酒飲み掃除日記

掃除用具のレビューや飲んだお酒の感想とかをつれづれなるままに書いてます。

読書感想文「ウイスキー博物館」

2006年11月18日 | 酒類関連本

ウイスキー博物館
監修:梅棹忠夫 開高健
発行所:講談社
昭和54年5月15日第1刷発行

国税庁醸造試験所の所長や東京大学の教授をはじめとする執筆陣が
ウイスキーの歴史やその製法を説き、
小松左京や吉行淳之介などの対談、
横溝正史などのエッセイが載っている豪華な本です。
装丁も図鑑のようでカラー写真が多用されています。
開高健が監修し、サントリー社長だった佐治敬三が
ブレンドについての文章を寄せているなど、サントリー色が強く、
サントリーの広報活動の一環として出版されたのでしょう。
1970年に約13万kLだったウイスキーの課税移出数量が
サントリーの二本箸作戦などで、1975年には約23万kL、
1980年には33万kL強、そして83年には空前絶後の約36万kLまで達した時代に
出版されたものだけあって、景気が良い話が多く載っています。

製法や歴史の話は今読んでも参考になりますし、著名作家のエッセイも面白い。
ただ、サントリーの傲慢としか言いようがない部分があり気になります。
例を挙げますと、

「ウイスゲ・ベーハー序章」(開高健)
スコッチ、アイリッシュ、カナディアン、バーボン、サントリー、
これら五種をひっくるめて、今かりに”ウイスキー”と総称することにする。


「社会史のなかのウイスキー」(渡部昇一 上智大学教授)
鳥井信治郎が三井物産を通じてスコッチ・ウイスキーの製造法に関する
文献を手に入れ、モルト・ウイスキーの蒸留をはじめたのも大震災の年であった。


「ブレンド 鼻の芸術」(佐治敬三 サントリーマスターブレンダー)
昭和のはじめの頃には、工場建設に当たった技師がすでに山崎工場を去って
ウイスキーの製造とは縁が切れていたのであるから、
日本におけるウイスキー造りの労苦は、
サントリー・ホワイト発売の前から父一人の双肩にかかっていたのである。


サントリー(当時の壽屋)がウイスキーの生産を始めるにあたって、
スコットランドでウイスキーの製法を学んできた竹鶴政孝を招いたことぐらい
素人でも知っていることですし、この本にも、それに触れた章もあります。
それに、竹鶴が壽屋を退職したのはサントリーホワイト発売から五年後、
1934年(昭和9年)のことです。
鳥井信治郎を「日本のウイスキーの生みの親」ということに文句はありませんが、
事実を歪めて自社を宣伝するのはいかがなものでしょうか。
せっかくの本が台無しになってしまいます。


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(9 訂正とお詫び)

2006年10月23日 | 酒類関連本

グダグダと「美味しんぼ 日本酒の実力」の
変なところをあげつらってきたのですが、
重大な勘違いがありました。

勘違いしていたのは、第五話の穂積先生の語りの部分です。
p115
「今まで大手酒造会社は」
「そして、新たな問題が」
p118
「今の日本酒の大半は、」

などというセリフを見て1995年にビッグコミックスピリッツに掲載された時に
取材したものだと思っていました。
しかし、実際には穂積先生の話のほとんどは、
「穂積忠彦・本物の美酒銘酒を選ぶ」
(1983年1月10日第一刷 著者:穂積忠彦 発行所:健友館)
から引用したものでした。
70年代後期から80年代初頭に問題になった白糠糖化液のことを
新たな問題としている時点で気がつくべきでしたが、
1995年の山岡たちに1983年の穂積先生が語るなんて
思いもしませんでした。
そのため、変なところをあげつらった突っ込み自体も
変な文章となってしまいました。
お詫びして訂正します。


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(8 最終回)

2006年10月19日 | 酒類関連本

「日本酒新時代」は到来したのか?

「日本酒新時代」を迎えたことを高らかに宣言して終わる本作ですが、
平成16酒造年度の特定名称酒のシェアは、
純米吟醸酒が3.3%(平成4酒造年度は1.6%)、純米酒が7.2%(同4.1%)
吟醸酒が3.9%(同3.9%)、本醸造酒が11.8%(同15.2%)、普通酒が73.8%(同76.6%)
となっています。
純米酒と純米吟醸酒のシェアは伸びているものの、
アルコール添加酒が市場のほとんどを占めていることには変わりがありません。
最後に、なぜ純米酒や純米吟醸酒が主流になりえないか考察してみます。

・一升2000円以上の中、高級酒

本作で紹介されている日本酒は全て一升2000円以上の商品で、
1万円を超えるものもあります。
これぐらいになると、精米歩合も高く、純米酒の重さもあまり気になりません。
純米吟醸酒が吟醸酒のシェアに迫るなど、
中・高級酒では純米酒・純米吟醸酒とアルコール添加酒は拮抗しつつあります。
ですが、より香りを引き出すなど利点も多いアルコール添加酒の需要も根強く、
これからも純米酒とアルコール添加酒は共存していくことになるでしょう。
(協和発酵「清酒へのアルコール添加の効用」http://www.arp-nt.co.jp/kyowa/fortification.html
このクラスでは、「日本酒新時代」は来つつあるでしょう。
しかし、このクラスの商品は日本酒全体の2割程度をしめるにすぎません。


・一升2000円未満の大衆酒

普通酒のほとんどと特定名称酒の一部の希望小売価格が一升2000円未満となっています。
現在、販売されている日本酒の約8割がこのカテゴリーに含まれます。
圧倒的に普通酒が多く、一升1800円前後の上撰クラスを中心に本醸造酒や純米酒があります。
しかし、本作で紹介された蔵元でも、このクラスの商品はアルコールが添加されたものがほとんどです。
純米酒しか造っていない蔵元のほとんどは、このクラスの商品を造っていません。
なぜならば、安価な酒を造ろうとすると、精米歩合が低くなるからです。
アルコール添加をすれば、コストを低くできますし、低精米でも味が重くなりすぎません。
精米歩合が低い純米酒は、どうしも鈍重な酒になりやすいのです。
そのため、このクラスで純米酒を出しているのは、大量に生産することでコストをカットすることができる
灘・伏見の大手酒造会社や大手並の設備を整えた蔵元などに限られています。


これまで述べてきたように、高級酒市場では「日本酒新時代」は到来する可能性があります。
しかし、市場の過半を占める大衆酒の市場ではアルコール添加酒の時代が続くでしょう。
多くの人は、理念や理想を飲むのでなく、味や価格で商品を選ぶからです。
本当に日本酒新時代がくるためには、コスト面の問題を乗り越える妙案が出てこないといけないでしょう。

 


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(7)

2006年10月07日 | 酒類関連本

これまで、グダグダと「美味しんぼ 日本酒の実力」の
変なところをあげつらってきましたが、
最後に何故この回に変な部分が多いか考察してみたいと思います。

 

・統計資料の不適切な使用

本醸造酒が純米酒より粗悪に造られていると訴えるくだりで、
一般的な純米吟醸酒より遙かに丁寧に造られた酒(おそらく純米大吟醸酒)を
純米酒の代表として一般的な本醸造酒と比べたり、
シェアが低い酒造会社が三増酒を止めても
全体としては少ししかアルコール添加量が少ししか減らないという
当たり前のことを理由に、密かに米粉糖化液を使用している酒があると書いたり、
統計資料を不適切に使用している部分があります。


・元ネタが古い

過去のこととなった桶買いを持ち出して大手酒造会社を叩いたり
「普通酒といえば三増酒」など、当時としても古い資料を参考にしているようです。
また、醸造用アルコールなど用語にも古いものが混ざっています。


・船瀬俊介氏の意見の挿入方法

先にも述べたように美味しんぼの酒類関連の話には、
「買ってはいけない」や「ほんものの酒を」を書かれた
船瀬俊介氏の意見が大きな影響を与えています。
日経BPのコラムでも美味しんぼと似たような主張を書かれているのでご参照ください。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/d/

船瀬氏の意見の大きな特徴は二点あります。

「大手メーカーや政府が嫌い」
日本酒では大手メーカーを貶し地酒の蔵元を誉め、
ビールではキリンを貶しサッポロを誉め、
ウイスキーではサントリーを貶しニッカを誉めています。
また、国の政策に逆らうようなことをした人を誉めたたえています。

「純米酒以外を認めない」
「ほんものの酒を」の頃は三増酒の非を説き
本醸造酒などはそれほど責めていませんでしたが、
近年の著作などでは純米酒以外を認めていません。

大手メーカーや政府への言いがかりに近いバッシングはともかく、
純米酒しか認めないという意見には一理あります。
しかし、この意見を船瀬俊介氏自身を漫画に登場させて述べさせていないので
変なことになります。
山岡と海原雄山という架空の人物に船瀬氏の意見を代弁させている内は良いのですが、
劇中の実在の人物の意見に船瀬氏の意見を混ぜてしまっているため、
アル添酒を責めた人がアル添酒を勧めるとかいう変な話になってしまっています。


以上のことが、「美味しんぼ 日本酒の実力」を変にしている原因だと思います。
防ごうと思えば防げる単純なミスや故意にやったとしか思えないミスが多々あります。
影響力がある漫画なのですから、注意してもらいたいものです。


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(6)

2006年10月06日 | 酒類関連本

P141
二木(祖父)
「失礼ながら埼玉県の深谷市という、決して大きくはない街に、
大手酒造会社の酒とは比較にならないすばらしい酒が、
華やかにけんを競っている。」

P150
銀高
「私が未来がないと思っていたのは、この50年間日本を牛耳っていた、
大手酒造会社主導の日本酒業界のことだったことがわかりました。」
「こっちは新しい日本酒の世界です。」

P152
山岡
「大手主導の三増酒やアル添酒が跋扈していたのは、”日本酒旧時代”。」
「俺たちは、”日本酒新時代”を迎えたんだ。」

大手酒造会社の酒=三増酒&本醸造酒などのアル添酒
地方の酒蔵の酒=本物の酒(この漫画では純米酒)
と、いうことを主張しています。
しかし、大手酒造会社も純米酒や純米吟醸酒を造っていますし、
この漫画で推奨された蔵元の過半はアルコール添加酒を造っています。


P153-154
銀高
「木村さん山岡さんの言葉を証明するようないい酒造りをしている酒蔵は、
本当にたくさんありますか?」

木村
「ありますとも」
「埼玉の「神亀」。群馬の「群馬泉」。茨城の「武勇」。
静岡の「喜久酔」。鳥取の「日置桜」。香川の「悦凱陣」。」
「どれも”味のまちだや”お奨めの酒です。間違いなく”日本酒新時代”です。」

日本酒新時代の酒はアルコールを添加していないはずなのですが、
静岡「喜久酔」の絵には、特別本醸造と描いてあります。
簡単なチェックぐらいしないのでしょうか?


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(5)

2006年10月03日 | 酒類関連本

P115
穂積
「今まで大手酒造会社が、あちこちから桶買いしてきた酒を調合しても、
ほどほどの味の酒に作り直すことができたのは、
活性炭素でごまかされたからなんだ。」

「ほんものの日本酒選び」(稲垣眞美 三一書房)という本に桶買いを批判する目的で、
大手酒造会社から中小酒造会社へ渡された文書が載っています。
それによると、古米を使ったり、酸度などが指定された基準に当てはまらなかったりした場合は、酒を買い取らないなどといった条件があったようです。


P116-117
穂積
「白糠は、白米を削ってできるクズだから、値段はべらぼうに安い。
それをブドウ糖や水あめなどの糖類のかわりに添加すると安上がりなうえに、
”「白糠糖化液」の原料は米だから糖類添加ではない”という理屈も成り立つ。」

