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ワークライフバランス。
より良いあり方を考えるブログです。

吉例顔見世大歌舞伎・昼の部@歌舞伎座

2023-11-30 | 歌舞伎

昼の部は外題に「極付印度伝」とある「マハーバーラタ戦記」序幕から大詰めまで。

 

通しをここまで集中して観られたのは初めてかもしれません。

初演から六年経ち、満を持しての再演はバージョンアップされて長い芝居でも飽きずに最後まで観続けることができました。

 

幕開けの舞台は金色で華やか。

忠臣蔵を想起させる目を閉じた人形のような姿で神々が舞台を大きく使って座しているところから始まり、先ずその演出にわしづかみされます。

神々の中心にどっかと座って貫禄を見せる菊五郎。

お隣の菊ちゃんは目を閉じて髭を描いていても、表情は神秘的で美しい。

 

彌十郎@太陽神が役どころどおり、明るくおおらかな姿と声でお似合い。

対する彦三郎@帝釈天は戦士の守護神らしく雄々しさと不気味さを漂わせ、ものすごい気を放っていました。

この人は惚れ惚れする美声の持ち主で、個性的な彌十郎とのコントラストが際立ち、対立する二人の神の圧倒的な存在感が秀逸。

 

神様に見えようがない役者だと、こうはいかない。

さすが、菊五郎劇団! 役者が揃っています。

彦三郎のお父さん・楽善@大黒天も変わらぬ立派なお声で、菊五郎と揃って座っているお姿が貴重。

 

今回は仮花道が設置された二つ花道で、菊之助@カルナと隼人君@王子がそれを効果的に使って劇場が華やぎました。

私は遠くの三階席ですが、一階席のお客さんは一体どちらを見たらいいのか嬉しい悲鳴状態だったでしょう。

 

最初から最後まで舞台が非常に華やかで凝っていて、これぞ歌舞伎座本公演で披露するにふさわしい内容! と客の関心を逸らさない仕掛け。

こういう大がかりな舞台で役者も揃えてとなると、今や菊五郎劇団以外では無理かもしれませんね。

 

成駒屋の芝のぶさんが抜擢されていたのも、役者の育成に力を注ぐ音羽屋さんらしい素敵なチャレンジ。

この人はベテランで演技力が高く容姿も良く、なぜもっと活躍の場が与えられないのかと不審に思う歌舞伎ファンは少なくないはずです。

成駒屋の舞台では常にその他大勢の腰元役で、「これはどうなんだろ?」と気の毒でなりません。

 

猿之助の澤瀉屋さんの舞台でも主役級のお役を見事に勤めたのは、かなり昔の話です。

他家の舞台で主役級っておかしくない? と思っていたところ、当月は神と王女の二役を見事に演じきり

菊五郎(菊之助かも?)の期待に応えようとする姿に客の私まで嬉しくなったほど。

他のお客さまも同じ思いなのか、多くの見せ場で盛大な拍手が送られ温かい雰囲気に包まれていました。

これを機に、もっと活躍の場を与えられるように祈ります。

 

誰も皆、素晴らしい出来のなか、やはり主役の菊ちゃんは抜きん出ていました。

踊っているときのちょっとした所作が、ときどきハッとするほどお父さんの菊五郎に似ています。

柔らかく手を振って踊る動きでは、連れ舞いの隼人君との差が歴然。

年齢や経験の差を考慮すると比較するのは酷ですが、激しい動きでも年長の菊ちゃんは全く息が乱れず、涼しい顔をしていました。

日頃の修練の差は顕著、歌舞伎って怖いわぁ。

隼人君だって梵天と王子の二役で、どちらをとっても美しく「イケメン隼人」の時分の花を咲き誇らせてカッコいいことに変わりはないけど。

 

後半には丑之助君登場!

この子が出るならもっと良い席で見たかったと後悔しきりで、もう一回行きたいと真剣に悩んだほど(千穐楽二日前の観劇で続けては無理と断念)。

萬太郎@王子の幼い息子と神の二役で、これがもう奇跡のような演技でした。

 

相変わらず定型に収まらず、役の性根を探求する姿が泣けるんです。

顔も知らない父親の危機を救いに飛び出してきた小さな息子。

菊ちゃん@カルナにやられてしまって息絶えるまでが子役とは思えない壮絶さ。

 

子役は非業の死を遂げる場面が多く、台詞は棒読みが定型で大抵「あー」と言って倒れ込むだけで十分なのですが、

丑之助君は役に入り込んで果敢に挑戦します。

高音などうまく出ない部分があっても型をなぞって無難にまとめようとせず、悶絶の表情や動きは恐ろしいほどの迫力です。

小学生の演技じゃないよ。

 

こういう丑之助君を見るたびに、お祖父さんの故・吉右衛門丈を想って涙が出ます。

この姿をご覧になったら、どんなに喜ぶだろうかと。

生前「いかに役になりきるか」を信条とされていたのをテレビのインタビューなどで聞いていて、孫の丑之助君もじいちゃんの教えを

守ろうとしているのかなと勝手に思って涙するって変なんですが、つい……。

 

