週刊 新大土壌研

新潟大学農学部農学科 土壌学研究室の活動日記です 『週刊』を名乗っていますが、不定期に更新していきます

土壌5cm汚染の記事について

2011-04-27 | MN(野中)

 本日は横山論文は一休みです。横山論文では柏崎の原発予定地についても調査しています。

 今となれば貴重なデータです。

 チェルノブイリ事故から25年、20年経過したIAEAの調査報告書を紹介します。

  横山論文と合わせて考えても、その動きは同じ傾向で、私の理論的構築の基となっている報告書です。ただし、土壌や降水量、気候条件、作物とその管理など日本と異なることを常に考慮しなければなりません。講義でも使用しています。

 本日の新聞記事で表層土壌5cmに高濃度のセシウム137を検出した記事が掲載されました。

 そこで、この報告書のセシウムと137とストロンチウム90の挙動を説明します。

 ページ33に図が出ています。

 http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1239_web.pdf

Environmental Consequences
of the Chernobyl Accident
and their Remediation:
Twenty Years of Experienc(IAEA)の調査報告書(2006,4)です。

この報告書には数多くの論文が紹介されていますので、私は最も参考にな

る報告書の一つと思います。

英語で180ページですが、ぜひご覧ください。この中で1987年と2000年のthe Gomel region of Belarusにおけるセシウム137とストロンチウム90の土壌の垂直分布が出ています。

1987年には0~5cmの表層土壌に両核種とも83%蓄積していましたが、2000年にはセシウム137が0~5cmに43%、6~10cmに40%、ストロンチウム90が0~5cmに30%、6~10cmに38%、11~15cmに20%移動しています。

 福島でも今のうちに表層土壌からセシウム137やストロンチウム90を除去することが優先されなければなりません。

 また、福島県を医療面から調査してきた方からの情報ですが、土壌粒子の飛散を通した放射能汚染の拡散が始まっているとのことです。

 前回のブログで述べたように早く対策を行わなければなりません。


今までの知見から、土壌対策提案その1、

2011-04-26 | MN(野中)

 メールやブログを通じて質問が来ていますのでそれにお答えすることも含めて、下記をまとめました。 

 できるだけ早く、農家が農業を営める観点から、横山論文を私なりにまとめたものです。

 まず、私の思いを書きます。 

 日本では古くから「食農同源」と「医食同源」と言う言葉があります。つまり、食べ物は「農」の営みで作られている。農村風景はこの「農」の営みによりできている。その源は私の専門の「土」である。「土」は古代から日本では自然の生き物、生命力と考えられてきました。ヨーロッパでもヘブライ語の「土」(Adama)はアダムの起源となり、その妻イブは「生きること」(hava)を起源としています。これら、健全な「土」で栽培される農産物は私たちを健康に導いてくれます。また、「農」とは自然の中の農家の営み、生活、生きざまそのものです(ポプラ社「旬がまるごと」著者文章掲載予定、一部引用)。

 

 この農の営みを回復するためには健全な「土」が必要です。

 

 今年の秋以降は放射能核種が環境中に放出されないとの前提で書きます。

 

 1)森林地帯

 チェルノブイリと異なり、標高の高い山が多く、今回の核種の環境への放出で風向きで特に集積しやすい場所を特定して、汚染地図を作製すること。その場合、樹種にかかわらず植物体への放出直後から今まで沈着した放射能核種が多いと考えられる。この際、葉面吸収により直接植物体内に蓄積された放射能核種(この場合問題となるのはセシウム137とストロンチウム90)がある。森林土壌の場合、現在はそれほど放射能核種は蓄積していないと考えられる。森林の場合、土壌に直接蓄積されず、樹木・葉に沈着・葉面吸収される割合は90%以上と考えられる。しかし、今後、梅雨、台風、落葉による森林土壌A0層(Aゼロ層・土壌の上の植物遺体や腐植が蓄積した層)が放射能核種の蓄積層となる可能性が高い。

 このA0層に蓄積した放射能核種は自然に減少するのを待つしかありません。毎年、新しい汚染されていない落葉樹枝が堆積して、土壌に変わってゆきます。

 しかし、そのうち10~20%前後は降水により、移動して行くと予想されます。飲料水、農業用水の集水域となっている地帯は河川水、伏流水、地下水のモニタリングが長期間にわたり必要です。

