通し狂言「新・水滸伝」、「水滸伝」好きとしては見逃せない。
「三国志」と違って北方謙三版しか読んでいないため、私の中のキャラクター設定は北方水滸伝に大いに偏ってます。
今回は北方版を原作に据えているわけでなく、違うのが当たり前ですが、そのあまりの違いっぷりに驚かされました。
最も驚いたのは燕青を寿猿さんが勤めたこと。
一瞬、誰?!と思い、次に「えー、燕青は違うでしょー」と。
だって、男臭い梁山泊メンバーの中では異質なクールで中性的魅力あふれる美青年。
それを御年92歳(?)の寿猿さんが勤めるとは……。
ただ、最近の寿猿さんの活躍ぶりはめざましく、いわゆる人寄せパンダ的に「超高齢者でも舞台に立ってます」とアピールするのではなく、
台詞は大きくはつらつとしているし、身のこなしも信じがたいほど軽やかで俊敏。
役者って場を与えられたら、いくらでも進化するんだなぁと感心します。
これも猿之助の功績と言えるでしょう。
主役・林冲が隼人君なのは知っていたけれど、林冲にこんな美しさは必要ないんですけど~。
北方版では林冲はしごくまっとうな人ですが、一般的には悪人と評されていることを歌舞伎で初めて知りました。
それも隼人君が演じると綺麗さが前面に出て、到底悪人には見えません。
イケメン隼人君には、林冲より楊氏のほうが合う気がします。
暗くクールに演じてほしい。
青面獣・楊氏は顔にアザがあるのが特徴で、歌舞伎にも出てきましたが、扱いが小さいっ!
燕青と楊氏、北方水滸伝で最も好きな二人がこれほどイメージと違うと芝居に集中できなくなります。
なので、途中から北方先生のことは忘れようと自分に言い聞かせて見た次第。
そんななか、猿弥@王英は合ってたかな。
小説では好きな女に尽くし抜き、最期はまさに身を呈して妻・扈三娘(こさんじょう)を救出する王英の純愛に、読みながら涙がとまらなかったほどで
その王英の一途さは十分出ていました。
笑也@青華との息もぴったりで微笑ましいカップル。
猿弥は、どんなお役も見事に演じ切る素晴らしい役者さん。
決して器用貧乏などではなく、役にしっかり入り込んで悪人でも善人でも情けない役でも立派な役でも金持ちでも貧乏人でも、
全く無理なく人物になりきって、その場に溶け込みながら存在感を放つ名脇役。
得難い役者さんです。
他にも笑三郎や若手の青虎など、猿翁さんに厳しく仕込まれた澤瀉屋の面々は一般的な評価以上の実力者揃いだと思っています。
そんな中、常連の客演・浅野和之さん@高俅はやや厳しかったかもしれません。
大変な芸達者の浅野さんはこれまでも、「弥次喜多」でドラァグクィーンなど意外性に満ちた役どころを好演してきた功労者。
しかし、高俅は巨悪なので、少々物足りない。
中車は梁山泊の親分・晁蓋を勤めていましたが、高俅のほうが面白かったかもしれません。
ダブる場面は確かなかったと思うので、二役という選択肢もあったかなと。
小説「水滸伝」を改めて読みたいと思わせてくれる舞台ではありました。
本家「水滸伝」では王英&扈三娘は夫婦で壮絶な死を遂げるらしい。
舞台では泣けなかったので、小説で泣きましょうか。