「さすがに日本酒造組合中央会は、「白糠糖化液」を使用したときは、「醸造用糖類」と
添加物表示をすることに申し合わせた。」

「ところが、それは法的な強制力を持たない、業界の自主的な申し合わせにすぎないし、
もうひとつおかしいのは、”白糠糖化液を使ってはいない”という表示が、禁じられていることだ。」

大手酒造会社が米粉糖化液(白糠糖化液)をこそこそ使っていると言いたげな展開ですが、
これまでに米粉糖化液を使いながら原材料を米、米麹と表示して販売し問題になったことがあるのは、
美味しんぼのネタ元になっている「ほんものの酒を」でベタ誉めしていた東駒酒造ぐらいです。
また、平成18年4月から「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」が改正され、
米分糖化液を糖類とすると定められ、業界の申し合わせではなくなりましたが、
糖類添加に表示が変わった商品は私が知る限りありませんでした。


穂積
「いくつもの酒造会社が、”三増酒を造るのはやめた”と宣言している。
しかし、業界全体で使用している醸造用アルコールの量は
ほんのわずかしか減っていない。」

山岡
「三増酒を造るのと同じだけのアルコールを使って、
いっさい糖類を加えない酒なんて辛くて飲めたものじゃないから、
何かで調節するしかない。」

二木
「何かって、ほかには考えられないわよ。
白糠糖化液を使っておきながら、
糖類添加表示をしないお酒があるのよ!」


何時から何時までの統計を見て、
いくつもの酒造会社が三増酒の醸造を止めたのに
醸造アルコール(醸造用アルコール)の使用量が
あまり減っていないと書いてるか解りませんが、
それは別に不思議なことではありません。
平成9年の時点で清酒を醸造する会社は2232社ありますが、
1位のの月桂冠でもシェアが6.7%、10位の小山本家酒造が2.0%、
30位の合同酒精が0.4%しかなく、小企業が乱立している状態です。
シェアが少ない蔵元が三造酒の生産を止めても醸造アルコールの使用量の減少は
当然ほんのわずかしか減りません。
三増酒のシェアが大きく減ったのは、級別制が廃止されたことがきっかけだったのですが、
その前後でアルコール添加量を比べたのでしょうか?


P117-118
栗田
「ちゃんと法的な規制をしないからいけないんだわ。」
山岡
「いや、一番いけないのは、日本酒にアルコールの添加を認めていることだ。」
「アルコールの添加があるからこそ、糖類の添加も生じてくる。」
「アルコール添加が諸悪の元なんだ。」

本醸造酒や吟醸酒など糖類を添加しないアルコール添加酒がある以上、
説得力がない気がしますが、強引に話は進んでいきます。

P118
穂積
「そのとおり。」
「しかも添加される醸造用アルコールは、サトウキビの廃糖蜜を発酵させてつくられるんだ。」

近城
「廃糖蜜?」

山岡
「オーストラリアの製糖工場を取材したとき見たじゃないか。」
「黒褐色でどろどろした、コールタールのような代物だ。」

栗田
「砂糖をしぼった後の残りカスね。」

穂積
「食用にならない廃物を発酵させて作るアルコールだから、安くできる。」
「原料が原料なので、不純物が混じると匂いが悪くなるから、徹底的に精製する。」

近城
「冗談じゃないよ。米を磨いて造ったお酒のつもりでそんなアルコールを飲まされるなんて!」

穂積
「だから、私は言うんだよ。今の日本酒の大半は、”一見清酒風アルコール飲料”だって。」

廃糖蜜を全く関係がなく発ガン性のあるコールタールに例えるのは、
お好み焼きの具を吐瀉物のような代物だと言うぐらい意味がないことではないでしょうか。
また、例え醸造アルコールの原料が芋やトウモロコシであっても、
原材料の匂いや味が添加する日本酒に影響しないように連続蒸留機で徹底的に精製されるでしょう。
あと、原料が原料なのでなどと、廃糖蜜から造られるアルコールが粗悪なもののように書いていますが、
廃糖蜜からは、甲類焼酎や醸造アルコールだけでなくラム酒も造られます。
しかしながら、甲類焼酎や醸造アルコールを批判する論評はあっても、
ラム酒の味や香りを批判する論評は何故か見ません。

