痛々しいまでにシュールな舞台だった。
観たあと、胸のほてりがことばを失ってしまった、そんな芝居に久し振りに出会った。
ことばを失ったのは、『向日葵の柩』を書いた柳美里(ユウ ミリ)さんの言い方を借り
れば「”在日韓国人”という吃音者」の痛みかもしれない。
初演から18年経った今日、時代の流れ、変化の兆しがあったにせよ
わたしには「日韓問題」など正面から取り上げていること自体が戦闘的なことであった。
だがそれ以上に「生きることに真剣である者」の痛みが切々と胸を打った。
私はこの暗い劇場で
あなたと本当の話を
したいのです。
ここには作者柳 美里の血の匂いのする「汚れちまった悲しみ」が封印されている。
決して現実の世界では口にできない本当の話が・・・・・
浪人中の栄敏(山口馬木也↑画像)と高校生の栄貴(山田ひとみ)兄妹の母親は屑鉄業
の父(金守珍)を捨てて3年前に家出した。
栄敏は、コーリャンバーで留学中の朴永玉(松山愛佳)に会ってひと目惚れ。
永玉から「韓国人なのに日本語しかしゃべれないの?」と云われてショックを受ける。
妹の栄貴は、自閉的であるため、拾ってきた九官鳥だけに心を開くのだった。
栄敏は、日本に帰化したホストの金宮(椎原克知)に永玉が売春をしていると告げられる。
その金宮に妹の栄貴が犯される。
傷心の栄貴は兄に首をしめてくれと頼む。
そんなとき、偶然ハチ合わせた永玉の首も・・・
永敏は永玉に教わった韓国語で
「アナタハ、ワタシヲ愛シテイマスカ?」
無限にひろがる向日葵畑の前で、虚ろに呟くのだった・・・・
演出の金守珍は凄烈な現実と清冽な詩情を舞台に叩きつけた。
山口馬木也は激しく揺さぶり、山田ひとみはひたむきに演じきった。
兄と妹は現実そのものであり、青春の”生”と”美”そのものだった。
そこに表現されている世界は18年たった今も輝きを失わずに、観客に突き刺さってくる。
鋭利な白刃のように。
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