo運動”が起こり、有名な映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが業界から追放されて、映画界が刷新されて、これまでなら企画が通らなかったような映画が一気に作られるようになった印象があります。大物女優が組んで、権力者のセクハラを告発した『スキャンダル』はまさにその流れ。『82年生まれ、キム・ジヨン』もそう。『あのこは貴族』が映画化されたのも、こういう世界的な流れのおかげかもしれません。(「MOVIE WALKER PRESS」山内マリコと加納愛子の対談より)
原作者の山内マリコはこう語っていたが、
この世界的な流れの中から、次々と傑作が誕生しているのが嬉しいし、頼もしい。
ただ単に、「男性中心社会に抗い、打倒を目指す」ものから、
男性をひとまず脇に置いて「女性だけでなにかを成し遂げる」というものまで、
シスターフッド映画も多様化しているし、
「鑑賞する映画を出演している女優で決める」主義の私としても、
女優が多く出演するシスターフッド映画は大歓迎なのだ。
山内マリコの原作の良さもあろうが、
本作『あのこは貴族』は実に上手く脚色されていて、
脚本も担当している岨手由貴子がいかに優れた監督かが判る。
【岨手由貴子】(そで・ゆきこ)
1983年生まれ。長野県長野市出身。石川県金沢市在住。
大学在学中、ENBUゼミナールの映画監督コースに通い、
篠原哲雄の指導の元で製作した短編『コスプレイヤー』が第8回水戸短編映像祭、ぴあフィルムフェスティバル2005に入選。
2008年、初の長編『マイム マイム』がぴあフィルムフェスティバル2008で準グランプリ、エンタテインメント賞を受賞。
2009年には文化庁若手映画作家育成プロジェクトに選出され、
山中崇、綾野剛らを迎え、初の35mmフィルム作品『アンダーウェア・アフェア』を製作。
その他、音楽レーベルRALLYE LABEL所属のミュージシャンを中心に、ミュージックビデオを製作。
2015年5月30日、菊池亜希子・中島歩を主演に迎えた長編商業映画デビュー作『グッド・ストライプス』が公開。
過去シーンの出し入れが下手な監督だと、
見るも無残な作品になってしまうのであるが、
これほどにスムーズに出し入れが行われている作品は稀で、
岨手由貴子監督が只者ではないことをこの作品で認知させられた。
先日、西川美和監督作品『すばらしき世界』を激賞したばかりだが、
相次ぐ女性監督による傑作の出現に、私は感嘆させられた。
榛原華子を演じた門脇麦。
当初、私は、
良家の子女・華子は(華やかさのある)水原希子で、
地方出身者の美紀は(ちょっと地味目の)門脇麦なのではないかと思っていたのだが、
門脇麦が華子を繊細に演じたことで、
華子というキャラクターに深みが増し、より魅力的になったような気がした。
“箱入り娘”で“世間知らず”とくれば、
白鳥麗子のような傍若無人で怖いもの知らずの女性を想像しがちだが、
本作の華子は何かに怯えているようなオドオドした部分があり、
やはり門脇麦が演じて正解だったのだと思わされた。
『燃ゆる女の肖像』を見たときにも、当初、
〈ノエミ・メルランとアデル・エネルのキャスティングは逆ではないか?〉
と思ったものだが、
女優の持つイメージと、役柄のイメージを真逆にしたことで、
意外性が生まれ、面白さが増していた。
岨手由貴子監督のキャスティングの妙が、本作をより良きものにしていると思った。
時岡美紀を演じた水原希子。
映画『ノルウェイの森』(2010年公開)で初めて水原希子を知り、
そのレビューで、
……緑を演じた水原希子の独特の存在感……
とサブタイトルを付して、次のように記した。
この作品で、ちょっと嬉しかったのは、緑を演じた水原希子に逢えたことだ。
私はこの作品で水原希子という女優(?)を初めて知った。
経歴を調べてみると、
1990年、米テキサス州生まれ。
12歳だった2003年、雑誌『Seventeen』のミスセブンティーンに選ばれ、モデルとなる。
