映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

勝手にしやがれ (ジャン=リュック・ゴダール)

2016年05月05日 20時44分36秒 | ジャン=リュック・ゴダール
『勝手にしやがれ』
1960年 95分
監督 ジャン=リュック・ゴダール
原案 フランソワ・トリュフォー


『密告者は密告をし、殺し屋は殺しをし、恋人は恋をする』
女は密告をするのは嫌であった.肉体関係を持つまでになった男を、子供を宿した相手であろう男を、密告する気は全くと言って無かったはずなのだけど.

一面から見れば、この女は男を愛していたのかどうかさっぱり分らない.見方を変えて言えば、警察に密告しながら、その事を男に教えて逃げろと言う、自分の身を守ることしか考えない、ご都合主義のようにも思えるけど.
でも、この女のとった行動は、迷いがあったにしても、それで当然ではないのか.自動車泥棒とは知らずに好きになったが、悪党だと知った時には警官殺しの殺人犯だった.こんな男、見捨てられて当然である.
さらに言えば、この男は、昔の女の所へ金を借に行って、
『5000貸せ』
『500しかない』
『なら、いらない』
で、結局は金を盗んで来た.全く女を大切にしない男、遊びだけで付き合って捨てるよりも、もっと酷い男だった.女に何をされようが文句を言う筋合いの無い男である.

男は『刑務所暮らしも悪くない』と、警察に捕まる気だったのが、銃を向けられたとたんに、仲間が投げた銃を拾いに行ってしまった.
『最低だ』、撃たれて、それでも必死に逃げようとして、死ぬ間際に男はこう言ったのだが.

なぜ、この男が『最低』の結末で人生を終えることになったのか?.
一つには、女を大切にしなかった事.女に随分もてたようだけど、誰も大切にしなかったようだ.今度は本当に女にほれたと言ってみても、他の女にしてきたことは酷すぎるであろう.
そして今一つは、警察官を撃ち殺したこと.自動車泥棒位なら、新聞に大きな写真が載って指名手配されることも無かったであろうに.

女を大切にしないこと(女を騙すこと)、人殺し、この二つは人として最低の行為であり、この男が『最低』の結末で人生を終えることになったのは、当然の結果と言わなければならない.


女は悩んで悩んで、悩んだ末に警察に密告した.そして、その事を男に告げて逃げろと言ったのだが.
ここに女の純真な心を見つけ出すことが出来れば良いのだけど、素直に考えてそれを見つけ出せと言うのは、残念ながらこの描き方では無理ではないのか.
この後に撮られたアントニオーニの『砂丘』.
拳銃を手に入れて、警官を見たらがむしゃらに撃ちたくてならない男を描いている.何も考えることなく警官を撃ってしまったが為に、警官に撃ち殺されることになった結末は同じなのだけど.
けれども、『砂丘』では、パーな女の子だけど、ラストで彼女の純真な心を延々と描いて、その心によって考えさせるように描かれている.

付け加えれば、しょうもない映画.
女が警察に密告した事と、撃ち殺されることになった事が、心の中できちんと結びつきはしない.
女に対して優しさがないから女は警察に密告したのであり、警察官を撃ち殺してしまったが為に、拳銃を拾おうとしたら撃ち殺されてしまった.
単に成り行きでそうなった話しに過ぎないといえる.

男は自分のことをアホだと言った.それでも自身は拳銃を所持していたかったけれど、たまたま盗んだ車の中に拳銃が有ったがために、その銃で警察官を撃ち殺してしまったのであり、また、最後のシーンも仲間が渡した拳銃をいらないと突き返したのに、投げてよこした拳銃を拾ってしまったに過ぎなかった.
この点から、銃を手にしたが為に最低の結末になった、銃さえなかったら男は殺されることは無かったといえるが、それを言うのなら自動車泥棒をしなければこんなことにはならなかったのであり、自動車泥棒を止めろと言うべきである.
悪いことをやっても拳銃だけは持つな、と言いたいのであろうが.

男は女が密告したことを怒りはしなかった.ほれた女のやったことに従って警察に捕まる覚悟でいたのだったが、仲間が投げた拳銃を拾ったが為に撃ち殺されたしまった.
と言うのならば、撃たれてから逃げた事をどう考えればよいのか?.
殺人をしてしまったら、女にほれて改心をしても遅い、と言うのならば、その様に描くべきであろう.





盗んだ車の中にピストルがあった
俺はアホーだ、バン、バン.....

すぐに白バイが追ってきて
で、警官を撃っちゃった


いらないと言ったのに、仲間が警察と戦えと、ピストルを投げてよこした
拾わなければ良いのに、なんとなく拾ってしまって.....
当然のように警官に撃たれた


自動車泥棒なら、捕まったって刑は知れてる
けれども、警官を撃ち殺してしまったら.....
ピストルなんか持つからこんなことに
アホーはピストルなんか持っちゃ駄目

フランス映画『女と男のいる舗道』 - VIVRE SA VIE - (ジャン=リュック・ゴダール)

2012年12月06日 22時09分17秒 | ジャン=リュック・ゴダール
『女と男のいる舗道』 - VIVRE SA VIE -
1962年 80分 フランス

監督  ジャン=リュック・ゴダール
脚本  ジャン=リュック・ゴダール
撮影  ラウール・クタール
編集  マルグリット・ウーレ
音楽  ミシェル・ルグラン

出演  アンナ・カリーナ
    サディ・レボ
    ブリス・パラン
    アンドレ・S・ラバルト


他人に自分を貸すこと、ただし自分を与えるのは自分にだけ限ること.
モンテーニュでしたっけ、冒頭のこの言葉、分かりません.訳が間違ってない?
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こう言う映画は、辞書を引いてみるのが手っ取り早いはず.
【不満】なっとくできず、もの足りなく感じること.あきたらないこと.
【満足】望みが満たされて不平のないこと.