 2)牧草地帯

 水田・畑土壌と比べると土壌への蓄積量は半分以下です。イネ科と比べてマメ科牧草が植物体への蓄積が多くなります。葉面吸収も含めて、1回の栽培で持ち出しはラジノクローバーで8%前後、イタリアンライグラスで4%前後です。1年に数回収穫するとすれば、1~2年で影響はなくなると考えられます。しかし、家畜(牛乳や肉)も含めてモニタリングは必要です。

 3)畑・水田

 今回は土壌1Kg当たり5000Bq以上で作付ができない地域について述べます。が、基本的に他の畑や水田も同じです。

 当たり前のことですが、横山論文でも裸地土壌が最も蓄積します。

 裸地状態で、これか夏から秋にかけて心配なことがあります。

 ①黒ボク土(火山灰土壌)は降水や風による土壌粒子が飛び散ることによる汚染の拡散です。

 ②雨による土砂流出に伴う、拡散と蓄積です。

 そのために、カバークロップ(土壌を覆い、成長の早い植物・できればマメ科で根が浅い植物)の直播(耕作しないで直接種をまく)により、今年の秋まで栽培する。秋以降、機械で植物とともに土壌表層を剥ぎ取り処分する。紙マルチなどマルチングでもよいと思いますが、その間、地下水や農業用水は利用しない。これら水は来年春以降利用できるようにモニタリングをおこない、ゼオライトなどで浄化対策を行う。

 

 菜の花などの植物による浄化はその吸収率から7~10年単位だと思います。

 

 読売新聞の私の記事は本文では上記のことを強調しているのですが、見出しで「植物」が躍ってしまいました。見出しまでチェックできませんでした。

 

 結果的に混乱させたとすればお詫びします。

 

  現在、耕作可能地域でも、横山論文で紹介しましたが、用水を通した他の農地への拡散、水の縦浸透を通した移動、低地排水不良水田への蓄積、灌水による移動、など、水を通した拡散・蓄積が心配されます。有機農業で用いられてきた水田水口にゼオライトや活性炭、ビオトープなど従来用いられてこなかった環境に安全な農業技術が役に立ちます。畑では混作栽培、カバークロッピング栽培、自然農法的な作物以外の草との共生栽培などがあります。自然農法的な栽培法も参考になります。これにより、土壌・作物と収穫物の質を高め、「ただの生き物」が増えて農薬も必要最低限で済むようになると思います。

 

 また、どうしても残存した放射能核種は水田も畑地も良質の有機物を投入することで作物への吸収を抑えられます。

 

 今後、これを契機に福島が日本で最も安全・安心で、家族経営を主体とした産地へと復活することを皆さんで応援しましょう。 

 

 あくまで、来年以降、できるだけ早く農業ができるように考えるべきです。

  

 

 


放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究 その7

2011-04-25 | MN(野中)

 

今まで、述べましたが放射能核種の土壌汚染は一律でなく、同じ町でも地形、立地条件、水の利用、土壌の母材、粘土含量、腐植含量、栽培作物等で大きく異なっています。。

 従って、それに応じた細かい対策が必要です。高濃度に汚染された地域は植物を用いた除染は10年単位だと思いますので、早く農地を復元するためには表土をはぎ取り、有機物などの資材を入れて優良な農地にするしかありません。

 

 上記研究で牧草地土壌中の交換性セシウム137や交換性性ストロンチウム90で根から吸収した(交換性とは土壌粒子に保持されていた元素の中で他の陽イオンで交換されて根から吸収したイオン)は前報で葉面吸収が相当量あるが、すべて根からの吸収と仮定すると両者ともにラジノクローバーで8%前後、イタリアンライグラスで4%前後としています。

 この論文ではこの中に葉面吸収も多く含まれていると推測していますので、この点はこれから研究する人たちの課題と考えます。

 ところで、同じ年に同じ深さまで採取(0~50cm)した、同じM町近くのの水田土壌(土壌1Kg当たり)に蓄積したセシウム137は151Bq、ストイロンチウム90は105Bqです。

 一方、牧草地(土壌1Kg当たり)ではセシウム137は82Bq、ストロンチウム90が42Bqでした。

 これは、草地土壌では水田土壌と比べて、作物への蓄積が大きいことを示しています。

 これはベラルーシ国立土壌研究所の結果とも同じ傾向を示しています。

 下記文献でセシウムの移動率のファクターが記載されています。

 Generic values for soil-to-plant transfer factors of radiocesium

 Journal of Environmental Radioactivity 、Vol 58 2002

 113-128

 上記雑誌に多くの文献があります。


放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究 その6

2011-04-25 | MN(野中)

