映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

樋口一葉『にごりえ』

2013年11月11日 04時19分16秒 | 雑記帳
一章より
お高
「力ちやんお前の事だから何があつたからとて気にしてもゐまいけれど、私は身につまされて源さんの事が思はれる
.....................
お前は気位が高いから源さんと一処にならうとは思ふまい、
.....................
源さんも可愛さうだわな」

お力
「気をつけておくれ店先で言はれると人聞きが悪いではないか、菊の井のお力は土方の手伝ひを情夫に持つなどと考違へをされてもならない、それは昔しの夢がたりさ、何の今は忘れてしまつて源とも七とも思ひ出されぬ」

遊女どうしのお高とお力、二人だけの会話です.
お高の言葉から、遊女のお力が客の源七をどの様に扱ったか、察しがつきます.

3章より
「逢つて来たら宜からう、何もそんなに体裁には及ばぬではないか、可愛い人を素戻しもひどからう、追ひかけて逢ふが宜い、何なら此処へでも呼び給へ、片隅へ寄つて話しの邪魔はすまいから」

結城はお力が源七を好きだと思っていた.そして結城は、源七のことも気遣う優しい男であった.
もし、自分が源七をどう思っているか結城に知れたら、結城の妻にはなれない.源七のことを何とかごまかさなければ.
全く源七は迷惑どころじゃない.こんなことで結城に逃げられたら、私は二度と浮かばれないじゃないか.

6章より
「そもそもの最初から私は貴君が好きで好きで、一日お目にかからねば恋しいほどなれど、奥様にと言ふて下されたらどうでござんしよか、持たれるは嫌なり他処ながらは慕はしし、一ト口に言はれたら浮気者でござんせう」

あなたが思っておいでのように私は源七が好きです.だから、あなただけの良い妻にはなれません.妻になる出世は望まないので、妾にしてください.

お力の身の上話を聞きながら、結城はお力が何を言いたいのか考えていたのでしょう.

「お前は出世を望むな」
良い妻にならなくてもいい.源七を忘れられなくても構わない.俺を好きならそれでいいから、思い切って俺の妻になれ.

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結城は独身、妾にして欲しいと言えば、妻になれと言うに決まっている.そう考えた上で、お力は妾にして欲しいと言った.
結城を騙せるかどうか、丸木橋を渡る覚悟で、一世一代の大嘘を考えたのだと思います.
樋口一葉は、遊女の姿を克明に描き上げました.
一言付け加えれば、遊女が男を騙す姿を克明に描き上げました.

おそらくこうなのでしょう.
樋口一葉は、下町に暮す遊女達を克明に観察した.売れっ子の遊女、一人の遊女は、言ってることもやってることも、どの様に考えても分らなかった.何が嘘で、何が本当なのか、考え抜いてやっと分ったことは、この女、嘘をついて男を騙すことが正しいと考えているのだ.
そんな考えじゃ、どんなに良い男に巡り合っても、幸せにはなれないじゃないか.

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お力は結城を見事に騙しました.
私も騙されました.

こんな店で本当のことを言ってたら、客なんか誰も来やしない、お力はこんなことを言ってたと思います.
つまり、私は嘘を言っていると、はっきり言っている.お力の言葉は決して全てが嘘ではなく、大切なところではちゃんと本当のことを言っています.
そして、もし、お力が結城の妻になっていたならば、
『お前がこんなに酷い女とは思わなかった』
『なに言ってのさ、悪い女でも構わないから妻になれと言ったのは、あんたじゃないか』

遊女の女も、客の男も嘘つきばかり.確かにそう.嘘つきの客を遊女が騙そうがそんなことはどうでも良い.
けれども、お力は結城の優しさにつけ込んで騙した、この行為は絶対に許されない.

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当時の遊女が字を読めたかどうか、迷うところもありますが、当時の遊女にしてみれば、自分自身が描かれているのですから、簡単に理解できる作品であったのは間違いありません.
この作品は、普通の生活をしている人には理解できないのですが、水商売をしている人には、簡単に理解できる作品です.
樋口一葉は、普通の人ではなく、遊女、水商売をしている人に読ませる目的で書いていると思います.
(普通の人は、分らなくて良いのです)


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