一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『信さん 炭坑町のセレナーデ』…優しさと美しさと懐かしさに満ちた作品…

2010年06月27日 | 映画
小雪主演の映画『信さん 炭坑町のセレナーデ』をやっと見ることができた。
すごく楽しみにしていた作品だったので、とても嬉しかった。
この作品、2008年の秋に、福岡県をはじめとする九州各地で撮影が行われた。
2009年に公開されるかと思ったが、その後、なかなか公開日が決まらなかった。
今年になって、3月頃から田川市の文化センターなどで先行上映会が催されるようになり、
福岡県内映画館での先行ロードショーが5月15日よりようやくスタート。
1ヶ月半にわたり、福岡県の皆さんは、この映画を楽しまれたようだ。
6月下旬になって、やっと佐賀でも上映されることになった。
だが、上映期間は、たったの1週間。
ちょっと短すぎると感じたが、佐賀では、現在、佐賀が舞台の映画『ソフトボーイ』が大ヒット上映中なので、まあ、仕方ないかな……っと。
(今日も映画館は『ソフトボーイ』を見に来たお客さんで一杯だった)
佐賀では現在、
『信さん 炭坑町のセレナーデ』は、
109シネマズ佐賀のみで公開中で、
6月26日(土)から7月2日(金)までの上映。
物語は優しく心に響き、登場人物は美しく、風景はどこまでも懐かしい。
超大作でもないし、超話題作でもないが、愛すべき小品として、いつまでも心に残る作品である。


昭和38年。
九州のとある島へ向かうフェリーの甲板に辻内美智代(小雪)と小学生の息子・守(中村大地)がいた。


青々とした海と空の間に小さな島がぽつんと見えてくる。
島の真ん中にある炭坑に支えられ、男も女も子供たちも貧しくとも明るく肩を寄せ合って暮らす町、そこが美智代の故郷だった。
突然都会から戻ってきた二人に町の人々は好奇のまなざしを向けるが、美智代は商店街の一角に洋品店を構え、この町で息子を育て生きていくと心に決めていた。
ある日、悪ガキたちに囲まれた守の前に一人の少年が現れる。
町では知らぬものはいない札付きの少年・信一(小林廉)。
親を早くに亡くし、親戚に引き取られていた信一は、家でも学校でもいつも誤解され厄介者のような扱いを受けていた。
信一があざやかに相手を打ち負かし、守を救ってくれたところに偶然美智代が通りかかる。
「名前は?」
「信一……」
「なら、信さん、やね。……ありがとう、守ば助けてくれて」
想像すらしなかった優しい言葉をふいにかけられ、耐えきれなくなった信一は大声で泣き出した。
そんな信一を、無言でぎゅっと抱きしめる美智代。


誰も自分のことなど解ってくれない、そう思って生きてきた信一にとって、初めて自分を認めてくれた美智代の存在は特別なものとなる。
その日をきっかけに辻内家に遊びに来るようになった信一。
精一杯の気持ちを込めたプレゼント、それはヒマワリの花だった。
一緒にいることの嬉しさ、気持ちの行き場を見つけた信一の振る舞いは微笑ましくも直球そのものだった。
それは、母親への愛のようであり、淡い恋心のようであり……
一方、憧れのヒーローである信一と母親美智代の関係に、複雑な心境の守。
けれど、信一の幸せな日々はそう長くは続かなかった。
ある冬の夜、炭坑で働いていた信一の義父(光石研)が急死する。
信一は、一家を支えるために新聞配達を始め、次第に美智代からも守からも遠ざかっていった。
信さんの少年時代は、他の誰よりも短かった。

月日は流れ、7年後の昭和45年。
島の炭坑で働く坑夫たちの中に精悍に成長した信一(石田卓也)の姿があった。
義妹の美代(金澤美穂)を高校に行かせるために懸命に働く信一だが、炭坑の実情は厳しかった。
その頃、炭坑は石炭か石油へと変わるエネルギー革命の波にのまれ、人員削減を余儀なくされていたのだ。
信一は家族のため、今より稼げる仕事を求めて上京を決意する。
一方、高校生になった守(池松壮亮)は、幼なじみのヨンナム(柄本時生)と共に学生生活を謳歌する中、信一に代わって家に遊びに来るようになっていた美代のことが気になっていた。


ある夜、美智代と信一は、久しぶりに逢う。
美智代への一途な想いは変わらぬ信一だが、子供の頃のように無邪気に接することができない。
同じく美智代も一人の男として成長した信一を前に、もう昔の二人とは違うことを痛いほど感じていた……(ストーリーはパンフレットより引用し構成)


私がこの映画を見に行った最大の要因は、やはり主演の小雪だ。
小雪といえば、なんといっても『ALWAYS 三丁目の夕日』『ALWAYS 続・三丁目の夕日』での石崎ヒロミ役が印象深い。


あの作品においての小雪は、キラキラ輝いていた。
あの時の小雪に、この作品でまた逢えそうな気がしたのだ。
そして、その期待は、裏切られることがなかった。


この映画のもうひとつの魅力は、福岡県各地、熊本県荒尾市、長崎県池島などでオールロケーションを敢行していること。
九州人にとっては懐かしさを感じさせる風景を随所に見ることができる。
私の父も、かつて佐世保炭坑の坑夫であった。
私にとっても、この作品に出てくる炭坑住宅(炭住)、ぼた山、石炭拾いなど、すべてが懐かしかった。


監督は、『愛を乞うひと』で、モントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞や日本アカデミー賞最優秀作品賞など数多くの映画賞を受賞した平山秀幸。
『OUT』や『しゃべれどもしゃべれども』などの監督としても有名。
1950年、福岡県生まれ。
この映画の舞台、時代を知り尽くしている監督なので、安心して見ていることができた。

監督が福岡県出身ということもあってか、同じ福岡県出身の池松壮亮、光石研、中尾ミエなどが出演しているのも嬉しく、楽しめた。


その他、私の大好きな岸部一徳や大竹しのぶが相変わらず素晴らしい演技をしていた。


私は、原作である辻内智貴の小説『信さん』は読んでいたが、この映画に限っては、事前に読んでおく必要はないように感じた。
小説と映画では、ストーリーも結末も微妙に違っているので、もし読みたかったら、映画を見た後に(映画と小説の違いを確かめながら)読むのが正解かもしれない。
それほど原作から独立した作品として鑑賞することができた。

この作品世界が、私の育った世界にあまりに近かったので、私は自分がこの作品の中にいるような錯覚をおぼえた。
この作品の町の空気感や人の匂いまでも感じとることができた。
この作品の中で遊び、そして、初恋を再び経験することができた。
私がよく使う表現だが、「抱きしめたくなるほど愛おしい作品」である。


予告編

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