 今回は上記論文の中で作物と牧草の放射能核種の挙動を解説します。

上記論文では1956年と1957年12か所の野菜のセシウム137とストロンチウム90を測定しています。

 1955年からソ連の核実験が始まっています。

 野菜でキャベツ、カブ、ダイコンを調べています。長期間栽培していた野菜は水洗いしても放射能は減少しません。古い葉のほうが多く残ります。

 放射核種は植物の葉に沈着した後、葉面吸収があるようです。越冬展開した葉からは最大約乾物10g当たり125Bqのガンマー線が検出されています。

 牧草のセシウム137とストロンチウム90も調べています。

 調べたのは1963年、1964年、1966年です。

 ラジノクローバーとイタリアンライグラスについて測定しています。場所はM町の新潟大学農場です。これは牧草の植物体乾重1Kg当たりのセシウム137とストロンチウム90を測定しています。

 ラジノクローバーでは1963年がセシウム137で734Bq、ストロンチウム90で617Bq、1964年がセシウム137で347Bq、ストロンチウム90で604Bq,1966年でセシウム137で60Bq、ストロンチウム90で211Bqでした。

 イタリアンライグラスは1965年のデータですが、乾重1Kg当たりでセシウム137が104Bq、ストロンチウム90で95Bqでした。

 以上の事実はマメ科牧草で土壌を覆うラジノクローバーはセシウム137とストロンチウム90の保持量が多いこと、これは土壌からの吸収より、沈着による葉面吸収が大きいと推測いています。

 イタリアンライグラスは1年間に5回刈り取りを行い、その平均値であること、マメ科と比べて沈着や吸収が低いことがわかります。

 刈り取り時期別濃度を比較すると、降水量が少なく土壌の水分含量が小さい時期に牧草中のセシウム137とストロンチウム90が抑制されています。

 マメ科牧草による土壌表面被覆が土壌への蓄積を防ぐ手段としてかなり有効です。

 

 


チェルノブイリを受けたEUの土壌対策についてその4(木村園子ドロテアさんからの情報)

2011-04-25 | MN(野中)

10.浅耕

概要

作物を取り除くあるいは透きこむ一般的なプラウにより、表層2030cmを攪拌することができる。

表層の汚染された層は、より下層に埋蔵され、それにより、(根系に依存する)植物の根からの吸収を抑制し、外部への放射が削減される。

有効性

植物の吸収は平均的に50%、075%の範囲で減少する。

外部への放射量は50-90%減少する。

調査例は、ストロンチウムとセシウムでしか知られていないが、他の放射性物質(60Co, 75Se, 95Zr, 106Ru, 110mAg, 125Sb, 144Ce, 192Ir, 226Ra, 238Pu, 241Am, 252Cf)についても有効であると考えられる。

注意:プラウ耕はウランを動きやすくする。

 

 

11.プラウによるすくい取りと埋蔵

概要

作物が存在しないとき、2枚の刃を持つ特別なプラウによって、表層(5cmほど)をすくい取り、下層約45cmに埋蔵することができる。下層の土壌(550cm)は片方の刃によって持ち上げられ、545cmの土壌層を反転することなく上部へと移動する。汚染土壌の直接放射および根の吸収は抑制され、土壌の肥沃度への影響は最小限に保たれる。

有効性

土壌への汚染状況に合わせて処理した場合、汚染は8392%に削減される。

土壌から植物への移行は90%削減される。

外部への放射量は94%削減される。

調査例は、ストロンチウムとセシウムでしか知られていないが、他の放射性物質(60Co, 75Se, 95Zr, 106Ru, 110mAg, 125Sb, 144Ce, 192Ir, 226Ra, 238Pu, 241Am, 252Cf)についても有効であると考えられる。

注意:本手法はウランを動きやすくする可能性がある。

 

 

以上ですが、私の読売新聞の記事で植物が強調され、見出しが躍りました。

内容はチェックしたのですが、見出しまでチェックできませんでした。

 

しかし、植物除去は汚染程度が低い地域では有効と思いますが、

除去には数年かかります。

できるだけ早く農業を再開したいと考える農家のためには表層除去がベストと考えます。

 

 これを契機に、有機農業のような、よりよい土作りむけた取り組みが必要です。


チェルノブイリを受けたEUの土壌対策についてその3(木村園子ドロテアさんからの情報)

2011-04-25 | MN(野中)

7.乾草の加工・利用

概要

乾草やサイレージ(被覆による貯蔵)、飼料作物(飼料ビーツなど)を、ビニールシートや防水布で覆う。

この方法は、汚染が生じる前の予防措置であり、沈着が生じる前にのみ有効である。汚染大気の通過後は通常の使用が可能である。

有効性

除去効率は最大100%である。

 

