週刊 新大土壌研

新潟大学農学部農学科 土壌学研究室の活動日記です 『週刊』を名乗っていますが、不定期に更新していきます

放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究 その4

2011-04-21 | MN(野中)

 この研究では耕地土壌の透水性、土壌断面の各層位毎の化学分析・土性とセシウム137及びストロンチウム90の関係も調べています。          

 A町で近接する水田土壌の非常に排水が良い乾田、表層土壌の粘土の割合が7%、砂が60%、腐植含量2%と、排水の悪い湿田、表層土壌の粘土の割合が38%、砂が18%、腐植含量が8%で比較しています。湿田では下層まで粘土含量と腐植含量が乾田と比べて高いです。土壌採取は1965年です。

 その結果、土壌1Kg換算で乾田ではセシウム137が0~12cmに78Bq、12~23cm31Bq、ストロンチウム90が0~12cmに24Bq、12~23cmに16Bq、23~37cmに6Bq、37~50cmに1Bq蓄積していました。

 土壌1Kg換算で湿田ではセシウム137が0~12cmに98Bq、12~23cm25Bq、23~37cmに6Bq、37~50cmに7Bq、ストロンチウム90が0~12cmに38Bq、12~23cmに11Bq、23~37cmに1Bq、37~50cmに0.4Bq蓄積していました。

 この結果から、セシウム137とストロンチウム90は粘土含量と腐植含量が多い、湿田で高くなります。毎年耕作されていますので、耕作により湿田では下層土で保持されています。

 次に、G市の沖積水田土壌と約1Km離れたM町の火山灰水田土壌を比較しています。土壌採取は1967年です。

 沖積水田土壌の表層土壌の粘土の割合は26%、腐植含量は4.3%です。火山灰水田土壌の表層土壌の粘土の割合は32%、腐植含量は10%です。これら土壌の粘土と腐植は土壌下層まで同じ傾向を示しています。

 沖積水田土壌のセシウム137は0~16cmで91Bq、16~25cmで8Bq、25~35cmで11Bqです。ストロンチウム90は0~16cmで27Bq、16~25cmで12Bq、25~35cmで4Bq、35~50cmで3Bqです。

 一方、火山灰水田土壌はセシウム137は0~15cmで132Bq、15~28cmで12Bqです。ストロンチウム90は0~15cmで48Bq、15~28cmで33Bq、28~38cmで14Bq、38~50cmで10でBqでした。

 これらの結果は粘土と腐植が多い火山灰水田土壌では沖積土壌と比較してセシウム137とストロンチウム90の保持量が多いことを示しています。

 次回(可能ならば明日)は立地条件を異にする水田土壌について報告します。


放射性降下物の土壌ー植物系における汚染とその除染に関する研究,その3

2011-04-21 | MN(野中)

 まず、具体的な数字を出す前にお願いがあります。

 このデータは1954年から、旧ソ連、アメリカ、中国の核実験の結果、世界中に放射能核種がばらまかれました。新潟大学では1954年3月1日のアメリカビキニ環礁の核実験の際に新潟市で放射能を日本の大学として初めて検出したことから始まっています。

 その後、1969年新潟では柏崎に原発建設計画が起きて、この調査が継続されています。気象研究所地球化学研究部の三宅泰雄氏らのグループも盛んに研究を行っていました。当時、唯一の被爆国であった日本でこのように核実験から放射能が日本全体に降下することに対して、許せないという思いから研究が継続されたと聞いています。

 今回発表するデータは新潟県の農地や森林などの放射能が特別に高かったのではなく、日本全体で高くなったこと、現在、ほかの地域も含めて新潟では全く問題ないことを付け加えます。従って、今回の福島原発事故による放射能汚染問題は日本人全体の問題として考える必要があります。

 さて、森林と山岳土壌を紹介します。、

  佐渡ドンデン山標高850m、裸地に近い野芝草地土壌、赤泊標高320m、赤松林土壌からサンプリングしています。

  当時、ドンデン山は森林でないために直接日本に降下してきた放射能量を予測できます。

  1954年から核実験が始まったと書かれています。両地の土壌採取は1966年です。

  ドンデン山では10年間で降下した放射能は土壌Kg 当たりセシウム137が128Bq、ストロンチウム90が90Bqでした。毎年、降下していますから、下層への溶脱は少ないですが、セシウム137場合、0~10cmに81%、10~20cmに14%、20~30cmに5%でした。ストロンチウム90の場合、0~10cmに66%、10~20cmに12%、20~30cmに6%、30~40cmに9%、40~50cmに7%です。両方とも10年経過しても土壌表層に蓄積しやすいですが、ストロンチウムのほうが雨水で下層に溶脱しやすいことがわかります。

  次に、赤泊の松林ですが、土壌Kg当たり、セシウム137は3.32Bq、ストロンチウム90は1.92Bqです。セシウム137は0~10cmに100%蓄積しています。ストロンチウム90は0~10cmに89%、10~20cmに10%、20~30cmに1%です。

  先ほどの山岳地帯のデータと比較して、土壌に蓄積される量が少なくなります。これは葉や樹木と土壌のA0層(土壌表面の腐植層)に吸着されているセシウムやストロンチウムが多いと予想されます。

  これらのデータは標高が高く、遮蔽物がない場所ほど蓄積量が高くなることも示しています。

  福島の場合、森林の樹木や土壌、雪に直接蓄積したセシウム137とストロンチウム90がどの程度、雨水や雪に溶けて河川に流れるか監視しなければなりません。