P119-120
(穂積先生のお勧めの酒が次々と紹介されていきます)
「亀の翁」吟醸 新潟県・久須美酒造
「出羽桜」雪漫々 山形県・出羽桜酒造
「千代の園」 熊本県・千代の園酒造
「達磨正宗」 岐阜県・白木垣助商店
「郷乃譽」花薫光 茨城県・須藤本家
「黒龍」二左衛門 福井県・黒龍酒造
「八海山」 新潟県・八海醸造
「雪中梅」 新潟県・丸山酒造場
(※太字はアル添酒)

栗田
「先生、ご自分のお子さんでも見せびらかすみたいに、自慢げで幸せそうで・・・・・・」

二木
「先生の日本酒にかけた愛着が、ここに集まっているのね。」

千代の園の大吟醸と雪中梅の吟醸はアルコールが添加されたお酒です。
直前まであれだけ批判していた”一見清酒風アルコール飲料”をお勧めする先生と
それを大げさに感動した眼差しで見つめる人たち。
とってもシュールな展開です。

P121
穂積
「ほら、あなたの思い出の酒があっただろう?」

澤村
「はい。」
「越の華」大吟醸(新潟県・越の華酒造)
「私がこういう店を始めようと思ったのは、この「越の華」に出会ったからです。」
「この酒に惚れ込むことで、日本酒に開眼したのです。
こんなに良いお酒をみんなに飲んでもらいたい、
みんなに知って欲しい、そう思いました。」
「同時に、日本中を歩いて、ほかにも良いお酒を探すことを始めました。」

栗田
「ひとつのお酒に出会ったことで、ご主人の人生が変わったのね。
何というすばらしいことでしょう!」

山岡
「先生、これが先生のおっしゃる、大事なことのひとつですね?」

越の華の大吟醸もアルコールが添加されたお酒ですが、
そんな矛盾は気にせずに話は続きます。


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(4)

2006年09月21日 | 酒類関連本

P94
山岡
「その級別制度が廃止になると、
今度は酒造会社が勝手に級別を作り始めた。」
「それが、この"特撰"とか"上撰"とかいうものなんです。」
(中略)
「問題は、それぞれどんな基準でつけているのか、
判然としないことだ。」

二木会長
「冗談じゃない!それじゃ混乱するばかりだ!」

二木父
「以前の級別制も、酒税のことを主に考えたいい加減なものだったのに、
今度のこの表示は、もっといい加減で何が何だかわからないよ!」

二木まり子
「あきれるわね、お酒の業界の人って、
どうしてこんなデタラメなことばかりできるのよ!」

雁屋節が冴えている名場面ですが、
実は「特撰」「上撰」「佳撰」はいい加減につけられているわけではありません。
参考小売価格を基準につけられています。
「特撰・上撰・佳撰とはなにか?」
http://www7a.biglobe.ne.jp/~souou/josen.html
平成18年現在だと、佳撰なら一升瓶で1643円、
上撰なら一升瓶で1887円が標準的な価格となっています。
少し調べれば解る事なのですから、ちゃんと取材してもらいたいものです。

P95-96
雄山
「一番の問題は、純米酒と純米吟醸酒は、
両方合わせても全出荷量の5.7パーセントしかないことだ。」
「残りの94.3パーセントの酒は、アルコールや糖類を添加したまがいものの酒だ。」
「美食倶楽部では、アルコールや糖類を添加した酒はいっさい認めない。」
「いい酒を選ぶのは、大変な苦労だ。」
「こんな滑稽で不幸な話があるだろうか?
たとえばフランスでワインを選ぶときに
まず”純ブドウワイン”を選ぶところから始めなければならず、
しかも、その純ブドウワインの比率が、
すべてのワインの中のわずか5.7パーセントしかない、
などという事態になったら、フランス人は革命を起こすだろう。」

