幕が開くと、昔の歌舞伎絵から抜け出したかのような姿の右團次が一気に歌舞伎ワールドに誘ってくれる「矢の根」。
まるで生き人形のような華やかな顔と衣装に、客席は大盛り上がりでした。
「矢の根」は歌舞伎十八番の内でも、荒事の代表格。
右團次は小柄な体格を感じさせない大きな演技です。
うん、いい! とても合ってます。
先ずは上等のオードブルをいただき、次はいよいよメインの「加賀鳶」で海老さま登場。
しかし、海老さま、小悪党・道玄が全然合っていません。
二役で最初に出てくる鳶の頭の梅吉でも何だか老けが入って、カッコ良くない……。
粋が命の鳶で、演じる役者の年齢は関係ありません。
菊五郎や幸四郎といった大御所はこれまでちゃんと、いなせな雰囲気を出していましたから。
場面転換で悪役に変わるとさらに失望感が広がり、「こんな汚いアンマの海老さまを見るために
最前列の席を取ったんじゃありませんっ」と思わずにいられない、心の狭い私。
詐欺を働く場面で中車@松蔵と対決するときも愛敬が足りないから、「偉いっ!」の決め台詞で大して笑いが起きません。
ブスブスと不満をくすぶらせながら、最後の「連獅子」へ。
ああ、やっと私の好きな海老さまが懐かしいお姿で現れました。
ここで故團十郎丈との親子「連獅子」の思い出が鮮やかに蘇るわけです。
この演目は実の父子で務めるのが一般的で、高麗屋の幸四郎&染五郎、中村屋の勘三郎&勘九郎・七之助兄弟、
たまに仁左衛門&孫の千之助君とか、獅子の親子に本物の父子が扮するのがひとつの見ものになっています。
團パパとの「連獅子」では二人が続いて出てくると、どっちがどっちが見分けがつかないほどそっくりで、
しかも團パパが若々しいから、親子というより兄弟のような雰囲気で、キラキラと舞台が輝いていたものです。
今回は親が海老蔵、子に巳之助のコンビで舞いました。
谷底に落とされたという設定の巳之助君が花道でジッと待機している間、まさに「滝のような」汗が顔から流れていました。
本当に激しいお役ですもんね~、私はすぐ傍でハラハラ。
クライマックスの毛ぶりでは、二人とも大変な勢いで頭を振り回し、拍手喝采を浴びました。
特に巳之助君はもともと「連獅子」を務める家ではないから、勝手が違うだろうに、ものすごく気合が入っていました。
化粧も子獅子らしからぬ迫力ある怖い顔。
勇猛な感じが伝わってくる姿です。
歌舞伎界では大御所や幹部俳優が次々と没し、巳之助君のお父さん・三津五郎さんが亡くなったときも
大きな衝撃を与えました。
実の親子しかできないとか役柄が違うというのは抜きにして、古典を守ることも重要なので、今後も意外な組み合わせで
さまざまな演目が披露されることを期待します。
終わり良ければ全て良し。
今月は中日に観劇できたし、「連獅子」で気を取り直して結果的には満足、満足。