今月は顔見世にふさわしく昼夜とも充実していました。

帰路「お金持ちになったらしたいこと、それは観劇は常に一等席で」と、いつもの念仏を唱えた私。

新国立の菊五郎劇団正月公演は一等席を取りましょ。

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吉例顔見世大歌舞伎・夜の部@歌舞伎座

2023-11-29 | 歌舞伎

待ちかねた夜の部のメイン「松浦の太鼓」。

忠臣蔵関係でも明るく楽しい内容で歌舞伎には数少ない、悪人が誰一人登場しないところが穏やかで好き。

いろんな役者が松浦侯を演じていますが、仁左衛門のあざと可愛い殿様は劇中の家来たちだけでなく、観客も幸せな気分にさせてくれて別格です。

 

予想を裏切らない仁左さまの可愛い「バカバカバカッ」は今回ちょっと増えてるようで、客席のあちこちから笑い声が漏れてきました。 

吉右衛門丈は、私の記憶では「バカ」と一回しか言わなかったような?

彼なら鬼平ばりに「馬鹿者っー!」と大声で叱り飛ばすのが合ってますからね。

 

今回はキュートなだけでなく、新たな趣向で泣かせる「松浦の太鼓」になっていました。

切腹した浅野の殿様と太鼓繋がりの浅からぬ縁のある松浦侯は、仇討ちをしない浅野の家臣に苛立っています。

「余は楽しみにしておったのじゃ」とお気楽な野次馬のようにも聞こえる台詞に、今回は無念の気持ちをたっぷりと含ませた仁左衛門流解釈か。

しんみりと思いの丈を吐露する場面では、仁左さま@松浦鎮信は懐紙を揉んで鼻紙代わりに使っていました。

この所作は記憶にありません。

涙ぐんでいらしたので、本当に鼻をかんでいたのかも。

 

さらには、討ち入りが成功した報告を聞く場面では感涙にむせび、「泣く役者」と言われる仁左さまですが、この演目でこれほど涙を流すことに

驚くと共に、思いがけずもらい泣きをしてしまいました。

他のお客様も同様で、ハンカチを取り出す人の気配が周囲から伝わってきたほど。

殿様に仕える猿弥@近習も一緒に泣いていて、「ええ~、こんなに泣ける演目だっけ?」と新鮮でした。

 

確かに討ち入り成功はめでたいことですが、内蔵助はじめ赤穂浪士は全員に死が待っている。

今生の別れになる場面で涙を流して何ら不思議はなく、自然なこの展開を心地よく味わいました。

 

あまりお調子者の殿様にしてしまうと舞台が小さくなってしまいます。

こういうことを自在にやってのける仁左さまって、やっぱりすごい役者だと今さらながら痛感しました。

これまでも仁左さまで観た演目ですが、今回は何としても目の前で見たくて最前列中央の席を確保したお陰で仁左さまは私の真ん前。

はぁ~至福の時間、夢のようでした。

夜の部に集中するために昼の部は安い三等席にしたのに、チケット購入後に菊五郎出演が発表されたことで悔やんだのも帳消しですかね。

 

歌六さんの周囲の空気を全く読まない俳句の宗匠もおかしみに磨きがかかり、仁左さまと上質の漫才をしているかのような天真爛漫なお二人がたまらない。

そこに生真面目な松緑@大高源吾がキリリとした芝居で清廉な魅力を発揮して、絶妙な配役ですね。

 

夜の部初っ端から、こんなにも素晴らしいものを観せられて興奮冷めやらず、続く「鎌倉三代記」で熱演の時蔵@三浦之助と梅枝@時姫が

何だかかすんでしまって気の毒ではありましたが。

 

三幕目の舞踊では気分が落ち着き、若手から中堅までのそれぞれの魅力を前面に押し出す内容に目が醒めるようでした。

特に良かったのが時分の花が揃った「春調娘七種」。

曽我兄弟に静御前が絡む謎の舞踊ですが、歌舞伎の時代考証はご都合主義のため気にしないでおきましょう。

 

荒事の曽我五郎に種之助君とは意外な配役ですが、そこはもう播磨屋の若手ホープで芸達者な又五郎の息子ですから技で補う素晴らしさ。

身長が低く小柄で普段は可愛らしい女方が定番なのに扮装と居住まいで大変雄々しく、立派な姿で観客を魅了しました。

 

兄の曽我十郎は染五郎。

一転、この人は種之助君と違って非常に上背があり、美少年の呼び声も高く十郎は適役なのに最近の顔に違和感あり(韓流風)で

こんなに厚化粧しなくても十分綺麗なんだから、もうちょっと抑えたほうが若さと美貌が引き立つのに~とやや残念でした。

 

何と言っても驚きなのが、左近君@静御前!

