餅を食うのは舌にとっても正月 2015-11-07 23:55:47 | 文学 杉の木の当主助六は戦争中に杉の木にシメナワをめぐらして神木に仕立ててしまった。そして無事供出をまぬがれるとともに、シメナワをはるわけにいかない隣家の円池を見下して、杉の木の由緒を誇ったのである。それ以来、両家の仲は一そう悪くなってしまった。 杉の木の助六は若いころ旅にでて、オシルコもおいしいし、お雑煮もおいしいものだということを発見し、年に一度の正月に餅を食うのは舌にとっても正月だということを確認したのである。そこで自分の代になると、正月は餅をついて食うことにした。 ――坂口安吾「餅のタタリ」 #長野県 « 脱出と回帰 | トップ | 人は可能なことのみ空想する »