今月の海老蔵は良かった!
何度も観てきた「暫」ですが、60キロを超えるゴツイ衣装に身を包んだ彼は超人的な鎌倉権五郎そのもの。
とにかく大きいっ。
終盤、太刀持ちで現れた千之助君が誇張ではなく、子供に見えたほど。
台詞に難があると言われ続けている海老蔵ですが、大音声で朗々と台詞を述べる様子は勇ましく頼もしく、まさしくヒーロー。
お顔もくっきりと綺麗でした。
最近、幕間などに「何か所帯じみてきたわね」とか客の嘆きを耳にすることもあり、それを否定できない疲れたような表情で
残念な気持ちになるのが辛くて近くで見たくない~と思っていましたが、今月は花道脇のお席で細かな息遣いまで伝わってきて、
その顔が美しいとやはり幸せな気分に浸れます。
天下の成田屋には常にこうであってほしい。
「暫」は荒唐無稽な内容で、初めて観る人だと何が何だか分からない様式美優先の狂言だからこそ、役者の「声・顔・姿」が大事な要素となります。
有無を言わさず、「何かカッコいい、面白い」と感じてもらう演目なので、今回は大成功といえるでしょう。
いつも辛口の劇評も好意的なものが多くてホッと安心、久々に満足。
もう一つの「土蜘」も素晴らしい出来。
音羽屋三代の非常に完成度の高い舞台でした。
まず、菊五郎@源頼光が艶のある伸びやかな声で聞かせます。
高齢なので動きはややゆっくりになりましたが、それさえも高貴な身分のお役にふさわしいと思わせるところはさすがの貫禄。
その太刀持ちの丑之助君が立派な演技で観客を引き込みます。
主君の前にいるときは絶えず膝を少し折って前傾して、謙虚さを表します。
もともと小さいのでそんなことしなくても十分なんですが、それをやる芸の細かさには驚かされました。
台詞も子役特有の棒読みでなく、ちゃんと気持ちを込めて発しています。
型が第一の歌舞伎では子役にそこまで求められていませんが、周囲の芸達者な役者さんと毎日接しているうちに自然とそうなったのかもしれませんね。
こんな子役を今まで見たことはなく、この先どんな役者になっていくのか、その成長が楽しみでなりません。
天才少年とか言うのは簡単ですが、歌舞伎ではたとえ天才でも決まった型を押さえる必要があるため、自由な演技はできず、稽古を重ねるしかありません。
子供の日に「徹子の部屋」にお父さんと出演した丑之助君が心底、歌舞伎が好きそうなのを見て、「だからこうなるのね~」と納得。
こんな神童のようなお孫ちゃんと共演できて、お祖父ちゃんの菊五郎はさぞ嬉しいでしょうねぇ。
菊五郎の息子の菊之助@土蜘が良いのは言うまでもなく、非常に格調高く品があり、他の人の土蜘とはまた一味違います。
お父さん譲りの口跡の良さは十分承知していますが、この人の台詞回しを聴いていると、やはり海老蔵よりもずっと先を走っているなぁと思い知らされます。
かつてはよく共演していたことが今となっては懐かしい……。
楷書の演技にメリハリのある台詞。
今後、繰り返し演じるであろうこの役を大切にしていることが客に伝わる丁寧な演技で、最後まで飽きずに観ることができました。
コロナ禍で大幅カットが多いなか、約一時間半を一気にというのは意外と疲れるものなので。
歌昇君@渡辺綱もいいし、時蔵さん三代の出演(こちらも負けず劣らず素晴らしい)もあって今月の歌舞伎座で一番の見ものではないでしょうか。
27日千穐楽。