文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

カネが余ったまま、実体経済に流れなければ経済がデフレ圧力を受け、ゼロ成長になるのは当然だし、イノベーションも起きようがない

2020年01月06日 14時12分32秒 | 全般

以下は月刊誌正論今月号の特集、内から日本を蝕むもの、に、中国に「身売り」されるジャパンディスプレー国家意識欠く官民ファンド、と題して掲載された田村秀男氏の論文からである。
世界銀行や日本のマスメディア、経済評論家達が、財務省の受け売りの経済評論を語るのとは違い、田村秀男氏が経済部の記者としての人生を送った、つまり、経済を論じるための人生を送った中で得た見識で経済を語る数少ない人物である事は何度か言及したとおり。
今月号の月刊誌正論もまた、日本国民必読の論文が満載されている。
日本国民は今すぐに最寄りの書店に購読に向かわなければならない。
世界中の人たちには、拙訳ではあるけれども、出来るだけ教えることとする。
日本は官民が結集して半導体の技術開発に取り組んだ結果、80年代後半には競争力で米国を脅かすハイテク王国だったが、今や見る影もない。
韓国、台湾に後れを取り、中国資本による買収をあてにする始末である。
主要メーカーの液晶部門を統合、国家資金を投入して設立されたジャパンディスプレイ(略称JDI)が代表例である。
収益力のない企業は市場から淘汰すべきとのビジネススクール教科書流思考によるが、甘過ぎやしないか。
ハイテク覇権を狙う中国にとって、市場原理主義に凝り固まった日本はまさに思うつぼにはまっている。 
ジャパンディスプレイは、経済産業省主導の官民ファンドの産業革新機構(TINCJ)が2,000億円を投じ、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して2012年4月に発足した。
その前にはパナソニックの液晶部門が東芝に、セイコーエプソンと三洋電機の液晶部門がソニーにそれぞれ統合されていたので、日本の大半の液晶表示装置メーカーの液晶部門がJDIに集約されたことになる。
文字通りの「日の丸液晶」会社である。 
JDIは発足から約2年で東証1部に上場したものの、業績は6期連続の赤字で、2019年4~9月期の連結決算は1,086億円の赤字(前年同期は95億円の赤字)、同年9月末時点で1,000億円超の債務超過に陥った。 
財務危機を乗り越えるために、台湾・中国の電子部品メーカーや投資会社が作る「Suwaコンソーシアム」と業務提携し、同コトソーシアムから最大800億円を調達することを目指し、2018年12月ごろから交渉に入った。
Suwaコンソーシアムは、中国最大の資産運用会社、嘉実基金管理、台湾のタッチパネルメーカーの宸鴻集団と台湾の蔡一族投資ファンドCGLによって構成されている。
JDIはことし4月に、嘉実基金と蒸着方式有機ELディスプレイの量産計画に関する業務提携で基本合意し、宸鴻集団とは液晶ディスプレイに関する業務提携基本契約を結んだ。 
週刊ダイヤモンド誌は2019年2月7日付けの電子版で、「JDIに買収提案の中台連合が取締役過半数派遣で狙う『実効支配』」と報じた。
記事の概要は以下の通りだ。 
中台連合はJDIの技術を活用して中国・浙江省に有機ELパネルエ場を建設する計画で、JDIの東入来信博会長兼最高経営責任者(CEO)と、福井功常務執行役員らJDI幹部、JDIの筆頭株主であるINCJの勝又幹英社長と東伸之執行役員が18年12月に最初の協議のため、浙江省を訪問した。
有機ELパネルエ場投資額は約5,000億円、資金は中国政府の補助金を活用する。
早ければ19年中に建設を開始し、21年の量産開始を見込む。 
有機ELは液晶よりも高画質、高解像度の表示を可能にし、スマホ、テレビから市民監視用モニター用など用途は限りない。
記事通りにことが進めば、習近平政権が執念を燃やす国家補助によるハイテク国産化計画「中国製造2025」に日本の有機EL技術が飲み込まれることになる。
