五味康祐氏は、オーディオフェアで講演をしているのを見たことがあります。五反田のTOCでやっていた頃だから、随分昔のことになりますなぁ。
展示されていたパラゴンを指して「こんなもの日本に持ってきたっていい音が出るわけないんだ!」と喝破していたのを覚えています。すごく尊大な態度という印象でした。
作品はこれまで読んだことがありません。剣豪小説は趣味の範疇外だったし、たまにオーディオ雑誌に掲載されている文章をよんでも、正直あまりいい印象は持てなかったですね。
先日購入した「analog」誌の永六輔氏へのインタビュー記事で五味氏のことを少し話しておられたのがきっかけで、何となく読む気になり「オーディオ巡礼」(ステレオサウンド)と「いい音いい音楽」(中公文庫)を購入してみました。
読んでみて、やはり自分の聴いているものなんかとは次元が違いすぎるため、あまり面白くはなかったです。「いい音~」の方はFM放送のエアチェックの記事が多く、最早昔話です。懐かしくはありますが。
でも、ベートーヴェンやモーツァルトだけではなく、ヴィヴァルディの「ヴィオラダモーレ協奏曲」や「ラ・チェトラ(作品9の協奏曲集)」を聴いていたのには少々驚きました。モノラルの時代にそんなレコードが既に存在していたのですね。
記憶に残った記述としては
「若いうちは、あまり装置はいじらず一枚でも多くレコードを聴くこと、音楽そのものに時間をさくことを、私はすすめる。」
そして、
「安価な装置で適度な美音を鳴らすより、高級な装置で真に高級な美しさをひき出す方がはるかにむつかしい。一般に知られざるこれはオーディオの罠だ。泥沼は実にこの、『高級な』と錯覚されたものへの『期待』からはじまってゆく。理屈はともかく、要するに高級な装置ほどうまく鳴り難いと知っておいた方がいい。」
これはそのとおりですな。まあ裕福ではありませんから罠やら泥沼にもはまりようもありませんけど。
でも、今のオーディオ装置ってそういう「高級な」ものばかりになってしまっています。適度な美音はi-podか・・・
「オーディオ巡礼」で取り上げられている音盤の中で1枚だけ持っているものがありました。フランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」です。五味氏は「E.Biggsなるオルガニストの弾いたコロンビア盤」を最初に聴いたと書いています。エドワード・パワー・ビッグス(1906-1977)のことですね。さすがにこれは現役盤はありません。
後年シャルラン・レコードから出たので聴き直したと書いているのが写真のガストン・リテーズ(1909-1991)演奏のもの。マスターテープの傷みが気になりますが、今聴いても録音は悪くありません。ワンポイント録音だけに音場に独特の広がりが感じられます。演奏もすばらしい。個人的には「前奏曲~」よりも「コラール第3番」の方が感動的に思われます。
ついでにワタシのおすすめのフランクとしては、ジェニファー・ベイト盤がなかなかいい演奏でした。それとジャンヌ・ドゥメシュの1959年録音のものがベストとおもわれるのですが、これは中古盤を探すしかありません。