1=カフェ
夫に対する不満.観てても何がなんだかよく分からないけど、それで良い.なぜなら不満とは、納得できないことなのだから.
きっと、互いに不満があって、この二人は別れたのでしょう.


2=レコード店
客がレコードを探すけど求めるものはあれもない、これもない.でもなんとか欲しい物を見つけたみたい.不満と満足.
そして店員同士の会話で雑誌を読むのだけど「数秒間私は苦い勝利の感覚に酔った」、満足.2000フランのお金が必要なことを示すための出来事なのだけど、物語とは直接関係なくとも、不満と満足で構成されている.ということで、以下省略して、簡潔にいこう.


3=写真家
裁かるるジャンヌ、ジャンヌは殉教者.殉教とは神様のために死ぬこと、満足(とは思わないけど).
ナナは映画を観て泣いた、感動した、満足.

映画を一緒に観た男.
「じゃ、ここで」
「映画だけか」
「そうよ」
映画だけでは不満だった.

「裸はいやよ」
なかなか撮影の条件は合わなかったようだ.不満.


4=警察
ナナはお金を返したのに訴えられた.相手の人、何が不満だったのだろう?


5=最初の客
お釣りがないと言ったら、取っておけと言った.始めての客で自分の値段を決められないナナにとって嬉しかった.満足.


6=郊外のカフェ
イベットは、好きな男に置き去りにされて、娼婦に身を落とすことになった.逃げた男はアメリカで映画俳優.イベット自身が最悪と言う.不満.


7=手紙
働き口を見つけるために手紙を書いていたナナ.ヒモのラウールとの話がまとまって満足.
6の警察の手入れは政治的判断だった、つまり警察の自己満足.

背景の写真、プロジェクターだろうか.これだけの大きさ、写真だと結構お金がかかる.

8=昼下がり
当時のパリの娼婦の実態の解説.
ラウールのヒモの下で娼婦になったナナは、一応は、満足な仕事を見つけたと言ってよいのでしょう.


9=若い男
休日に映画に行けなくなったナナは不満.そして、ジュークBOXをかけ、若い男を誘惑するように踊りまくるナナは満足.


10=ある男
「椅子もないのか」、部屋に入るとお客は文句を言った.不満.
「良い名前ね」、名前を褒めると、お客も自分で気に入っていると答えた.満足.

次第にナナは自分が幸せかどうか考えるようになった.言い換えれば自分の現状に不満を抱くようになっていた.そして、ナナは客を選び、同時に、ナナ自身が客から選ばれるようになっていた.強引に金をせびり、客に嫌われ、他の女と変われと言われた.不満.
付け加えれば、新車を買った刑事は、嬉しそうに手を振りながら走っていった.満足.


11=見知らぬ人
哲学の話、話をすることは考える事、愛することはとは考えること.言葉を見つけること.突き詰めて行けば、それは不満のない自分を見つけ出すことだった.
ナナは哲学の話と言うか、自分の話したいことを一生懸命話して満足.
三銃士の話を合せると、今の自分の生き方が、自分にとって満足が行くものかどうか、考えて生きて行かなければいけないことである.
ある日突然、その時になって考えてみても遅い.


12=若い男
ポーの不思議物語、満足の行く人生、そこに同時に死があるような事が書かれているようなのですが.芸術、美 それが人生.ナナの満足の行く人生が見つかったと言ってよいのでしょう.
けれども、そのナナの満足が、つまり好きな男と一緒に居たいという気持ちが、ヒモのラウールの不満を買った.
ナナは売られることになり、金が不足だという言い争い(不満)から、ピストルを撃ち合う争いに巻き込まれる.そして、ナナにとって納得の行かない結果をを招くことに、彼女の人生にとって不満な結果の死を迎えることになった.






シャンゼリゼの喫茶店を借りるお金もなかったのでしょうか?、それともお金が無いことを自慢したいのでしょうか?
しけた映画.それはそれとして、簡単にまとめて置きましょう.
ポーの詩はゴダール自らが朗読した.人を好きになる純粋な心を呼び覚ましながら、彼は娼婦にこう問いかけている.
体を売って生きるということが、自分にとって満足の行く生き方かどうか、明日では遅い、今、考えなければ.....
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芸術表現の話
不満と満足、相反する一つの感情を作品全体を通して描き込むことによって、全く無関係の出来事が、受け手の心の中で一つに繋がって理解されることになる、単純で分りやすい表現方法であり、非常に自然な表現方法でもあると思います.
ジャン・ルノワールの作品に多くみられるのですが、『浜辺の女』は、この表現手法の最高傑作と言えます.ジャン・ルノワールは、以降、表現手法を変えて行くのですが、逆に、お弟子さんのヴィスコンティの方が、この手法を忠実に守った作品を多く撮ることになりました.
この映画の編集者のマルグリット・ウーレは、以前はジャン・ルノワールの愛人であり、彼の映画の編集を行っていました.
アンナ・カリーナが、演技を始める前の表情を作っている所から、作品に編集されてしまって怒ったそうですが、マルグリット・ウーレは、アンナ・カリーナの不満な表情から満足の表情への変化を見て取って、編集したのだと思います.