補糖や補酸をしていないフランスのワインを探すのは案外面倒ですが
そのためにフランス人が革命を起こしたとは聞いたことがありません。

それに、東京の海原雄山が足を運ぶような酒店に
地方の蔵元から送られてくる商品のほとんどは特定名称酒でしょう。
特定名称酒の1/4は純米酒か純米吟醸酒なのに探すのが面倒というのは
ただの物臭な人にしか見えません。

P101
山岡
「先生は国税庁の醸造試験所で研究生活を送られた後、
民間のさまざまな醸造関係の会社で活躍された
日本酒最高の権威だ。」

P47で「大蔵省は、酒の質には無関心です。」と書いたのに
醸造試験場の存在は知っているようです。
また、「日本人は、権威とされる人の言うことには、
無条件にありがたがって従うおかしなところがある。」
と書いておいて人を権威と紹介するのは、いかがなものでしょうか。


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(3)

2006年09月02日 | 酒類関連本

P60
二木(父)
「旨味が足りないですな、味が固くてキリキリする感じだ。」
近城
「すっきりしているようには感じるけど、それは「ロ」の純米酒に比べて
味が薄いせいだってことがわかるよ。」
銀高
「純米酒のようなふっくらした感じがしません。痩せた味だ。」

確かに、すっきりとしすぎて味が固い本醸造酒はありますが、
全ての本醸造酒がそうでしょうか?
一口に本醸造酒と言っても、私がこれまでに飲んだものだけでも
端麗なもの濃醇なもの甘いもの辛いものなど色々ありました。
決して、「旨味が足りない」「味が固くてキリキリする」「味が薄い」
「ふっくらとした感じがしない」「痩せた味がする」ものだけではありませんでした。
また、逆に純米酒でも味が固くて薄いものにあったこともあります。
蔵元によって酒質は違いますし、同じ蔵元でも商品毎に違う場合もあります。
どこの蔵元のどの製品をモデルにしたかは解りませんが、
製品一つだけで本醸造酒の全てを語るというのは暴論ではないでしょうか。

P62
山岡
「たとえば、これはある酒蔵の例ですが、精米済みの白米1トンから
アルコール度数17パーセントの純米酒が2100リットルできるそうです。
含まれてるアルコールは約350リットルということになります。」

国税庁の「平成16酒造年度における清酒の製造状況等について」によると
純米吟醸酒は13,672トンの白米から28,368キロリットル造られて、
その平均アルコール度数は17.8度です。
白米1トンあたりに直すとアルコール度数17.8度の酒が約2075リットル造られ、
それに含まれるアルコールは約369リットルです。
つまり、ある酒蔵の例というのは、純米吟醸酒の平均よりも
量が少なくアルコール度数も低いとても特殊な純米酒ということです。
平成7年当時と純米酒の基準が大きく変わり、単純に比較的ないのですが、
純米酒は24,341トンの白米から51,931キロリットル造られ、
平均アルコール度数は18.3度です。
これも白米1トンあたりに直すとアルコール度数が18.3度の酒が約2133リットル造られ、
それに含まれるアルコールは約389リットルということになります。
このように特殊なものを純米酒の代表として語っていいのでしょうか。

P62-64
栗田
「この純米酒を、本醸造酒にするとしましょう。」
「その純米酒に添加していいことになっている120リットルのアルコールを加えると、
アルコール度数が高くなりすぎるから、水で割って全体を元通りの17パーセントの
アルコール度数になるように調整すると、
できるお酒の量は2806リットルになります。」
「つまり、純米酒を本醸造酒にすると、33.6パーセント生産量が増えるわけです。」
山岡
「同じ量の米からでも本醸造酒用に造る酒は、
純米酒よりたくさんできる造り方をするし、
本醸造酒のアルコール度数は15パーセントから16パーセントが一般的だ。」
「となると、本醸造酒の実体は今の単純な計算が示すものより、
もっと本物の酒から遠いものになる。」
二木(祖父)
「糖類こそ混ぜないが、アルコールと水で薄めた
本物とはほど遠い酒を"本醸造酒"などと呼ぶとはな・・・・・・・」

