茶の湯の世界に接したことがあれば知らない人はいないと思われる、松江の不昧公。
その方の没後200年ということで、白金の畠山記念館と日本橋の三井記念美術館両館で
「大名茶人・松平不昧」の特別展が同時開催中です。
今回の展示会で初めて畠山記念館の存在を知り、まずはそちらに行ってみようと。
嬉しかったのは、お道具の解説が非常に充実している点。
誰が所有してきたか、そのすべての来歴が細かく記されているのが興味深く、「ああ、これが信長の好み」「秀吉らしい」
などと勝手に感じながら、じっくりと鑑賞してきました。
以前、上野の国立博物館で見た信長所有の茶壺、今回初めて拝見した、本能寺の焼け跡から拾い出された茶入
「円乗坊(えんじょうぼう)」のどちらもどっしり、たっぷりした姿で信長の好みに共通性を見出せます。
一方、不昧公が「茶会に決して使ってはならない」と厳命したという天下の名品「油屋」は、秀吉が所有した優美な茶入です。
後に不昧公が1万両以上するものを格安で買ったと大喜びしている逸話も記された、まごうことなきお宝。
艶々として華やかながらも上品で、遠目に見ても立派な茶入だなぁと嘆息するような逸品です。
「円乗坊」も「油屋」も「肩衝(かたつき)」と呼ばれる形の茶入ですが、雰囲気がまるで違うのは非常に面白い。
人物像とは異なり、茶道具の好みは神経質そうな信長のほうがむしろ武骨で、足軽からのし上がってきた秀吉は
意外にもはんなり綺麗なものがお好きだったのかも。
なんだか、分かる……。
私は国宝だ重文といわれても、いびつな織部の型や色はどうも苦手。
お茶の先生からも、「あなたは『綺麗さび』が好みね」と指摘されたことがありまして。
茶道具の好みは実に人それぞれで、天下人や大名はそれこそ大変なこだわりがあっただろうと改めて思いを馳せた次第。
千利休直筆のお軸など、茶道に親しんでいなくても誰もが「おお~っ」と思える充実の展示物のほとんどが間近で
拝見できる贅沢な空間なのも素晴らしい。
お道具を拝見した後は、明治天皇の行幸もあったという手入れの行き届いたお庭を散策し、GW限定で公開された
茶室で呈茶体験♪
資料によると庭園には6つの茶室があり、毎年、そのなかの1つを期間限定で公開しているとのこと。
今回は「新座敷」という、高いところに階段を使って昇って行く見晴らしの良い茶室が使用されました。
床の間には、横一行の「波和遊(はわゆう)」のお軸。
お薄の提供だけでなく、記念館の方がとても分かりやすく説明してくださり、掛け軸の由来を知りました。
記念館の名前にもなっている、荏原製作所を興した畠山即翁氏のどことなく可愛らしさも感じさせる筆による掛け軸は、
ロックフェラー来日の折、茶会を開き、そのときに掛けたものとのこと。
「遠い波の向こうの国から、ようこそ遊びに来てくださいました」「HOW ARE YOU」の言葉遊びとは粋だねぇ!
漢字三文字に込められた、何てステキなオヤジギャグ?!
茶室ではないけれど、会期中、呈茶もあるそうです。
新緑の美しいこの時期に訪れるには最高の素敵な会館。
不昧公が「天下の宝」と分類したのは、「名物は単に一個人や家、国のものではなく、人類の宝」であり、
優れた美術品を後世に残すことが自らの使命だとの考えからだといいます。
畠山即翁氏も同様で、私財を投じて作ったのがこの贅沢な私立美術館。
人類の貴重な宝を、財力のある経済人が奉仕の気持ちで「形」として残すという使命にかられて集めたものだからこそ、
お宝たちは、さらに輝きを増すのでしょう。
6月17日まで(三井記念美術館も同じ)。