年々、チケット争奪戦が激しくなる浅草歌舞伎。
若手花形が将来を見据えて歌舞伎の大きなお役に挑戦する趣向で、彼らの野心的な試みを応援する人が増え続けているからでしょう。
恒例のお年玉挨拶は種之助君。
「大きな演目が控えているため、この挨拶は数分しかありません。物足りない方は第2部は10分くらいありますので、そちらもどうぞ」
と巧みに宣伝を交えて手慣れたもの。
今年でほとんどの役者が卒業なので、それを伝えると知らなかった客から「えー」と残念がる驚きの声があがりました。
松也君、隼人君、米吉君、巳之助君、新悟ちゃん、歌昇君と弟の種之助君といった好きな役者7名に来年の浅草ではお目にかかれないのは寂しいですが、
次は團子ちゃんとかがメンバーに入ってくるかもしれず、それはそれで楽しみです。
「源氏店」は仁左玉コンビで何度も見た大好きな演目。
これが浅草でかかるのは初めてかもしれません(少なくとも私が見始めてからは今年がお初)。
米吉君のお富は驚くほど適役でした。
元々ツンデレキャラだと睨んでいる米吉君の当たり役になりそうな予感がします。
タカりに来た厚かましい蝙蝠安を一喝する気の強さは、若い女の危うさをはらみリアル。
元々ヤクザの情婦が浮気して刃傷沙汰になったという話で、玉さんの妖艶なお富もいいけれど、秘めた気性の荒さを見せる米吉君には
また違う魅力があります。
むしろ、お富はこんなじゃないかと思わせる堂々とした女っぷり。
隼人君@切られ与三郎は仁左衛門に習ったという成果を見せ、ときどき仁左さまそっくりの台詞回しでドキッとしました。
仁左衛門の他の追随を許さない愛嬌を真似るなんて一朝一夕にできるわけもなく、先ずは忠実に型をなぞる隼人君には仁左さまも
さぞや教え甲斐があるでしょうね~と感じさせる素直な演技で好感度高し。
配役を知ったときは「松也君が蝙蝠安って、それはないわ~、どちらかと言うと切られ与三でしょ?」と驚きましたが、主役を
より若い隼人君に譲ったのかもしれませんね。
松也@蝙蝠安は、市蔵さんほど情けなくなくても卑屈な小悪党に徹して意外に合ってました。
与三郎とお富の関係を知って「これは金を取れる」とニヤニヤする狡猾な眼つき、煙草や小銭を掠め取るときの滑稽な姿、
どれをとっても松也君のキャラクターではないのですが、不自然でなく、芸の力を感じさせます。
ただ、どうしたって市蔵さんの惨めなほど汚ならしい蝙蝠安にはなれないよねぇ。
顔の作りが綺麗なのはいかんともしがたい。
もう一度だけでも、仁左衛門@与三郎&市蔵@蝙蝠安のコンビで再演してもらいたいものです……。
歌六@和泉屋多左衛門が貫禄を見せて素敵。
ラストに少ししか出なくても、こういう人がわずかでも登場すると舞台全体がピリリと締まります。
米吉君のお父さんだからお付き合い? なら来年からはやはり出ないのか??
「どんつく」では歌昇君の器用さが際立ち、お見事。
踊りは一番うまいし、曲芸まで披露してくれて客は大喜びです。
歌舞伎役者ってこんなことまでできるのかという意外性と、全員が揃って登場する華やかさや賑いが楽しく場を盛り上げてお正月にふさわしい。
けん玉よろしく玉を次々と放り投げて籠に入れるお遊びを見せるわけですが、繰り返しいろんなパターンで悠々と玉を受け止めます。
見物客に扮した役者と会場の実際の客双方に大ウケでしたが、最後の方で落としてしまって人差し指を立てるジェスチャーで「もう一度」と
苦笑いしながら周囲の演者に頼む姿が可愛い。
再チャレンジでも失敗すると松也君@田舎侍が本気で「あーっ」と残念がる悲鳴を上げて和気あいあいとした暖かい雰囲気が和やか。
もちろん、歌昇君ですから最後にはしっかり玉を入れて納めました。
浅草歌舞伎は客との距離が近いと言われ、それは会場の大きさといった物理的近さだけでなく(歌舞伎座と比較するとかなりこじんまり)、
若手役者の素の雰囲気を垣間見れるお年玉挨拶などがあるからです。
これは代替わりしてもずっと続けていただきたい。
さぁ、来年はどなたが出演するのか、お楽しみ♪
1月26日千穐楽。