いつだってワークライフバランス

「仕事と生活の調和」を意味する
ワークライフバランス。
より良いあり方を考えるブログです。

八月納涼歌舞伎・第三部@歌舞伎座

2022-08-30 | 歌舞伎

本日千穐楽ですが、今月の歌舞伎座は大変なことになっていました。

演者の変更や中止の部の発表が続き、代役も突然出られなくなったり本役が復帰したり、と行ってみるまでどの役者に当たるか

分からないって、かなり緊張感のある状況でした。

 

そんな中でも「型」に支えられる歌舞伎は、代役でもすぐに対応して立派に舞台を勤めるところが驚異的。

そんな継承された技を見るのも歌舞伎の楽しさの一つです。

 

三部は早めに行ったので、全てオリジナルキャスト(って妙な表現ですけど)で観劇できました。

「弥次喜多」は数年前にこれでお終いと言われ、出演役者の家の番頭さんからも直接「そうみたいですね」と聞いていて

残念に思っていたので、予期せぬ復活大歓迎です!

 

92歳の寿猿さんの宙乗りには驚かされましたが、いいもの見た~。

さすがにそのまま吊るのは危険すぎるため、鳥かごのような箱に乗って悠々と宙を行きました。

「世界最高齢宙乗りギネス申請中」と箱の底に大きく書いてあって、そこまではっきり読めるのが3階席のお楽しみ。

宙乗りが進んでくる下手のお席をしっかり確保したのは言うまでもありません。

 

幸四郎、猿之助、染五郎、團子四人の宙乗りも、これまでで一番の人数ではないでしょうか。

それも全員大人サイズで、その重量たるや!!

数年前、中車が劇中で「背ばかり伸びてもまだまだ子供」と言っていたとおり、彼らは高身長なんですよね。

二人とも既にお父さんを追い越してますもの。

そんなメンバーでの宙乗りなので、途中ワイヤーがぐらぐら揺れたり風船が引っかかったりすると思わず「危ないっ!」と声が出ました。

 

劇評ではバカバカしさを楽しめばいいみたいな少々投げやりな雰囲気で書いてありましたが、もともと歌舞伎は荒唐無稽なもので、

筋もなければ論理性ゼロってお話が大半を占めます。

なので、純粋におおらかに観劇の時間を過ごすスタンスでいいんですから、新聞劇評にわざわざ書かなくてよろし!

 

若手女方一押しの新悟ちゃん@総長シー子、綺麗だわぁ。

そうそう、そのくらい自己主張する化粧でいいのよっと無言の声援を送りました。

 

二枚目歌舞伎役者の役どころは、やっぱり隼人君@芹沢綾人。

もうイケメンと言えば、この人ですっかり定着しましたね。

 

メインの團子&染五郎も成長目覚ましく、早替りにも挑戦しての客サービスが嬉しい。

團子の女方が意外なほど可愛いくて物腰も女らしく、素晴らしい。

台詞も上達して、お稽古のあとがうかがえます。

 

二人はめまぐるしく早替りをしますが、さすが若いから早いし完成度が高い。

顔も衣装も違和感ゼロ。

でも、團子の額には汗が光ってました。

そりゃ大変だよね、これほどの早替りはおそらく初めてでしょう。

 

美少年の染五郎は当然のごとく立役でも女方でもキラキラと美しく、同じく美青年の誉れの高かった幸四郎パパの染五郎時代とは

また違う両性具有的な魅力を放っています。

 

もはや幸四郎は美青年扱いされず、常に猿之助からいじられる存在で観客の笑いを誘うのも、美少年を持つ父としては本望か。

今回は「私(猿之助)はあまり変わらないけど、あんた、変わったよね」と。

前回は「いや、もうあんた美少年じゃないから、それは息子! あんた、50のおっさんでしょ」と言われた幸四郎が年齢訂正してましたっけ。

 

嫌なムードは笑い飛ばそうという趣向が随所にあったのも楽しい。

本水を使えたのはコロナ以来初ではないでしょうか。

ビニールシートは用意されていても客席にはあまりかけていなかったようでしたが、三階からなので定かではありません。

 

伝統ある歌舞伎座の本公演で「歌舞伎座倒産」「閉場」と不吉な言葉を連呼するのには、逆に余裕が感じられました。

世情を意識した、ものすごいブラックジョークの連発。

歌舞伎座の物品をオークションにかける場面なんて、少しハラハラする展開でした。

でも、こういう遊び心こそが歌舞伎の粋ってもんですよね。

 

ただ、この三部のような娯楽に徹する舞台なら良いのですが、二部は何が悪いわけでもないのに観劇後に空しくなりました……。

幸四郎も勘九郎も大御所と一緒だと若さがはじけてとても良いのに、彼らのダブル主演はどうも軽い。

軽さは軽妙とは違って薄い、物足りない、に通じます。

残念ながら、何の感想も残りませんでした。

 

「弥次喜多」で、若手役者が二つのグループに分かれて踊りの出来を競い合う場面で勝敗をつけるとき、

宙乗りで去っていく寿猿さんがはからずも「どっちも負け!」と宣告したのは絶妙でした。

自分はお前さんたちのお父さん、お祖父さんたちの素晴らしい芸を見てきた者、だから君らはまだまだなんだよ、と諭すかのように。

ここはグッときましたね。

歴史の生き証人ではないけれど、今は亡き人間国宝の全盛時代を間近で見てきた役者の言葉には説得力がありました。

 

そして誰もいなくなった歌舞伎もなくなった、とならないようにしなくては! と若い彼らは肝に銘じたことでしょう。

ご意見番とかそういう胡散臭い存在でなく、歌舞伎を愛してやまない寿猿さんのお言葉だからこそ観客も含め皆の胸を打つのです。

 

30日千穐楽。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする