ときめ句ノスタルジッ句昭和親父の温故知新

思うままに、俳句と唄を、昭和の匂いをぷんぷんさせて。

コーヒーの香り②歌声喫茶

2019-03-19 | 詩物語
 コーヒーは孤独を誘う香り
 孤独を癒す香り

街に 一軒だけ歌声喫茶があった
ショートホープの彼が連れて行ってくれたと思う
場所はもうはっきりとは思い出せない
繁華街の外れの 狭い階段を上がった二階にあった
喫茶店の名前も忘れたけど おばあさんが経営していて
一人で注文を聴いてテーブルまで運んでいた
六十代ではなかったろうか
そうそう おとなしいダックスフンドが居たっけ

小さいピアノがあった
それを弾いてる女性が 娘だったのかもしれない
初めてドアを開けた時も すでに伴奏と歌声がしていた
そう広くもない店内は テーブル席ばかりだった
二人掛けと四人掛けで ほぼ満席だった
それを一つ詰めてもらって僕らは座った

でも 彼は歌好きというふうではなかった
備え付けの歌本を捲ってるだけだった
と言う僕も 一緒に歌うのはまだ恥ずかしく
やはり下を向いて歌本を捲っていた

東京の歌舞伎町にあった「灯」の
あの活気には到底およばない
店の大きさだけではない
指導者もいないから 実に細々とした空気で
もしもここに「灯」の指導者が来たなら
叱り飛ばされたかもしれない
だけど僕には ここの雰囲気が好きになって行った
みんなどこか慣れ切っていなくて 内気だ 
高らかに 力強く歌う人はいない
その はにかんだ連帯感が好きだった


彼は僕に場所を教えてくれただけだった
その後は僕一人で行くようになった
初めて歌ったのは「ドナドナ」だった
よく流行った歌で テレビやラジオでもよく聴いた
だから 歌えるはずだった
歌本を見ながら歌い始めたのだが
ピアノの伴奏で歌うのも初めてだったし
テーブル席で座ったままでも あがってしまった
そして「ドナドナ」と歌う箇所が 歌詞には
「ドンナドンナ」とあったため その通りに歌ってしまった
それでどうしてもリズムが狂う
狂うけど「ドンナドンナ」とまた歌う
合わない 顔が真っ赤になってるのが自分でわかる
見るに見かねたのだろう
傍の席の人が一緒に歌ってくれて
何とか歌い終えて ほっとした

床をダックスフンドが走り回っていたっけ
ヘタクソな歌声に興奮してたのかもしれない
吠えはしなかったと思う


この店で覚えて好きになった歌がある
「囚人の歌」だ
のちにこれが「ガレリアン」だと知った
この歌の歌詞に どこか
今の自分の気持ちを重ねていたのだろう
どこかに 自由を求めていたのだろう








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