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四月大歌舞伎・昼の部@歌舞伎座

2024-04-16 | 歌舞伎

歌舞伎には悪人が一人も出てこない演目が結構あって「引窓」も同様。

 

今回は、私が歌舞伎を見始めた当時のような大御所が若いお役を勤めて懐かしく嬉しい気分になりました。

若手の成長を願って若い役者に大役を任せることが増えてきたのは非常に喜ばしいことです。

でも、新歌舞伎座竣工前後に大御所が相次いで亡くなり、その後も馴染みの深い(一方的に)役者が病や他界で舞台に顔を見せなくなり、

最近は舞台のコクと言うか厚みがやや薄くなって寂しさを拭えぬことがありまして……。

 

「引窓」は二人の主役が登場する内容。

継子ながら母と円満な関係にある真面目な息子・与兵衛を梅玉、幼くして母と別れた実子で今や押しも押されぬ人気力士となった濡髪長五郎を松緑。

 

先ず、松緑@濡髪長五郎の立派な姿に目を見張りました。

身体が大きく、顔はいつものとおり文楽人形さながらのキリリとした美しさ。

こういうお役はやはり身体的特徴が合ってないと、どうしようもありません。

 

小柄な役者にとっては辛いことでしょうが、松緑のようにいわゆる「ニン」に合っているにも関わらず、演技力で苦戦する役者も大変だと思います。

松緑襲名公演のときに花道で心無い客から「下手くそ子供だまし」とヤジが飛んだと歌舞伎仲間から聞いて「ひどすぎる!」と憤慨したものです。

決して器用な役者ではありませんが、常に全力で懸命に取り組んでいることが伝わってきて、つい肩入れしたくなります。

 

最近は色んなお役に挑戦して芸域を広げ、それに伴って菊五郎以外の大御所役者との共演も増えて一皮剥けた感があって頼もしい。

今月も人間国宝・梅玉とがっぷり四つに組んでの芝居ではないけれど、近くに居ながら姿を見せないお互いの心情を思いやる様子が素敵で

気がつくと涙をこぼしていた私。

 

与兵衛の女房・お早を扇雀が色街出身の艶っぽさを残しつつ、誠実で可憐な嫁を演じて可愛い。

キイキイした女房役が多いけれど、こういうしっとりしたお役もお似合いです。

 

与兵衛の義理の母・お幸@東蔵は泣きの演技に実感がこもっていて秀逸。

足元がやや危ういものの、実子・長五郎のピンチに精神的に参ってしまってフラフラになっているようでピンシャン歩いているより

よほど現実的だと思わせる、自身の年齢をも味方につける至芸に恐れ入りました。

 

濡髪の目印となる頬のホクロを剃刀で削り落そうとするものの、残酷な役目を姑と嫁の女二人が互いに押し付け合う姿もしつこくなくて良し。

それを屋外からこっそり見守る与兵衛が路銀の包みを素早く長五郎の顔に投げつけて、見事にホクロが取れる場面で客席から笑いが起きることがありますが、

今回はそれがなく客も良し良し。

 

どう見ようと鑑賞者の勝手ではありますが、時々「そこは笑うところじゃないよね?!」と強く感じることがあるのです。

歌舞伎は荒唐無稽なもので現実にはあり得ないご都合主義的な描写が出てきますが、それは大抵真剣で大切な場面。

なのに、そこで笑ってしまうと役者はどう思うかなぁ、やりにくくないかなぁと複雑な気分になります。

 

そういう雑念が入らず観劇できるのは有難い。

はからずも人を殺めて逃亡する濡髪を母の懇願で見逃す心優しい与兵衛を今この時、梅玉さんで見られる幸せにたっぷり浸れました。

 

一転、「七福神」では大御所が勤めていいような老け役を若手が担って面白い趣向。

なかでも、萬太郎@寿老人は白髪で顎をやや前に突き出して、いかにも年寄り! といった雰囲気がお見事。

彼は口跡もいいし、歌昇君@恵比寿と並ぶ若手実力者で「ホープ」と言える存在に成長しました。

 

二幕とも良い気分で観劇して最後の「夏祭」で文字どおりドロドロに。

見せ場が舅殺しで血と泥にまみれて延々と格闘するため、ラストがこれではゲンナリします。

舅はどなたが勤めても「そこまでやるか」と義理の息子・団七九郎兵衛に呆れられるほど汚らしく、見ているのが苦痛になるほど。

しかも季節は蒸し暑い夏。

せっかく爽やかな気分だったのが一気に盛り下がって、終演後は周りの客も「何か疲れたね」とささやき合っていて大いに共感!

 

中村屋が海外公演を行ったときに「夏祭」だけは客受けが良くない、おそらく舅とは言え親殺しは宗教観からするとあり得ないのではと

故・勘三郎丈がインタビューで話していたのが思い出されました。

うーん、これはねぇ、海外だけでなく日本でも誰がやっても今イチなのでは??

 

「油地獄」も凄惨ですが、油にまみれてツヤツヤになった美しい男女が七転八倒状態になるのは「殺しの様式美」と言えなくもありません。

汚らしさを全く感じさせないところが「油地獄」と「夏祭」との大きな違いだと、ハタと気づいたのはお門違いか。

 

26日千穐楽。

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