週刊 新大土壌研

新潟大学農学部農学科 土壌学研究室の活動日記です 『週刊』を名乗っていますが、不定期に更新していきます

土壌からの放射能検出について

2011-04-14 | 原田

土壌研ブログに千葉の有機農業関係の方から次のようなコメントをいただきました。

 

「現在福島原発から、放射性物質が放出され、関東にも届いていることは分かっていますが、農業土壌にふさわしい濃度というのはどれくらいが上限なのでしょうか。チェルノブイリでは、高濃度汚染地域が半径700km近くまで及んでいますが、今後の風向きや降雨の状態で、当地もそうした地域にならないとも限りません。高濃度では、恐らく立ち入り制限や避難地域と指定されることもありうるわけですが、そうならなかった場合、どれくらいが許容レベルで残れるか。また、除染ですが、ひまわりが最も吸収力があり95%近く吸収してくれるとあります。これは、栽培して吸収させたものを放射性廃棄物として適正処理を行えるような仕組みを公的に整備しておけば、有効な手段と思いますが、現実性としてはどうなのでしょうか。
夏作と冬作の2作を除染作物だけを栽培することで、土壌浄化も早まるのではと思うのですが、冬は麦やアブラナ科のもの(チェルノブイリは菜種ですが)などが適しているでしょうか。

ご意見いただけると嬉しいです。」

 

ご記名がございましたが返信先がわからなかったので、ここで私の見解を述べさせていただきます。

 

1. 農業土壌にふさわしい濃度

お答えするより先に「土壌中のCs-137濃度が5,000 Bq/kgを超える水田では作付禁止」という政府基準が出てしまいました。イネだけの基準ですが、放射能の暫定規制値である500 Bq/kgを念頭に、移行係数が0.1という厳しい仮定(土壌中Cs-137の10%が白米に移る)で計算されていて、消費者からみても妥当なところなのではないでしょうか。

他の主要作物についても同様に、暫定規制値 500 Bq/kgにならないように作物ごとに移行係数を勘案して土壌中Cs-137濃度の規制値を決めるという手立てになるのではないでしょうか。もちろん、出荷される作物の放射能濃度チェックも行うでしょうから、ダブルチェックになります。

ただ心配なのは、今は大気から降下したCs-137が土壌表層に蓄積しているのですが、耕してしまうと混ざってしまい、結果的に残留期間が長くなる恐れがあること。問題がありそうな土壌については一律に表層数~数10 cmを剥いで「放射性廃棄物」としてどこかで管理することが必要に思います(いわゆる排土)。その後、健全土壌で覆うと一層効果的でしょう(これは客土といいます)。

2. ひまわり等による除染

ひまわり等の植物がCs-137の除染に効果的という話があるのは承知しております。が、95%というのは水耕栽培の結果と思います。土耕では他の養分との競合や土壌への吸着(Csは強く吸着します)があるので、せいぜい数%程度の吸収率ではないでしょうか。

もちろん除去促進はできますのでやらないよりやった方がいいかもしれませんが、過度の期待は禁物と思います。やはり、まずは排土・客土が効率的でしょう。また、植物を使った場合には除染に使った植物体は相当嵩高くなるため、その処理が頭の痛い問題になります。

 

以上です。

 

最後に、ご返信がたいへん遅くなったことをこころよりお詫び申しあげます。