このくだりには二つ問題があります。
まず、第一は
>水で割って全体を元通りの17パーセントの
>アルコール度数になるように調整すると

>本醸造酒のアルコール度数は15パーセントから16パーセントが一般的だ。
>となると、本醸造酒の実体は今の単純な計算が示すものより、
>もっと本物の酒から遠いものになる。

>糖類こそ混ぜないが、アルコールと水で薄めた
>本物とはほど遠い酒を"本醸造酒"などと呼ぶとはな・・・・・・・
という部分です。
この説明は、純米酒は加水していないのに
本醸造酒は加水しているようにミスリードしているように見えます。
純米酒のアルコール度数も15-16パーセントが一般的で
加水した酒の方が原酒よりも多く販売されています。

次に
>同じ量の米からでも本醸造酒用に造る酒は、
>純米酒よりたくさんできる造り方をするし、
という部分です。
これも「平成16酒造年度における清酒の製造状況等について」からですが、
白米1トンから
純米吟醸酒は、約370リットル、
純米酒は、約389リットル、
吟醸酒は、約450リットル
 添加されたアルコールを除くと約345リットル、
本醸造酒は、約481リットル
 添加されたアルコールを除くと約366リットル、
のアルコールを造っています。
つまり、本醸造酒だからといって沢山できる造り方をしてるようではないようです。

P72
山岡
「日本人は、権威とされる人の言うことには、
無条件にありがたがって従うおかしなところがある。」

美味しんぼという漫画の自己批判でしょうか?

こんな風に書いた後で、人を「日本酒最高の権威」と紹介するのはどうかと思いますが。


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(2)

2006年08月30日 | 酒類関連本

第二話 日本酒の実力<2>

極亜テレビの金上が酒の卸問屋を乗っ取り、
そこに借金のある江戸一番の蔵元に
ある要求をしてきます。

P35
均野(兄)
「私どもで造る酒を全部、金上が新たに
買収した酒造会社に売れ、と言うのです。」
「金上は買収した酒造会社を大々的に売り出すために、
酒がたくさん必要なのです。」
「その会社だけでは金上の必要とするだけの酒が造れないので、
私たちの酒をよこせと言うのです。」
P36
「しかも金上は品質はどうでもいいから
今より三倍の量の酒を造れ、と言うのです。」

有能な経営者であるはずの金上が考えることとは思えません。第一話で
P25
栗田
「そうね。最近評判がよくて、普通のお酒屋さんでは手に入らないようだから・・・・・・」
というように、江戸一番は地酒として名高く一部でプレミア販売もされていそうな設定です。
普通なら、他から持ってきた酒に江戸一番のラベルを貼って出荷するでしょう。
それに、江戸一番の長所は高い品質のようなのに、長所を殺すような指示をするでしょうか?
そもそも、量を確保したいならば手造りで少量の生産しかできない江戸一番を乗っ取るよりも
近代的な設備で大量に生産できる会社を買収した方がコスト面で圧倒的に有利ですし、
得られる量も天と地ほど違います。
この理にかなわない展開は、山岡に次の台詞をいわすためのものでしょう。


P35
山岡
「本当に汚い話だ。」
「でも現実に、日本酒の世界では長い間行われていることだよ。」
「"桶買い"と言って、大きな酒造会社が小さな酒造会社の造った酒を
桶ごと買って、それを自分の酒の名前で売るんだ。」

かつて、大手酒造会社が中小の酒造会社から桶買いをして、
その酒に自分の会社のラベルを貼って出荷していたのは事実です。
しかし、「行われて"いる"こと」ではなく「行われて"いた"こと」です。
この回が描かれた95年当時には、未納税移出(桶売り)は、
中小の酒造会社→大手酒造会社ではなく、
大手酒造会社→中小の酒造会社という流れがメインになっていました。
自ら醸造することができなくなった酒造会社が集約醸造に参加という形をとり
大手酒造会社が造った酒を移入していたわけです。
そもそも、大手酒造会社による桶買いをしていたのには理由があります。
戦後長い間、酒造米は、昭和11年の生産数量を基準に割り当てられていたのです。
そのため、企業の販売能力と割り当てられる米に大きなギャップが生じ、
大手酒造会社は中小酒造会社の酒を買わねば製品を確保できませんでした。
しかし、昭和44年に自主流通米制度に移され、造石権のようなものは消滅し、
酒造会社は自ら醸造する数量を決められるようになりました。
こうして、中小酒造会社が桶売りしていた酒は、
大手酒造会社が自製した酒とのコスト競争に晒されるようになり、
大手酒造会社に桶売りするのは極一部の会社に限られるようになりました。
既に過去のものになったことをわざわざ持ち出す理由が解りません。