 

8.果樹やブドウの摘枝

概要

果樹の葉や葉による捕集、保持、吸収が、果実への主な放射性物質の汚染経路である場合に行う。

葉による吸収の後、放射性物質は果実へ転流する可能性がある。

転流する可能性は、放射性物質、果実種、沈着が生じた再の果樹の生育ステージによる。

沈着が生じた直後の化学的手法、機械的手法や手作業による摘枝や落葉により、葉から植物の他の部位への放射性物質の転流が抑制され、果実による人間への内部被爆を軽減できることが、実験によって示されている。

放射性物質の濃度を下げるための摘枝は、その年の収量減につながる可能性がある。

有効性

放射性セシウムの沈着直後の落葉は、ブドウの放射性物質を約90%削減した。沈着2日後の部分的な落葉は、ブドウ内の放射性セシウム濃度を約50%に削減した。沈着後2年目の放射性物質は、はじめの年の100分の1~1000分の1の濃度である。

 

 

9.加工して食することができる作物の選別

概要

加工は最終的な食品から放射性物質を除くことができる。

たとえば糖料や油料作物は、そのような加工工程を経ない作物と代替することができる。

有効性

加工は、最終的な食品(たとえば砂糖、油、ワイン)から、放射性物質を取り除くとても有効な方法である。もっとも、調査例は、セシウムとストロンチウムについてしか存在しない。60Co, 106Ru, 110mAg, 125Sb,  144Ce, 226Raといった放射性物質は、理論的には除去しうる。加工による放射性物質の濃度の変化は、加工後の残留係数によって推定することができる。残留係数とは、加工後の食品の放射性物質が原料の放射性物質に占める割合であり、下記の式で示される。

加工残留係数=加工後の食品の放射性物質の全活性(Bq)/原料の放射性物質の全活性

いくつかの残留係数例

原料

最終食品

残留係数

オリーブ

Cs : 0.4

Cs : 0.1

ブドウ

赤ワイン

 

ロゼ

 

白ワイン

Cs : 0.6

Sr  : 0.6

Cs : 0.15 – 0.7

Sr  : 0.2

Cs : 0.3

果実

ジュース

Cs : 0.6 – 0.7

Sr : 0.06

コメ

白米

Cs : 0.1

Sr : 0.2


チェルノブイリを受けたEUの土壌汚染対策その2(木村園子ドロテアさんからの情報)

2011-04-25 | MN(野中)

4.作物の早期除去

概要

放射性物質は、沈着後、作物の表面に残留する可能性がある。沈着が起こった後直ちに、あるいは雨が降る前に作物の地上部を取り除くことで、土壌への汚染を軽減することができる可能性がある。

作物は廃棄する必要がある。

有効性

外部からの沈着物は最大で95%除去できる可能性があるが、たいていは5070%の除去効果がある。

沈着が起こった後、雨が降る前、あるいは灌漑していない状態が最も効果的である。

実験では、汚染が起こった6日後の雨により小麦についた放射性セシウムの50%が、放射性ストロンチウムの20%が洗い流された。

 

 

5.草地更新

概要

不良草地の更新は放射性セシウムと放射性ストロンチウムの吸収を削減する。

更新は、プラウ、ローリング、再播種、窒素・リン・カリ肥料の施用および石灰施用を含む。

プラウ耕の前には、既存の植生を破壊するために、非選択性の除草剤の散布が勧められる。

暗渠の設置が必要な場合も存在する。

一部分のみを更新する場合は、家畜が更新されていない草地の採草するのを防ぐため、フェンスの設置が必要かもしれない。

有効性

・放射性セシウム

本手法は、チェルノブイリ後の旧ソ連で広く行われ、過激な対策法と言われている。いくつかの調査により、本手法による土壌から植物への移行抑制効果は、無機土壌では5075%、有機質土壌では67-83%、外部への放射抑制は96%であった。

ディスクハロー、プラウそして、再播種2年後における土壌から植物への移行抑制効果は5075%であった。

・放射性ストロンチウム

自然草地における「過激な対策法」の効果は、旧ソ連のデータで知ることができる。

無機土壌では67-83%、有機質土壌では 67-90%の抑制効果がある。

・他の放射性物質

セシウムやストロンチウム以外の放射性物質に関する調査例は存在しない。しかし、他の放射性物質についても理論的には抑制効果があると考えられる。

注意:石灰の施用は、75Se, 95Nb, 99Mo/99mTc, 110mAg, 125Sb, 127Sb, 132Te, 134Cs, 137Cs を、プラウ耕はウランを動きやすくする。