「中国製造2025」はトランプ米政権が厳しくチェックしており、同計画の主役企業の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)などは米国製部品や技術の利用が困難になっている。
JDIの救済を名目に、日本の最新技術を取り込む意図がありありとうかがわれる。
技術流出に甘い経産省 
JDIは2019年4月12日に、中国・台湾連合から金融支援を受けて、中台連合が筆頭株主になると発表するに至った。
実質的な中国資本への「身売り」となりかねないのだが、経産省も乗り気だった。
同16日には世耕弘成経産相(当時)は記者会見で「JDIの技術は、今では既に他国の競合企業が保有・実用化をしている、また、主要な販売先であるモバイル市場は飽和状態になっているという状況」と述べ、中国への技術流出に気を留めなかった。 
まさにJDIは通常の企業のM&A(企業買収・合併)と同じ市場取引の文脈で捉えているではないか。
JDIは8月、嘉実と香港の投資ファンドでつくる企業連合から800億円(嘉実はこのうち600億円強)を受け入れることで合意した。 その後、ドラマは思い掛けない方向に展開する。
中台連合の各社は相次いでJDI支援交渉から離脱すると言い出したのだ。
JDIの菊岡稔次期社長は9月26日、嘉実基金管理グループから金融支援を見送るとの通知を受け取ったと公表した。
しかし、菊岡氏は、「嘉実との出資交渉は続ける」とあきらめない。12月12日には独立系投資顧問の「いちごアセツトマネジメント」から800億~900億円の金融支援を受ける方向で基本合意したと発表したが、「現状ではSuwaとの間に確定契約がある」と、嘉実を中心とするSuwaとの最終合意に意欲を見せた。
いちごとの基本合意はSuwaによる支援が受けられない場合の保険の位置づけのようだ。 
そもそも嘉実基金管理グループの正体とは何か。
嘉実基金のホームページをみると、中国内外の機関投資家などから資金を集め、中国国内の企業などに投資して資産運用する。
問題は運用利回りで、香港に拠点を置く嘉実グローバル基金の各種ファンドの利回りをみると、大半は18年来、マイナスに陥っている。そんな中、運用益重視を建前とするはずの嘉実基金が業績の好転見通しが立たない企業に巨額のカネをつぎ込むというのはいかにも不自然である。
北京の補助金活用も考慮すると、習近平政権の意向を受けた政治的動機によることは明らかだ。  
特に中国側が欲しがっているのは有機EL技術である。
「支援見送り」は、中国側の陽動作戦であり、より有利な条件で有機EL技術を取り込もうとする、中国ではよくある交渉戦術なのだろう。
菊岡氏も交渉の余地ありと踏んでいるのだが、前述の世耕氏の「身売り」容認発言からみても、中国側はいくらでも経産省を含む官民から譲歩を引き出せると考えているに違いない。
経経済再生VS市場原理主義 
それにしても、産業革新投資機構の投資原則とは何だろうか。
「日の丸」技術であろうと、投下資産の収益率などビジネスの論理に合わなければ、さっさと投資を引き揚げればよいというなら国家資金を使う官民ファンドの存在意義はとこにあるのか。
産業革新機構の官民ファンド機能は制度改革で2018年9+月に現在の産業革新投資機構(JIC)に引き継がれた。
社長には三菱UFJフィナンシャル・グループ元副社長の田中正明氏が就いたが、経営陣の高額な報酬など運営方針をめぐり経済産業省と対立し、同年12月に民間出身の取締役9人がそろって辞任する騒ぎになった。
高収入を約束しないと優秀なファンド・マネージャーを集められないと経産省側も判断していた。 
ところが、国民の血税を投入しているのに、世間常識を外れた高額の報酬を払うとは何事か、という世論の反発を受けることになり、経産省もあわてて高報酬の約束をほごにした。
それに反発した田中氏ら経営陣と経産省との食い違いは埋めようがなかったのだ。
以来、JICは事実上の休眠状態だったが、経営陣を刷新して1年ぶりに活動を再開した。 
19年12月10日、新社長に元みずほ証券社長の横尾敬介氏が就任した。
