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「いのちを守る政治」と八代尚宏『日本的雇用慣行の経済学』(1997年)

2010年02月10日 | 労働・福祉
労務屋さんがかつて、ブログで八代尚宏氏の『日本的雇用慣行の経済学』(1997年)を薦められていたことがあった。

>まあ、八代先生について意見表明するのなら、中公新書もいいですがやはり『日本的雇用慣行の経済学』を読みましょう。池田信夫先生も推薦しておられることですし、って、これはアンチ八代にはますます気に入らないか。しかし、これを読めば八代先生が徹底して事実とその適切な解釈を通じて議論しておられることがよくわかるはずです。(労務屋ブログ 2010年1月19日

このこともあり、私も今回通読してみたのだが、とくに面白いな、と思ったのは以下のように八代氏が「子育て支援賛成」の立場を述べている箇所だった。


「子育て支援」ー10年前の八代尚宏氏と、今の「民主党」内閣の考え方が一緒!


この本は10年以上前に書かれたものだが、八代氏の「子育て」に関する考え方は、「いのちを守る政治」を標榜する、現在の鳩山民主党内閣の考え方にほぼ一致している。

八代氏のように純粋に「経済学的」な見方を追求していくだけでも、このように自然と「政府による子育て支援・賛成!」の意見が出てくるということがわかる。

小泉・竹中・ネオリベ路線の権化というイメージだけで八代氏を見てしまう人も、これを読むと少し見方を変えてくれるのではないだろうか。また、鳩山民主党内閣の政策にたいして、「耳に心地よいふわふわとしたことを言っているだけ」というイメージを持っている人も、これを読むと少しくらい見方を変えてくれるのではないだろうか。

八代尚宏氏の『日本的雇用慣行の経済学』(181p-184p)より「子育て支援」について

>日本の出生率回復のための家族政策の基本は、子供をもつことを単に家族や個人の私的な責任としてではなく、政府がその供給に責任をもつ公共財(たとえば道路や橋)に近いものとして考えることである。(181p)

>大事なことは女性の就業と子育てを両立させるための支援であり、そのための切り札が保育所の充実である。(181p-182p)

八代氏は「配偶者控除を直接的に子育て支援に振り替えること。」「夫婦共働きのモデルをちゃんと考えるべき」ということ、「夫婦別姓選択を認めるべき」ということなどを主張している。

そのまんま民主党の政策じゃないか。

経済学的に見て、夫婦別姓を認めないことの弊害は、「個人のキャリア追求にとって妨げとなる場合があること」で、「多様の家族のあり方を許容することにより、結婚と仕事とのトレードオフを弱め、婚姻率を高める」ことができる。

雇用を流動化させ、女性が働きやすい環境を作ることは、少子化対策としても有効で、

>良好な中途採用の機会が拡大すれば、保育サービスの充実もあって、数年間の中断によって職場に復帰することができ、女性にとって子育てのために企業を一時的に離れることの機会費用はそれだけ少なくなる。固定的な雇用慣行の流動化については賛否両論があるが、これを女性の就業と育児の両立を通じた少子化対策という観点からも考慮する必要があろう。(184p)

>少子化に対して、男性が外で働き、女性が家族を守り子育てに励む伝統的な家族制度への回帰によって対応しようとする政策は、ちょうど国際分業の時代に農産物の自給をめざす政策と似ている。いずれもその政策の望ましさについての議論以前に、その実効性が問われなければならない。労働力の減少を背景に男女の経済的地位の均等化が進むなかで結婚と子育てを行うためには、伝統的な家族の維持かそれとも家族の崩壊かという不毛な選択肢ではなく、多様な家族形態を社会的に容認するしかないであろう。個々の形態にとらわれず、家族や個人の子育てに直接支援する子供の社会的扶養の概念を確立する必要がある。(184p)

まあ、個人の自由を尊重するリベラルの考え方が、「市場の自由」を尊重する自由主義の考え方とくっつくのは、当たり前といえば当たり前なのか。これも10年以上前、小沢一郎の『日本改造計画』という本も、個人の自律と「市場の自由」をリンクさせるような考え方だったよな、たしか。


アダム・スミスやハイエクが観察していた「市場原理」ってそう簡単に古くなったりはしないだろう。例えば、「ネット」の世界の変化の速さを見よ。


そんなこと、今では、もう古臭くなってしまったネオリベ的な考え方にすぎない、もう今はそんな時代じゃない、と言う人がいるかもしれない。

そうだろうか。「市場原理」は人間の「設計」に代わる強力な調整原理だという考え方に、古いも新しいもあるだろうか。アダム・スミスやハイエクが観察したり考えたりしていたことが、そう簡単に古びたりするのだろうか。私はそうは思わない。

以下、「日本的雇用慣行の変化」192p-195pについて述べているところを少しメモしておく。

日本的雇用慣行のひとつの大きな特徴は、性別に大きく依存した一種の労働分業であり、雇用と家族の安定を図るという観点からは効率的なシステムであった。しかし、こうした日本的雇用慣行と家族との関係は、今後、21世紀にかけて急速に変化する可能性が大きい。その主たる要因は、労働市場における高齢化と女性化、および国際化の一層の進展である。(192p)

「女性化について」

>これまでの夫が妻を養う「片稼ぎ世帯」を前提とした「生活給」としての賃金体系は、夫婦がともにフルタイムで働く共稼ぎ世帯の増加によって過大なものとなる。これは年齢が高まることにともなう賃金上昇を抑制し、より個人単位での「同一価値労働同一賃金」へと変化する可能性が大きい。

>さらに既婚女性のうち、共稼ぎ世帯の比率は、1993年の45%から2020年には68%にまで長期的に高まると見込まれる(八代・日本経済研究センター〔1995〕)が、これは片稼ぎ(専業主婦)家族に著しく有利であった。これまでの税制や社会保険制度の改善を促す大きな要因となる。こうした雇用者としての女性の就業率の高まりは、他の先進国の例をみても、もはや後戻りのきかない現象であり、高齢化の進展にともなう労働需給の逼迫から、今後、女性の労働力化はいっそう加速する可能性が大きい。(193p)

「国際化について」

>これは、日本企業の海外進出にともない日本的な雇用システムが輸出されることと、国内の日本企業に外国人社員が増加することの双方を含む。これら日本文化の伝統を欠く外国人労働者に、日本的雇用慣行システムが適用される場合には、従来の慣行に基づく雇用契約の曖昧さが改善されざるをえない。とくに家族生活に大きな影響力をもつ転勤などについて、文書による明確な規定を義務づけるなど、より透明性のあるものに近づくとみられる。(八代尚宏『日本的雇用慣行の経済学』193p-194p)


関連記事:「マシナリさん」と「労務屋さん」のブログを見て思ったこと 2010年01月24日
(→労務屋さんのブログを読んで、八代尚宏氏、湯浅誠氏、城繁幸氏についての感想をいろいろと書いています。)
関連記事:「雇用問題」への読者の間口が広くなる!-大久保幸夫『日本の雇用』はオススメです。2010年02月10日
(→労務屋さんのブログの書評から引用しています。)