いつだってワークライフバランス

「仕事と生活の調和」を意味する
ワークライフバランス。
より良いあり方を考えるブログです。

十二月大歌舞伎・第三部@歌舞伎座

2023-12-30 | 歌舞伎

恒例の「歌舞伎納めは玉さんで」が、クリスマスイブの観劇で今年も叶って良い締めくくりができました。

 

「天守物語」は玉三郎@天守夫人・富姫を熱望していましたが、後進育成に熱心な玉さんは七之助に譲って、ご自身は妹分の亀姫を勤めました。

玉さん@富姫&海老蔵@図書之助という奇跡のカップルで何度か観ていた身としては、配役発表のときの落胆と言ったら!

 

ちょうどシネマ歌舞伎で泉鏡花特集を組んでいて、亀姫の登場場面を確認(十分わかっているんですが念のため)し、今回は3階席でいいかなと。

シネマ歌舞伎はね~と思っていたのが、実際に見るとこれがなかなか。

細部がよく分かり、生舞台を補完する意味で映像も観る価値があると認めます。

 

玉三郎@亀姫の登場は中盤。

舞台に真っ赤な衣装で現れると、客席の空気がまさに一変しました。

声にならない「待ってましたっ!」がじわじわ広がり(これを「じわる」と言うらしい)、待ち侘びていたものを得たときの

満足感や高揚感が溢れ出すような豊かな雰囲気に満たされたのです。

こういう空気を感じたことは、これまでにありません。

 

亀姫の優美さ、可愛らしさ、妖しさ。

これは一体どういうことでしょう。

七之助とは親子以上の年齢差がありながら、きっちり妹分になりきっているのです。

 

「要りません~」と拗ねて扇子をポイッと投げ出す様子など、もう見ているほうは全員デレデレになりますよ。

お持たせの生首(以前よりさらにリアルで生々しい)をイタズラっぽい視線で扇子越しに眺める、その無邪気さ。

双眼鏡は完全に玉さんにロックオン。

目が離せないとはまさにこのこと!

 

人間ではない異世界の美しき魔物。

一方の七之助は現世の人。

これは勘三郎丈をして「玉三郎の兄さんにしかできない」と言わしめたとおりだと唸るほどでした。

 

あまりに綺麗なので、海老蔵襲名以来、封印していた舞台写真を買ってしまいました。

天守の獅子の傍らに佇む玉さん。

うう、美しすぎるっ。

 

あまりにもすごいものを目の当たりにして、他が目に入らなくなった私。

 

図書之助もね~、虎之介君は頑張っているのは伝わってくるのですが、当時空前の人気を誇った海老蔵@図書之助とは比較にならず、

申し訳ないけれど、見ていて気の毒になりました。

美しき魔物から「帰したくなくなった」「たった一度の恋だもの」と絞り出すような言葉をいただける美貌の役者でないと勤まらず、

「天主物語」は非常に難易度の高い演目だと改めて思いました。

 

うーん、今できるとしたら美少年の染五郎かしら?

しかし、美形の男性にありがちの困った方向(「俺は顔だけじゃない」という自負からなのか、故意に汚くするのは外国の映画俳優にも見られる傾向)

に行っている気がするため、どうなるか。

仁左さまのように「そや、わしはイイ男やで」と開き直って(かどうか不明、私の勝手な思い込み)、「水戸黄門」のようにベタな展開で

美男ぶりを見せびらかしてほしいものです。

 

「猩々」の松緑もお稚児さんのようでとっても可愛らしかったのですが、最後に「天守物語」で玉さんに撃ち抜かれて他の記憶が吹き飛びました。

それはそれで幸せなことですね。

 

心残りは双眼鏡越しの玉さんだったこと。

なので、お正月は久しぶりに大阪に遠征して玉さんを最前列で堪能する予定です。

雪とかで新幹線止まったりしないでよ~。

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十二月大歌舞伎・第二部@歌舞伎座

2023-12-29 | 歌舞伎

最近は8月だけでなく、12月も三部制になるのがありがたい。

時間が短く、その分、料金も少し安くなって客側からすると良いこと尽くめ。

毎月こうしてほしいという声をチラホラ耳にします。

 

