本日、無事に千穐楽を迎えた歌舞伎座。
確か、吉右衛門の「夏祭難波鑑」を見るのは私は初めてです。
時期も季節早取りでふさわしく、颯爽とした姿の吉さま@団七を真ん前で堪能しました。
激しい動きのあるこのお役、吉さまの年齢を考えると、今後めったに見られそうにはありません。
で、思い切って1等席で観劇!
その甲斐はありました。
勘三郎が勘九郎時代から得意として、よく上演していたこの狂言は海外でもかけたそうですが、悪党の義父とはいえ、
最大の見せ場が親殺しなので外国人の受けは良くない、という談話がインタビューで紹介されていたのが思い出されます。
吉右衛門と仁左衛門とでは殺人シーンの空気が全く異なるのが、本当に興味深い。
仁左衛門はまさに悪の華を咲き誇らせ、凄惨な場面も様式美で華麗に魅せてくれます。
荒唐無稽でもあり、悪いことなのに安心して楽しめるんですね。
一方、吉右衛門は心底震え上がるような恐ろしさを滲ませて、見る者を重苦しい気分にさせます。
こういうことって現実にもあるかも、自分だったらどうするかと、見ているほうまで考え込ませるリアルさがあるのです。
殺したくないのに裏切られ追い詰められ、止むに止まれず気がつけば罪を犯していたという人間の弱さ、哀しさを感じさせ、
これまた激しく引き込まれます。
殺される舅は全くいいとこなしの悪人で、何でこんな奴からお梶のような娘が生まれたのか、と見るたびに憤慨してます。
今回は婿の菊之助@女房・お梶、孫の寺嶋和史君が団七倅を演じたので、なおさら、この幸せな家族に不幸をもたらす
とんでもない疫病神の舅・義平次を憎らしく見ていました。
思わず、芝居に入り込むってことですね。
仁左さまだったら、どんな場面でもうっとり夢見心地になりますけど。
役者によって見せてくれる世界が違ってくるのが歌舞伎の醍醐味。
それを改めて感じた時間でした。
「夏祭」目当てでしたが、もう1つの「巷談宵宮雨」もかなり面白い内容でした。
初めての演目だなぁと思っていたら、24年ぶりの上演とのこと。
ここに出てくるのは、ほぼ全員悪党。
でも、それぞれにユーモアがあり、客席はゲラゲラ笑って和やか。
と思っていたら最期どんでん返しで皆、死んでしまいます。
トンデモ住職の芝翫@龍達が勘三郎を彷彿とさせる過剰な演技で、金の亡者を面白おかしく演じます。
普段、折り目正しく硬い松緑も触発されたのか、小悪党のチンピラぶりを楽しげに発揮し、これがなかなかの出来。
清楚という言葉が似合う雀右衛門まで嫉妬と欲の深い、女房おいちをごく自然に演じていました。
この人、こういう役も行けるんだ! と新発見。
こういう役といえば福助姐さんですが、その息子の児太郎は悪役ではなく、薄幸の娘・おとらを可愛らしく勤め、
意外なほど合ってました。
リハビリ中のお父さんに代わってもっと、いろんなお役が巡ってきたらいいねっ!
そんなこんなで、海老さまや玉さんが出るわけでもないのに1等席だなんて、そんな贅沢していいんだろうかと
考えていたことが吹っ飛び、今月も素晴らしい舞台を十二分に楽しんだ次第。