くまだから人外日記

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【偽書】短期集中掲載『来夢の扉』…青葉起(た)つ 9

2014-02-25 22:30:54 | 【偽書】シリーズ
「誠に残念です。私の力不足で」

取り囲む報道陣の前で、監督代行を務めるヘッドコーチの呼依は発言内容と同じく力ない声で昨日の勝利を受けて連勝のかかる今夜のナイターを落とした弁をしどろもどろに語る。

「粟山監督には何と報告されますか?」
代表インタビューを束ねる本日のナイター放送局アナウンサーの問いに呼依ヘッドコーチは俯いてボソボソと何かを呟く。



「あー。あれじゃあ場へ引き出された家畜みたいなムードだねぇ。急に監督代行なんてやらされて急に勝てるなら誰も苦労しないよ、くらい言ってやればいいのに」
「あの人にそんな活気無いよ。良くも悪くも粟山さんの戦友であり良き理解者なだけで、粟山さんの代わりにチームを率いてやろうなんて野心家じゃないからね」
「せめて作戦コーチに監督代行させればいいのに。フロントも日和見過ぎないか?」
市井のファン達の酒のみ話ではあるが、これが選手間の会話であってもさほど内容は変わらなかったかも知れない。

チーム内が浮き足立つ中、先発の若き右の成長株外村衛の先頭打者への死球から始まった試合は、ボタンを掛け違えたどころかユニフォームの代わりに浴衣を着た様な違和感だらけの攻守を繰り返すナイン、とりわけ若き捕手とのサインミスを繰り返した外村衛の満塁ホームランを含む二回8失点を喫し降板した時点で、ゲームの大半を決していた。
後を継いだ社会人ルーキーが後続を抑えるも、次の回まで引っ張った末に連打の糸口を掴まれて、断ち切ったはずの負の連鎖を新たに産んでしまう悪循環。

更には反撃機での俊足自慢の東川の盗塁死の後に主砲大空大地の空砲が出るわ、外野の名手蝶がフェンスに激突しながら捕球に出たボールを落球し見失うなど、らしくない悪い流れを断ち切るには、唯一ベテランで先発していた天野美琴ひとりでは埒があかない話であった。

日頃温厚なファンですら、
「監督が居ない時に踏ん張らないでいつ踏ん張るの?今でしょう」
など、流行遅れの話を交えた罵声を浴びせられるに至り、苦笑する事さえ出来ないナインは足早にベンチ奥に消え、チームのマスコットキャラクター二匹が場内を詫びて回る事態となる。

そんな中、二試合続いて出番が無かった青葉勝利はバットストックから自分のバットを抜き去り、静かにケースにしまい込んで一礼しグラウンドを後にする。


やがて観客席が盛り上がる対戦チームファンだけになり、19対3と大差のついた試合結果を示すオーロラビジョンのスコアボードが消灯される。

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