二部は二つとも初の演目です。

「爪王」は狡猾な狐を勘九郎、しなやかで精悍な鷹を七之助、そして鷹匠が彦三郎という中堅の実力派が揃い踏みの舞踊劇。

勘九郎は手の指、足先にまで細やかな神経が行き届き、花道のすっぽんから消えるときに海老反った姿勢のまま沈んでいったのには驚かされました。

こんなの見たことない。

 

女方が殺される場面などで海老反ると会場から拍手が沸きますが、実は身体能力の高い役者にとってはそれほど難しい技ではありません。

でも、その姿のまますっぽんに沈んでいくのはかなり危険なのではないでしょうか。

こうした装置では過去に事故もあり、普通に立って降りていくだけでも衣装が引っかかったりすると大変なわけで、演者はもとより

裏方さんも細心の注意を払っていることでしょう。

 

それ易々と難なく演じるところが素晴らしい。

中村屋兄弟の芸は同年代で群を抜いていると言えるでしょう。

お父さん譲りの客を喜ばせようとする熱い心も伝わってくるし、嫌なところは皆無。

なのに何故か私は、彼らに強く心を動かされることがないのです。

 

幕間にお客さんが「すごい運動量だったねぇ」と感嘆しているのを耳にするにつけ、「そうだけどそうじゃないよね、歌舞伎の勘所は」

と思わずにいられません。

 

一方、赤穂浪士外伝「俵星玄蕃」の松緑は決して器用でなく、台詞も力が入りっぱなしでメリハリはないのに、こちらは何故か応援したくなります。

この差は一体どこから来るのか?

 

私は歌舞伎自体が好きで大好きな役者はいても、嫌いな役者さんは一人もいません。

分かれ目は一等席で観るか、遠征してでも観たいかといったところで、そこに中村屋さんが入ってこないのが自分でも分からず、本当に不思議です。

 

お父さんの故・勘三郎丈のときは一等席でも観たんですけど……。

そう言えば、團十郎も襲名後は三等席ばかり。

だって変わり映えしない演目ばかりなんですもの。

 

今回は、芝居の内容から外れた妙なところで引っ掛かりを覚えた観劇でした。

いずれにせよ、「爪王」は激しい舞踊で「俵星玄蕃」は立ち回りも多く、何事もなく無事に千穐楽を迎えて本年を締めたのはおめでたいことですけどね。

 

26日千穐楽。

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流白波燦星@新橋演舞場

2023-12-28 | 歌舞伎

歌舞伎お得意の当て字で掲げた演目、「流白波燦星(ルパン三世)」。

雰囲気、出てますね!

 

新作なのにすごい人気で、どうにか3階席の隅っこが取れました。

おそらく「刀剣乱舞」の大成功で期待が高まったのでしょう。

歌舞伎とは無縁のような人も通の歌舞伎ファンも集まって、連日大入り。

開演10分前に行ったのに、入場のための行列ができていたのには驚きました。

 

幕間後にマモー(アニメ「ルパン三世」をちゃんと見たことなくて何なのか分からず、後で調べたら人造人間だとか)が、

これまでの解説(「だんまり」とか)をしてくれたり、「歌舞伎を初めて観る方は手を上げてくださ~い」と質問を投げかけたりと、

普段とは違う趣向は新作歌舞伎ならではのお楽しみ。

 

1階席の若そうな人ちが結構、手を上げてました。

これは役者さんたち、嬉しいでしょうねー。

グッズの売れ行きも良さそうで(一部「完売」の貼り紙が出てました)、何よりです。

 

松也君は、新作にも歌舞伎の型を押さえるという考え方を「刀剣乱舞」のときから表明し、今回も随所に歌舞伎らしさが表れていました。

 

