ジョルジュ・サンド George Sand

19世紀フランス女性作家 George Sandを巡って /日本ジョルジュ・サンド学会の研究活動/その他

Raymonはレモン?

2005年06月29日 | G.サンド研究
フランス語のカタカナ表記について

ブログはフランス語では、ブロックノット bloc notes というのだそうです。ブロックという呼び方は、日本人にとって違和感があるような気がします。大作『フランス女性の歴史』の著者、Montreynaudを「モントレイノー」とカタカナ表記された方がいて、フランス人に「モントレノー」ではないかと聞いてみたところ、「モントレノ」と表記するのが正しく、日本人はすぐに「-」と延ばしたがると訂正されたことがあります。

 ジョルジュ・サンドの小説”Indiana"に登場する金髪の美青年Raymonのフランス語の発音は、日本人にとっては、酸っぱい果実を連想させる「レモン」なのです。レモンは、クレオールの女中Nounヌンの一途な思いを裏切り、人妻Indiana を誘惑します。このことを知り、レモンの子を宿していたヌンは入水自殺をしてしまいます。結局、レモンはIndianaをも欺き、金持ちの令嬢ロール・ドゥ・ナンジと愛のない政略結婚をするのですが、この金髪のDonJuanのイメージとレモンというカタカナ表記の発音はぴったりマッチしていて、フランス人にとっては何ら違和感はないのだそうです。レモンはフランス語ではcitronですから、日本人のように即座に果物のレモンを連想する習慣のないフランス人にとては問題はないのでしょう。

 ちなみに日本ジョルジュ・サンド学会は、共著『ジョルジュ・サンドの世界』を刊行した折に、こうしたカタカナ表記が問題となり長い議論の末、これまでの翻訳の表記にあったアンデイアナとレリアをアンディヤナとレリヤに改め、統一することに決定しました。二重母音ですからPianoは、フランス語ではピヤノでなくてはならないはずだ、私たち教師は勇気をもってこうした先人の誤りを訂正していく義務がある、という議論が勝算を得たのでした。
しかし、このように共有度の低い言葉については問題は少ないとはいえ、英語の影響により日本人の意識の中にすでに長い間、居座り、文化として内在化してしまっている言葉については、これを正しいからといって即座に訂正できないものもあるような気がします。

 いっそのことクレオール語のような言語に変化してしまえば、独立した言葉として存在権を主張できますが、このように曖昧な形で言葉が混在化した運命を引き受けている日本語は、ある意味ではもうひとつの悲劇の言葉といえるのかもしれません。しかし、現代世界は、どんな作家も自国の言葉のみでものを書くことはできない時代だとも言われます。それほどに、どの言語にも他国の言葉が多少なりとも進入し混在しているのです。

 それにしても、学生によってはなかなか正しく覚えてくれない、rendez-vous(会うこと、予約)、chemise(ワイシャツ)、travail(転職や旅行ではなく仕事、勉強)といった言葉に出会うと、最初にこの言葉を訳出した先人を少し恨みたくなってしまいます。