P46
山岡
「それどころか、日本酒業界で"普通酒"と言えば、三増酒のことなです。」

国税庁の「市販酒類の成分等について」によると
かつては、増醸酒が市販酒の80%以上を占めていましたが、
級別制廃止以降は平成5年を除き、増醸酒よりもそれ以外の酒の割合が高くなっています。
普通酒にも増醸酒でないものが増え、三増酒だけが普通酒ということではありません。


P47
山岡
「日本の酒造業界は、酒税を徴収するために、大蔵省の監督下に置かれています。」
「大蔵省は、酒の質には無関心です。まがいものの酒でも、たくさん造れるほうが
酒税をたくさん徴収できるから良い。」

国税庁(国税庁が発足する以前は大蔵省)には、国立醸造試験所
(現在の独立行政法人 酒類総合研究所)という機関があり、
酒類に関する研究や調査などを行ってきました。
山廃もとや速醸もとを開発したのは、醸造試験所です。
蔵元の後継者の多くも醸造試験所の講習を受けています。
酒の質に決して無関心だったわけではありません。


その(3)につづく


「美味しんぼ 日本酒の実力」の変なところ(1)

2006年08月27日 | 酒類関連本

先日、某大型古書店で美味しんぼを立ち読みしたのですが、
かつて読んだ時には気づかなかった部分に目が行きました。
ここでは、BC「美味しんぼ」54集に収録されている「日本酒の実力」の廉価版を元に
変な部分を見つけグダグダ書いていきたいと思います。

第一話 日本酒の実力<1>

P18
山岡
「特に、テレビなんかで大々的に宣伝している酒には、
がっかりさせられるものが多いから、
日本酒が低く評価されるのも、
当然といえば当然なんだ。」

この発言自体には別におかしくはありません。
(一升900円以下のお酒が美味しかったら、
高いお酒の立場がないと思いますが。)
しかし、これは「ほんもの酒を!」という本の主張の引用です。
「ドライビールの秘密」でエビスを誉めた部分や
「スコッチウイスキーの真価」でサントリーを貶し
ニッカを誉めた部分でも同じように引用がされているように
「ほんものの酒を!」は美味しんぼに多大な影響を与えています。
この本は「買ってはいけない」の著者の一人として色々な意味で有名になった
船瀬俊介氏が日本消費者連盟名義で1982年に出した本です。
本の内容を要約すると、大企業と国を叩き、
それに反抗する人たちを誉めるというものです。
出版当時の視点で見ても突っ込みどころの多い本ですが、
「日本酒の実力」が書かれた95年には完全に時代遅れになってしまっており
変な部分を生み出す原因になっています。


P20
山岡
「むしろ、料理との相性の幅は、日本酒のほうがずっと広い。
ワインにはどうしても合わない料理というものがあるが、
日本酒に合わない料理というのは考えられない。」

とりあえず、カレーとナンを食べながら日本酒を飲みたくありません。
近城が言うように贔屓の引き倒しでしょう。
日本酒とあう魚介類を食べさせたからといって、
日本酒が全ての料理とあう証明にはならないと思います。


P25
山岡
「えらい!お腹に赤ちゃんがいるのに、酒蔵訪問とは。
将来立派な酔っぱらいに育つことだろう。」

妊娠中にアルコールを摂取することは胎児性アルコール依存症など
胎児に悪影響を与えるとされています。
影響力のある漫画なのですから、少しは配慮した方がよかったのではないでしょうか。

(2)につづく