(前回の続き)
あるイギリスの有名な話である。
それは、悪童・マイケルの変身物語である。以下、高尾利数『砂糖は体も心も狂わせる』(ペガサス)から、紹介する。
悪童・マイケルとは、マッカーネス医博(イギリス)の患者であった。同博士は、家庭医としてマイケル坊やを、長い間診てきた。前掲書に、この坊やは、次のように描かれている。
「たいへんケンカ好きであり、学校に行っても、家庭でも勉強にも遊びにも集中できないし、忍耐強く何かをやり通すということができなかったのです」(15ページ)
「この坊やは、いつも落ち着かず、手が震えていました。そして話をしようとするとどもるし、イライラして怒りっぽく、情緒が不安定で自分の爪をよく噛んでいました」(16ページ)
このようなマイケル坊やを診ているうちに、マッカーネス医博は、坊やは、まっとうな食事をしていないことに気づいた。
この坊やは、「かぎっ子」のような生活をしていて、自由に使えるお金で、毎日、自分の好き勝手なものを食べていたことがわかった。
「マイケル坊やが毎日主として食べていたのは、アイスクリーム、種々のケーキ、種々のチョコレート、精製シアリアル、グディーズと呼ばれる菓子類、ボン・ボン、ミルクセーキ、ミルク・チョコレート、そして白パンと加工食品ばかりでした」(16ページ)
そこで、マイケル坊やの悪童ぶりは、食事と関係があるとみた同博士は、坊やの母親と相談して、坊やの食事を変えてみることにした。
それまで食べていたものをすべて止めさせ、とくに砂糖はいっさい食べさせないようにした。そして、肉類を減じ、黒パンとたくさんの野菜を食べさせた。
すると、一週間もすると、先に述べた悪童ぶりの数々が消えていき、数週間もすると、驚くほど素直なよい子になった。
その後、同博士は、試みにマイケル坊やに,以前と同じような食事をさせたところ、数日後には、マイケル坊やは、また、以前のような悪童に戻ってしまった。
そこで、ふたたび、砂糖の入らない食事に戻してみると、マイケル坊やは、また、よい子に戻った。
以上が、悪童・マイケルの変身物語の要旨であるが、ひとつ申し上げたいことがある。マイケル物語は、単なるエピソードの類ではなく、リチャード・マッカーネス医博(イギリス)による臨床医学的データに基づいていることである。
しかも、それは、同博士から、1964年8月21日、ロンドンで開催されていた「社会精神医学国際会議」において発表されてもいる。
さて、このマイケル坊やは、砂糖の過剰摂取で、「低血糖症」に陥っていたと考えられる。
「低血糖症」とは、つぎのようなものである。
精製された砂糖は、身体に取り入れられると、急速に吸収されて、血液中に一時的に糖の洪水(高血糖)を引き起こす。その状態をただすために膵臓が多量のインシュリンをだす。すると、こんどは、糖が少なくなりすぎて、血糖値が低下したまま、あがらない状態となる。これが、「低血糖症」である。
「低血糖症」に陥ると、脳が必要とするブドウ糖(=血糖)が不足する。このブドウ糖不足を解消するために、攻撃ホルモン・アドレナリンが分泌される。それが、人を攻撃的にさせる。
「低血糖症」は、次のような症状を示す。
大沢博『その食事では悪くなる』(三五館)には、600人以上の低血糖患者を治療したアメリカ・フロリダ州のステファン医師による「低血糖症候群リスト」がある。
神経過敏、いらいら、極度の疲労、無気力、ふらふら、震え、冷や汗、弱い発作、うつ、めまい、眠い、頭痛、消化障害、忘れっぽい、不眠、たえず悩む、わけのわからない不安、精神的錯乱、内的震え、心悸亢進,頻脈、筋肉痛、感化麻痺、非社交的,反社会的、決断できない、発作的に泣く,性衝動の欠如(女性)、アレルギー、協調運動不能、脚の引きつり、集中力欠如、目がかすむ、筋肉のひきつりや不随意運動、皮膚がかゆかったり、何かが這うような感覚、息がきれる、息がつまる発作、よろめき、ため息とあくび、インポテンツ(男性)、意識がなくなる、夜間の恐怖、夜驚、リウマチ性関節炎、恐怖症、恐怖、神経性皮膚炎、自殺志向、神経衰弱、けいれん (前掲書96~98ページ)
いまでは、梅干にも砂糖が使われて、甘ったるくなっている。街で売られている加工食品は、そのほとんどに砂糖が使われている。
これほど多く、砂糖が使われているのだから、わが国民のほとんどが、大なり小なり「砂糖の害」を受けている。しかも、その害は、継続的に毎日・毎日、免れることがない。
ということは、程度の差こそあれ、わが国では、いつも「国民総低血糖症」の状態にあるといってよい。その程度がひどければ、犯罪、交通事故、疾病が引き起こされる。その程度が軽ければ、いろいろな不定愁訴に悩まされる。
要するに、先にあげた「低血糖症候群リスト」が示すように、砂糖は、人を「たえず悩ませ、わけのわからない不安に駆り立てる」だけでなく、「精神的錯乱と内的震え」へと導く。つまり、砂糖を継続的にとり続けるわが国民は、そのほとんどが、程度の差はあっても、いつも狂っているのであろうか。
だが、いまだに、国は砂糖を禁じてない。これは、国自身が、すでに狂っているということか。
しかも、国の狂いをたださなければならない国民自身も、砂糖で判断力がマヒしているとなれば、これは、もはや救いがたい。
砂糖は、わが民を狂わせ、わが国を狂わせる。そして、民が滅び、国が滅ぶ。
(次回は、8月1日水曜日)
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