異例の二か月連続で上演された3月は、主役のヤマトタケルを團子ちゃんが一人で勤めました。
劇場を変えて連続して行うことはあっても同じ場所で同じ演目、出演者もほぼ同じというのは私の経験では初めてです。
せっかくなので、2月は隼人君、3月は團子ちゃんで観ました。
周りはほぼ同じ役者でも皆さん演技が練り上げられ、続けて観ても新鮮で面白かった。
猿弥は実力者揃いの澤瀉屋さんの中でも、群を抜いて達者な役者。
いろんなところで太っていることを笑いのネタにしていますが、彼の身体能力は例えると力士のよう。
身体がとんでもなく柔らかいんです。
先月は気づきませんでしたが、踊り子に化けて敵地に乗り込んできた團子@小碓命(後にヤマトタケル)を眺めているとき、
大きな切り株なのか腰の高さほどもある樽のようなものに片足を掛けるシーンがありました。
身体の前方からなら、それほど負荷はかからないでしょうが、真横にスッと左足を上げたのです。
重く巨大な衣装を着けてこれをやるとは、股関節の可動域が非常に広いことを意味します。
下ろすときも難なく、目にもとまらぬ自然さで。
「歌舞伎役者は肉体労働者」だと当人たちがよくおっしゃるとおり、ささいな動きにも常人とは違うものがあって感服させられます。
特に股関節が硬い私は目を見張りました。
福之助@タケヒコはさらに研ぎ澄まされて、存在感が増していました。
主のヤマトタケルを気遣う気持ちが言葉にしなくても、わずかな表情の動きから伝わってきて秀逸。
面構えも身体もガッチリして立派な立役になりました。
寿猿さん@老大臣も全く危なげなく、この人を拝見すると仁左さまの「傘寿の奇跡」も影が薄くなりそう。
米吉君は盤石の感あり。
「女方は男でも女でもなく、女方という性」といったお話をご本人はされていましたが、舞台での愛らしくも優雅な声や姿は
どこからどう見ても女にしか見えません。
もちろん、数十キロもあるカツラと衣装であれだけの激しい動きをするわけで、普通の女性が勤めるのは体力的に厳しいでしょう。
と言うか、普通の男性でも無理。
まさに「女方」の芸の力ということです。
5月は名古屋御園座、6月は大阪松竹座で引き続き開催される「ヤマトタケル」。
二か月連続の観劇を終えて、哲学者・梅原猛と猿翁丈によるさまざまな問題提起を秘めたこのスーパー歌舞伎を今の時代だからこそ、
ぜひ多くの人に見てもらいたいという関係者一同の願い、祈りが伝わってくるようだと感じ入りました。
3月20日千穐楽。