
その日(←皆既日食の日)、水天宮(半蔵門線)で下車して、鎧橋に向かって歩いてゆく。
左手が蠣殻町、交差点を渡ると右手に小網町。
証券会社の立ち並ぶその一角の路地に、ひっそりと「喜代川」があった。
「喜代川」に来たのは何年ぶりであろうか・・・・。
木造の、風情のある店構えはちっとも変わっていない。
1階の椅子席で「うな重」の”松”(画像)を注文する。きも吸いと香の物が付く。
朱塗りのお重を開けた時に匂う、あのいい香り。う~んたまらない。
ふっくらと、艶やかな色。脂もほどよく、やわらかく、すっきりとした味。
なによりも辛めのタレが創業百年を超える”江戸前の味”なんですね。

「日本で一番いいうなぎをお出しするのがお店の信条なんです」と女将さん。
その女将さんにうながされて、築75年という2階を見せていただく。
坪庭を囲んで5つのお座敷。ここは予約制で、うなぎのコース料理とか。
さらにその奥には3畳の小座敷。床には、さりげなく吾亦紅が一輪。
思わず足を止めてしまうほど情緒たっぷりな空間であった。
そういえば、昔、うなぎ屋は男女が密会をしたりする粋な場所だった・・・・と、
何かの本で読んだことがある。


「ここへはよく都電で通ったもんだよ・・」
「そう、都電は15番でしたわね」
隣席にいた上品な初老のご夫婦の会話がきこえた。
都電は地下鉄に、川の上には高速道路がかかり、すっかり変わってしまった茅場町界隈だった。
うなぎは土用だけとは限らない。
こんどは冬場に来てみたい。
2階のお座敷で、熱燗 に”うなぎのきも焼き”、たっぷりと生わさびを効かせて”白焼き”を。
私はひとり、ひそかにそう決めたのでした。
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