 

 

6.表層除去

概要

作物が存在しないとき、表層25cmを道路建設機材(ブルドーザーなど)によって除去する。除去物質を廃棄することを考慮しなければならない場合、小面積でしか応用することはできない。

有効性

除去効率は90-97%である。


チェルノブイリを受けたEUの土壌汚染対策(木村園子ドロテアさんからの情報)

2011-04-25 | MN(野中)

先ほど、書きました容量が多くて発信されませんでしたので分けて発信します。

木村先生ありがとうございました。

有機農業学会理事の東京農工大学・准教授からの情報です。

 

農耕地における対策方法 (EURANOS 2004)より抜粋

http://www.euranos.fzk.de/index.php?action=euranos&title=products

 

土壌/作物/草地について

1.農耕地への石灰の施用

概要

pHの低い土壌、あるいは、カルシウム含有率の低い土壌に石灰を施用することにより、植物の放射性物質(特にストロンチウム)の吸収を抑制する。

耕起後にもっとも効果がある。

草地では表層施肥を行うことも可能である。

有効性

・放射性ストロンチウム

pH5からpH 7までの無機土壌への施用は植物の90Srの吸収を砂地では50%、壌土では67%、粘質土壌では75%を阻害し、pH 4からpH 6の有機質土壌では83%阻害する。

pH6あるいは7以上の土壌には効果がない。

石灰施用の効果は最低5年持つ。

無機質土壌についてはpH7に、有機質土壌ではpH6に毎年保つことが推奨される(およそ0.5-2 t CaOhaの施用)。

・他の放射性物質

ストロンチウム以外の放射性物質への吸収抑制効果としては報告がない。しかし、他の放射性物質(60Co, 95Zr, 103Ru, 106Ru,  141Ce, 144Ce, 169Yb, 192Ir, 226Ra, 235U, 238Pu, 241Am, 252Cf)についても理論的には、抑制する可能性がある。

注意:石灰の施用はpHの変化により、75Se, 95Nb, 99Mo/99mTc, 110mAg, 125Sb, 127Sb, 132Te, 134Cs, 137Cs を動きやすくする。

 

 

2.農耕地へのカリ肥料の施用

概要

カリ施用は、カリ濃度の低い土壌への施用では植物の放射性セシウムの吸収を抑制する。

カリは、単独あるいは、窒素やリン酸肥料と混合して、耕作により土壌に施用する。

草地では表層施肥を行うことも可能である。

有効性

土壌のカリ濃度が0.5 meq 100g-1以下の土壌で最も効果がある。この濃度以下の場合、吸収量は80%まで減少すると報告されている。

放射性セシウムの吸収を阻害するためには、複数回の施用が必要な可能性がある。土壌別の有効係数Woodman and Nisbet (1999)に掲載されている。

 

 

3.深耕

概要

作物がない場合、通常のプラウ耕により、45㎝の土壌を動かすことができる。表層の汚染土壌のほとんどを深層に埋めることができる。このため、植物の放射性物質の吸収を減らすことができる(植物の根系の影響あり)、外部への放射性物質の露呈を防ぐ。

有効性

注意:この方法はウランを動きやすくする可能性がある。

植物の吸収抑制は、高くて90%、平均では、50%である。

外部への放射は5090%減少、もっとも高い抑制は完全な反転耕による。

調査事例は、ストロンチウムやセシウムでしか存在しないが、他の放射性物質についても同様な効果があると予想される。

木村園子ドロテアさんからの情報です。

 

 


土壌中の放射能を吸着材で吸着させて、洗浄した後、土壌を戻すことについて

2011-04-22 | MN(野中)

 ある方から、土壌中の放射能核種を吸着材で吸着させて、持ち出し、洗浄後、土壌だけを戻すことが可能でしょうか?と質問を受けました。

 前にも書きましたが、セシウムやストロンチウムはプラスイオンでマイナスイオンの土壌粒子に吸着されていますから、原理的には可能だと思います。

 しかし、今まで書いてきたように土壌中には粘土と腐植が存在します。この粘土と腐植含量が多い土壌はセシウム137やストロンチウム90を強く保持しています。

 これら粘土や腐植含量が多い土壌、たとえば火山灰土壌(黒ボク土壌)は効果が小さいことが予想されます。

 福島県の土壌は黒ボク土壌が多いです。