あまり配役を見ずに観劇するため、この日も「松浦の太鼓」以外はどなたが出るのか気にせず出かけました。

そのため静御前が登場して「音羽屋っ!」と大向こうがかかっても、「え? 音羽屋の誰っ?」と誰だか分からず困惑。

 

看板役者や当時の中堅役者が次々と早世し、急激な代替わりに見舞われたせいで以前なら配役なんてチェックしなくても、

目をつむっていても一声台詞を発すれば誰だかすぐに分かったし、舞台に現れるとどんな格好をしていても見間違えることもなかったのに。

「こんなに見てるのに役者が分からないなんて」と一瞬、落ち込みました。

 

チラシを見て左近君だと分かって落ち込みは吹っ飛び、「何ですって?! これは分からないよ~」と別の意味で納得。

彼はお父さんの松緑と違って小柄(小顔なのは同じですが)で、雰囲気的にはあまり似ていません。

とは言え、まさか顔見世公演に女方で登場するとは。

 

舞踊のお家元の御曹司らしく指先まで神経が行き届いた可憐さ美しさで、お見事。

お顔もすっごく可愛くて、女方の松緑は全く想像がつきませんが、息子は今後、兼ねる役者として正当派の女方のお役も演じる機会があるかもしれません。

 

これから一年よろしくね、の意味がある「顔見世興行」。

左近君の意外性に接し、今後が楽しみになりました。

 

11月25日千穐楽。

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特別展「古伊賀 破格のやきもの」@五島美術館

2023-11-26 | 美術

茶道具の茶入や水指でよく用いられる伊賀は、ゴツゴツとした無骨な印象のある焼き物です。

有名な水指・破袋(やぶれぶくろ)は本歌を東博が所有していて、今回の展示品は重文の方で別物とのこと。

2つあるとは知らなかった。

 

長年お茶を習っていると茶道具に対して何となくでも好みが定まってくるのですが、自分ではよく分かりません。

私の師匠に言わせると「あなたは綺麗寂び」とのこと。

「古くて汚いもの(骨董)が好き」という人もいれば、私のように「新しくて綺麗なものがいい」というように好みは人それぞれです。

 

東博で「破袋」を見たときは「水指としての機能を備えていないよね」と、あまり良い印象を持ちませんでした。

何せ銘のとおり、大きくヒビが入り、これでは水が漏ってしまいます(黒漆で溝を埋めてはありますが)。

運びにするには大きいし、点前の最初から最後まで置き付けると水が絶対に漏る。

 

しかし、今回は伊賀焼ばかり約九十点も並んだせいか、壮観でした。

自然にかかったビードロ釉がキラキラと美しく、茶道では一般的に小ぶりな花生が多い中、高さ28センチ前後もある花生たちは個性的で大変な存在感を放っています。

 

これは花を入れるのがかなり難しそう。

利休さん式で、水だけ入れて花は挿さずに花生を主役として眺めてもらうのが良さそうなお道具ではないでしょうか。

もっとも、実際にお花を生けた状態で飾ってあった入り口の1点は、さすがに上手に花が入っていました。

師匠からよく「道具のせいにしない!」と指導を受けていたことを思い出し、自身の技の拙さで逃げの姿勢になる癖が抜けてないと反省!

 

何でも好き嫌いで判断するのは「遊び」の段階。

修行に入るとその先に進んで、特徴や良さを理解する学びが必要だと師匠や宗匠はおっしゃっています。

 

今回は茶の湯講座のテーマが「伊賀」で、その関係もあって出かけたところ、思いがけず伊賀焼の美しさや可愛らしさに触れることができました。

両肘をクの字に曲げて腰に当てた人が「エッヘン」と胸を張っているかのようなチャーミングな伊賀耳付花生「聖」も必見。

 

売店で販売されていた「破袋」が大きく全面にプリントされたトートバッグはインパクトあり過ぎで、ちょっと手が出ませんでしたが

(これを買う人は相当な伊賀好き?)、例によって絵葉書(もちろん「破袋」の)と一筆箋は買いました。

 

今回もう一つの目的は紅葉狩。

毎年この季節は京都に出かけますが、オーバーツーリズムの報道に恐れをなしてグズグズしているうちに機を逃してしまいました。

 

五島美術館の庭園には古墳もあるほどの広大な敷地に手入れの行き届いた樹木が茂り、大変素晴らしい場所。

なのに全然、知りませんでした。

 

園内の茶室ではちょうど茶会が催されていて、銀杏柄などの立派なお召し物のお茶人さんたちをお見かけして紅葉と共に目の保養になりました。

観光地のレンタル着物姿の人々を見ると、真冬でも浴衣のような生地で羽織物もなく、「寒くないのか? 大丈夫か?」と心配になるほど。

「きもの警察」でなくても別の意味で目が行きますね。

一方、絵画のような芸術作品のような帯や訪問着を目にすると伝統文化の粋が伝わってきて素敵だなぁと感じます。

 

外国人はもとより日本人の姿も茶道関係者らしき人以外はあまり見かけず、都内で穴場の紅葉狩スポットを見つけられたのは大きな収穫です。

美術館巡りが好きで都内の美術館はほぼ全て行きましたが、高級住宅街の上野毛にご縁がなかったこともあり、一度は出かけてみたいと思いつつ

気がつけば初めての五島美術館

 

次回の特別展もお茶関係。

枝垂れ桜の木もあったので春はお花見もできるかも。

これからちょくちょく出かけることになりそうです。

 

2023年12月3日まで。

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