P115
穂積
「今まで大手酒造会社が、あちこちから桶買いしてきた酒を調合しても、
ほどほどの味の酒に作り直すことができたのは、
活性炭素でごまかされたからなんだ。」
「ほんものの日本酒選び」(稲垣眞美 三一書房)という本に桶買いを批判する目的で、
大手酒造会社から中小酒造会社へ渡された文書が載っています。
それによると、古米を使ったり、酸度などが指定された基準に当てはまらなかったりした場合は、酒を買い取らないなどといった条件があったようです。
P116-117
穂積
「白糠は、白米を削ってできるクズだから、値段はべらぼうに安い。
それをブドウ糖や水あめなどの糖類のかわりに添加すると安上がりなうえに、
”「白糠糖化液」の原料は米だから糖類添加ではない”という理屈も成り立つ。」
「さすがに日本酒造組合中央会は、「白糠糖化液」を使用したときは、「醸造用糖類」と
添加物表示をすることに申し合わせた。」
「ところが、それは法的な強制力を持たない、業界の自主的な申し合わせにすぎないし、
もうひとつおかしいのは、”白糠糖化液を使ってはいない”という表示が、禁じられていることだ。」
大手酒造会社が米粉糖化液(白糠糖化液)をこそこそ使っていると言いたげな展開ですが、
これまでに米粉糖化液を使いながら原材料を米、米麹と表示して販売し問題になったことがあるのは、
美味しんぼのネタ元になっている「ほんものの酒を」でベタ誉めしていた東駒酒造ぐらいです。
また、平成18年4月から「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」が改正され、
米分糖化液を糖類とすると定められ、業界の申し合わせではなくなりましたが、
糖類添加に表示が変わった商品は私が知る限りありませんでした。
穂積
「いくつもの酒造会社が、”三増酒を造るのはやめた”と宣言している。
しかし、業界全体で使用している醸造用アルコールの量は
ほんのわずかしか減っていない。」
山岡
「三増酒を造るのと同じだけのアルコールを使って、
いっさい糖類を加えない酒なんて辛くて飲めたものじゃないから、
何かで調節するしかない。」
二木
「何かって、ほかには考えられないわよ。
白糠糖化液を使っておきながら、
糖類添加表示をしないお酒があるのよ!」
何時から何時までの統計を見て、
いくつもの酒造会社が三増酒の醸造を止めたのに
醸造アルコール(醸造用アルコール)の使用量が
あまり減っていないと書いてるか解りませんが、
それは別に不思議なことではありません。
平成9年の時点で清酒を醸造する会社は2232社ありますが、
1位のの月桂冠でもシェアが6.7%、10位の小山本家酒造が2.0%、
30位の合同酒精が0.4%しかなく、小企業が乱立している状態です。
シェアが少ない蔵元が三造酒の生産を止めても醸造アルコールの使用量の減少は
当然ほんのわずかしか減りません。
三増酒のシェアが大きく減ったのは、級別制が廃止されたことがきっかけだったのですが、
その前後でアルコール添加量を比べたのでしょうか?
P117-118
栗田
「ちゃんと法的な規制をしないからいけないんだわ。」
山岡
「いや、一番いけないのは、日本酒にアルコールの添加を認めていることだ。」
「アルコールの添加があるからこそ、糖類の添加も生じてくる。」
「アルコール添加が諸悪の元なんだ。」
本醸造酒や吟醸酒など糖類を添加しないアルコール添加酒がある以上、
説得力がない気がしますが、強引に話は進んでいきます。
P118
穂積
「そのとおり。」
「しかも添加される醸造用アルコールは、サトウキビの廃糖蜜を発酵させてつくられるんだ。」
近城
「廃糖蜜?」
山岡
「オーストラリアの製糖工場を取材したとき見たじゃないか。」
「黒褐色でどろどろした、コールタールのような代物だ。」
栗田
「砂糖をしぼった後の残りカスね。」
穂積
「食用にならない廃物を発酵させて作るアルコールだから、安くできる。」
「原料が原料なので、不純物が混じると匂いが悪くなるから、徹底的に精製する。」
近城
「冗談じゃないよ。米を磨いて造ったお酒のつもりでそんなアルコールを飲まされるなんて!」
穂積
「だから、私は言うんだよ。今の日本酒の大半は、”一見清酒風アルコール飲料”だって。」
廃糖蜜を全く関係がなく発ガン性のあるコールタールに例えるのは、
お好み焼きの具を吐瀉物のような代物だと言うぐらい意味がないことではないでしょうか。
また、例え醸造アルコールの原料が芋やトウモロコシであっても、
原材料の匂いや味が添加する日本酒に影響しないように連続蒸留機で徹底的に精製されるでしょう。
あと、原料が原料なのでなどと、廃糖蜜から造られるアルコールが粗悪なもののように書いていますが、
廃糖蜜からは、甲類焼酎や醸造アルコールだけでなくラム酒も造られます。
しかしながら、甲類焼酎や醸造アルコールを批判する論評はあっても、
ラム酒の味や香りを批判する論評は何故か見ません。
P119-120
(穂積先生のお勧めの酒が次々と紹介されていきます)
「亀の翁」吟醸 新潟県・久須美酒造
「出羽桜」雪漫々 山形県・出羽桜酒造
「千代の園」 熊本県・千代の園酒造
「達磨正宗」 岐阜県・白木垣助商店
「郷乃譽」花薫光 茨城県・須藤本家
「黒龍」二左衛門 福井県・黒龍酒造
「八海山」 新潟県・八海醸造
「雪中梅」 新潟県・丸山酒造場
(※太字はアル添酒)
栗田
「先生、ご自分のお子さんでも見せびらかすみたいに、自慢げで幸せそうで・・・・・・」
二木
「先生の日本酒にかけた愛着が、ここに集まっているのね。」
千代の園の大吟醸と雪中梅の吟醸はアルコールが添加されたお酒です。
直前まであれだけ批判していた”一見清酒風アルコール飲料”をお勧めする先生と
それを大げさに感動した眼差しで見つめる人たち。
とってもシュールな展開です。
P121
穂積
「ほら、あなたの思い出の酒があっただろう?」
澤村
「はい。」
「越の華」大吟醸(新潟県・越の華酒造)
「私がこういう店を始めようと思ったのは、この「越の華」に出会ったからです。」
「この酒に惚れ込むことで、日本酒に開眼したのです。
こんなに良いお酒をみんなに飲んでもらいたい、
みんなに知って欲しい、そう思いました。」
「同時に、日本中を歩いて、ほかにも良いお酒を探すことを始めました。」
栗田
「ひとつのお酒に出会ったことで、ご主人の人生が変わったのね。
何というすばらしいことでしょう!」
山岡
「先生、これが先生のおっしゃる、大事なことのひとつですね?」
越の華の大吟醸もアルコールが添加されたお酒ですが、
そんな矛盾は気にせずに話は続きます。