先ずは、本家「桜門五三桐」の舞台で松也君@石川五右衛門がご登場。

これは何と言っても、吉右衛門丈の持ち役です。

当然ながら、松也君には荷が重い。

 

南禅寺山門の高い所にどっかと座って「絶景かな絶景かな」くらいしか言わない、ごく短い演目ながら吉右衛門丈だと大きく存在感が際立って

得も言われぬカッコよさ。

病に倒れる直前のも観ました。

そのときは1階席だったので、気づかなかったけれど、幕間にお客さん同士の会話から「後ろで人が支えてたね、相当良くないのかしら」と

吉右衛門丈の体調不良を知り、衝撃を受けたのが寂しくも懐かしい思い出です。

いつもどおり、立派におおらかに最期の五右衛門を演じた吉右衛門丈と松也君を比べるつもりは毛頭なくて少し感傷的になっただけ。

 

「五三桐」からすぐにルパン版・五エ門に早変わりすると一瞬で胸をはだけた美青年の姿になり、1階席から歓声が沸きました。

うん、カッコいいし体が綺麗。

 

元は女方だった松也君初かと思われる、素のお尻を丸出しにするフンドシ姿も披露して気合いのほどが感じられました。

本当に歌舞伎役者って、いつでも裸体を晒せなければならない大変なお仕事です。

最近はもろ肌見せずに、下にスパッツのようなものを着けることが多いのですが、フンドシが厚ぼったく相撲取りの回しのようになって野暮なのよ。

 

鍛え上げられたヒップラインが眩しかった。

 

本水を使っての大立ち回りもあると知っていたので、幕が閉じていても「ザーッ」という微かな音と水のほのかな匂いが

劇場に漂ってくると「いよいよ来るな」と客席も臨戦態勢に。

一階席の客はビニールで飛んでくる水をよけなくてはなりませんから。

こういう仕掛けは歌舞伎ならではで、初めて観劇する人も大いに楽しめたのではないでしょうか。

 

五エ門が投獄された牢屋には寿猿@牢名主がいて、御年「93歳」を台詞に交えて高々と述べる姿も声も変わらず、お元気で嬉しい。

愛之助@ルパンの身体能力の高さと、仁左衛門仕込みの確かな芸。

若い鷹之資君は時代物の味をたっぷりと出し、舞台の格を高めるのに大いに貢献していました。

これこれ、こういうのがなくては「歌舞伎」にはなりません。

 

いつもはしっとりとした正統派女方の笑三郎@次元大介は最初、誰だか分からないほど男になりきっていました。

芸達者の澤瀉屋の中でも安定感ある実力派。

今回の意外なお姿に芸域の広さを見せつけられ感心しました。

 

中車@銭形警部は受けてましたね~。

そして、うまくなっています。

歩き方を見ると、それはすぐ分かるものです。

澤瀉屋を背負って奮闘していることが伝わってきます。

 

襲名披露公演で年下の猿之助を「歌舞伎の父と思って」と称し、客席から失笑されるのも構わないほど全幅の信頼を置いて後を必死に追っていたのに

今は自分が先頭に立つことを余儀なくされて、さぞや大きな負荷でしょう。

でも、以前から「困難な道があればそちらを選ぶ」と公言してきた彼なので、必ず乗り切ってくれるはず。

 

さまざまな仕掛けがあり、役者たちも一生懸命勤めている(おふざけナシ)のは十分伝わってくる舞台でしたが、惜しいかなテンポが良くありません。

お隣さんも同じことを言っていましたねぇ。

 

正味3時間で、それほど長いわけでもないのに客は途中ダレてしまった……。

居眠りしている客を横目で見るのは歌舞伎好きとしては辛いものです。

 

猿之助が演出すれば、もっとシャープでユニークで飽きさせない内容になっていたのではないかと思わずにいられません。

それは周囲もご同様なのか、幕間にあちこちから「猿之助さんが」という声が聞こえてきて、喜劇なのにシンミリしてしまったのは私だけ?

 

12月25日千穐楽。

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