ときめ句ノスタルジッ句昭和親父の温故知新

思うままに、俳句と唄を、昭和の匂いをぷんぷんさせて。

コーヒーの香り③初めての東京

2019-04-11 | 詩物語
 コーヒーは孤独を誘う香り
 そして 孤独を癒す香り
 時には苦く ほろ苦く…

その年だったのか 正月休みに東京に行った
クラスメイトだった 親友のYに会いに
Yとは 卒業してから時どき手紙のやり取りをしていた
前もってYには手紙で伝えておいた
汽車で着く東京駅で 待ち合わす場所も連絡済みだった
このことをショートホープの彼に話すと
「俺も行く 一緒に行っていいかな」と言った
心細い自分には嬉しいことではあった
ただ Yと会って気が合うのかが心配だった

まだ蒸気機関車だったと思う
寝台ではなかったように記憶している
着くと ショートホープの彼が先に立って出口を探した
すぐに待ち合わせの場所に辿り着いた
Yはすでに来て待っていた
僕は人混みの向うにYの横顔を見つけた
と同時に こっちを見たYと目が合って
傍に近づいて行った そして
言葉を掛け合うよりも表情を交わし
すぐに学生の頃の気持ちになった
とYは僕の隣りにいるショートホープの彼に気づいた
僕は簡単に会社の人だと紹介したと思う
お互いに軽く頭を下げた それだけだった
この時 Yが何か受け付けない気を発したのだろう

「じゃあ Sちゃん」と僕に言うと手を振った
驚いて どこへ行くのかと訊くと
姉のところに行くからと 心配しなくていいと
すぐに僕の気持ちを察して 雑踏に消えて行った


初めての東京は やはり九州の片田舎の町とは雲泥の差だった
はぐれないように Yの後をついて行くのがやっとだった
順序は覚えていないが 東京タワーに連れて行ってくれた
それから新宿にあった「灯」にも
そして 思い出すのはピロシキ
新宿の 名前は忘れたがデパ地下で買ったと思う
大好物のようで にこにこしながら
僕にもくれて一緒に頬張った あの時の笑顔
学生の頃のままだった

その夜 Yのところに一泊して翌朝すぐに
東京駅まで見送ってくれた
東京タワーで僕に土産に買ってくれた
ビートルズのポスター二枚は
長い間 僕の部屋に飾っておいた
当時 流行りのシルクスクリーンだった


会社の倉庫の隅に部屋をこしらえて
独りで住んでたY
卒業して初めての会社は半年続いたのだろうか
二度目の職場の片隅だった
ペンキの匂いのする片隅の 粗末な部屋だった
古い石油ストーブの 灯を見つめて
Yのそれまでの愚痴を聞いた
それは 初めて見る苦労の横顔だった
僕は時おり パネルにして飾った
ビートルズのポスターを見ては
Yのことを思った

ピロシキの 笑顔の他に
空に 耀く目をして大きく見せた笑顔
それは担任の先生のことだった
在学中は大嫌いで センコー呼ばわりしていたのに
それが Yが東京へ就職するため
故郷の駅を離れる時だった
担任の先生が見送りに来てくれたのだ
餞別を渡しYの手を握って涙を流して 頑張るんだ
と あのこわい厳しい先生が
涙など一度も見せたことのない あの先生が
まさかの 予想もしなかったことだった

そのことを聴いて 僕もほんとに意外だった
このことも時おり思い出して 熱く想像した
僕が東京へ Yのアパートに
転がり込むことなど まだまだずっと
微塵も想いもつかない頃だった












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