横尾氏は「市場から退出すべき企業の延命にお金を出すことは一切ない」と言い切った。
報酬問題はどう折り合いをつけたかわからないが、田中前社長も横尾氏も金融界出身で、いわゆるゾンビ企業の救済はしないという、バブル崩壊後の日本の銀行論理そのものである。
JlCは依然として日の丸投資ファンドであるにもかかわらず、金融資本の論理を優先することになる。
JICは長期志向の経済再生という国家目標が顔、頭の中と首から下には短期志向の市場原理主義の血が流れる化け物のようである。 
メディアのほうは一般に、官民ファンドに対する風当たりが強い。
日本経済新聞12月12日付朝刊では「官民ファンドの存在意義を問う」とのコラムで、産業革新投資機構が出資するJDIが債務超過で存続が危ぶまれるとし、「そもそも投資のプロフェッシヨナルが少ない日本で、10以上の官民ファンドが存在している」「官民ファンドの乱立は霞が関の統治不全の象徴である」と指摘している。
市場論理を重視する日経らしい記事だが、官民ファンドの乱立はそもそもなぜ起きたのか。
一口で言えば、カネ余りである。
カネ余りで官民ファンド乱立  
政府債務は国内総生産(GDP)の2倍以上で、財政健全化のために歳出削減と消費税増税を続けるべし、とは日経をけじめとする財務省同調メディアの論調で、これを鵜呑みにすると「カネ不足」ではないかということになるがとんだ誤解である。
政府には一般会計と特別会計があり、カネがないのは一般会計だけである。
特別会計のほうでは、財投債発行によって超低金利の資金を存分に調達できる。
この資金は財政投融資となってJICなど官民ファンドにも回る。  
財政投融資は財政融資と産業投資に分かれ、官民ファンドへの出資は産業投資に分類される。
19年10月末の産業投資出資金は約5兆5000億円で3年前に比べて7200億円増えた。
企業の内部留保は470兆円を超え、アべノミクスが始まった2012年12月に比べ200兆円近く増えた。
その間のGDPの増加額は66兆円に過ぎない。
内部留保は企業が国内向けの設備投資を抑制した結果である。  
しかも、企業は内部留保以外にも、株価の押し上げにつながる自社株買いを増やしている。
企業の自己株式保有は19年9月末の前年比で4.6兆円増えたのに比べ、設備投資増加額は2.5兆円に過ぎない。
カネが余ったまま、実体経済に流れなければ経済がデフレ圧力を受け、ゼロ成長になるのは当然だし、イノベーションも起きようがない。 
そこで政府が民間資金を吸い上げ、産業活性化に誘導するという考えになるが、甘くはない。
何の準備もなしに官が財投計画を拡大して産業資金を大幅に増加させると受け皿を無理やり増やす必要がある。
その結果が官民ファンドの乱立である。
かくして巨額の損失を計上する官民ファンドが続出し、中でも惨憺たる状況の農水省系ファンド「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の廃止が最近決まった。
2013年1月に設立されたのだが、19年3月末には累積赤字が92億円に膨らんだ。
農水省内部からは「財務省からももっと出資を増やせという催促があった」とのぼやきが聞こえる。
財源がないと繰り返す財務省自体、財投計画だけはカネを持て余していたのだ。 
カネという資源はふんだんにある。
しかし、民間企業は株主重視の風潮に染まり、設備投資をせずに株主価値なるものを高めて国内外の金融投資家にこびへつらう。
であれば官が民間資金を吸い上げて産業に投資するのは理にかなっているのだが、財務省や経産省などのエリート官僚は米国留学で新自由主義を仕込み、民間主体の市場原理なるものをふりかざす。
しかし、俗っぽく言えば、株に投資して儲ける術は持ち合わせていない。
そこで一流ブランドのメガバンク元幹部を高報酬で迎え入れたものの、銀行内で手堅い業務をこなしただけの人物に投資の才覚があるはずもない。
この稿続く。


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