以降、『ViVi』ほか多数の女性誌で活躍。
オーディションにより本作の緑役を射止め、俳優デビューを果たした。
ということで、若い女性の間では有名だったらしいが、中年のおっさんである私は知らなかった。
本作がデビュー作なので、正直、演技はそれほど巧くなかった。
ただ、その存在感が抜群であった。
私のイメージする緑の役柄とはかけ離れているし、演技力もないので、普通ならガッカリなのだが、そうならないのは、彼女が何かを持っているからに他ならない。
小説でもそうであったが、この映画でも、緑が唯一の明るい日差しとなっている。
感情を屈折したした形でしか表現しない登場人物たちの中で、緑だけが素直に喜びや怒りを表す。
普通に感情を表現する彼女に、読む者、見る者は、ホッとする。
誰もが緑を好きになる。
そういう意味では、幸運な役を得てのデビューと言えるだろう。
今後の活躍が期待される。
私の予言通り、水原希子はモデルとしてだけではなく、
その後も女優として映画、TVドラマで大活躍することになるのだが、
映画では、特に、
『ヘルタースケルター』(2012年)、
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年)
の演技は素晴らしく、このブログのレビューでも絶賛した。
本作『あのこは貴族』での彼女は、この2作を上回る素晴らしい演技で、唸らされた。
これまでは派手なエキセントリックな役が多かったが、
本作では抑えた演技が冴えており、
『ノルウェイの森』で緑を演じたときの彼女を思い出し、ちょっとウルッときた。
主演は門脇麦だが、W主演と言ってもいいような存在感で、
「一日の王」映画賞でも、最優秀助演女優賞の候補にリストアップされることは間違いない。
相良逸子を演じた石橋静河。
華子の親友ともいうべきヴァイオリニストの役で、
華子の心の拠り所であり、華子に寄り添い、助け、励ます。
私は、石橋静河の顔と、彼女が醸し出す雰囲気が好きなのだが、
本作は彼女に対する私の欲求を100%満たしてくれており、大満足であった。
演技も巧いし、文句なし。
平田里英を演じた山下リオ。
私が、山下リオというファッションモデル兼女優を知ったのは、
笑福亭鶴瓶がMCをしている「A-Studio」(TBS系)で、
アシスタントMCをしているとき(2014年4月4日~2015年3月27日)であったが、
以降、常に気になる存在であった。
この「A-Studio」のアシスタントMCを務めたタレントは、
SHELLY、本田翼、波瑠、早見あかり、森川葵など、
その後、一段と飛躍していった印象があり、
山下リオもその例に倣って羽ばたいている感じがする。
ここ数年の映画出演作では、
『寝ても覚めても』(2018年)、
『朝が来る』(2020年)
が印象に残っているし、レビューでも彼女に言及している。
本作『あのこは貴族』では、
美紀の親友ともいうべき平田里英という自立心のある女性の役で、
華子に対する相良逸子(石橋静河)のような存在。
〈美紀の傍に逸子がいて良かった!〉
と思わせるほどの安心感を与えてくれる演技で、
山下リオの女優としての成長を感じさせられた。
この他、
華子の姉の役で、私の好きな女優の、
篠原ゆき子や、
石橋けいも出演しており、
出演シーンは短いながらも、しっかり存在感を示しており、嬉しかった。
青木幸一郎を演じた高良健吾や、
華子の義兄を演じた山中崇の演技も悪くなかったが、
門脇麦、水原希子、石橋静河、山下リオ、篠原ゆき子、石橋けいなどの女優陣に囲まれては、
「分が悪かった」と言うしかない。(笑)
一歩間違えば通俗的な作品になってしまう題材を、
細部にまで目の行き届いた美しい映像と、
映像を引き立たせる音楽、
繊細な演出とで、
完璧な作品に仕上げた岨手由貴子監督のシスターフッド映画の傑作『あのこは貴族』。
新型コロナウィルスの影響で、公開予定作品が次々に公開中止、延期になる中、
このような良質な作品に出逢えた幸運に感謝したい。