今、自衛隊の在り方を問う!

急ピッチで進行する南西シフト態勢、巡航ミサイルなどの導入、際限なく拡大する軍事費、そして、隊内で吹き荒れるパワハラ……

奄美、与那国駐屯地に公然と配備された自衛隊の情報機関・情報保全隊―このスパイ機関が宮古島に配備されたのは確実だが、これは重大な住民への背信行為だ!

2019年04月10日 | 自衛隊南西シフト
 奄美駐屯地への情報保全隊(旧調査隊)の配備を無批判的に報道するメディア
 
 まず、冒頭の写真を見ていただきたい。


 これは、しばらく前に私のところに届いた手紙だ。「保全隊が暴走しています」という文とともに、自衛隊情報保全隊の部隊章INTELLIGENCE SECURITY COMMANDが送られてきた。手紙は、おそらくこの部隊に所属する隊員のものであり、保全隊の暴走を危惧する立場からの「告発」だろう。
 問題は、本来は自衛隊内の秘密情報の保持などで、隊員を監視する機関であるはずのこの部隊が、今、公然と、先島―南西諸島に配備され、住民の調査・監視に乗り出しつつあることだ。

 奄美大島・与那国島に配置された情報保全隊――果たして宮古島には配置されたのか?

 まず、自衛隊情報保全隊が、奄美大島などへ配備された事実から確認しよう。
 写真は3月31日、陸自奄美駐屯地から発表された、奄美駐屯地配備部隊の庁舎案内図だ(4月1日付「南海日日新聞」)。このB庁舎の下から3番目にある配置図には、「西部情報保全隊奄美情報保全派遣隊」が配置されている建物が掲示されている。B庁舎の一番下に掲示されているのが、自衛隊内の犯罪を取り締まる警務隊だ。こんな小さな部隊に警務隊が配置されているのも不思議だが、自衛隊情報保全隊の配置は、それにもまして不自然だ。この目的は何か? 



 前提的に確認する必要があるのは、問題は、奄美駐屯地とともに、2016年3月に配備された与那国駐屯地にも、自衛隊情報保全隊が配備されたということだ。与那国島の場合、沿岸監視隊という、わずか160人の部隊だ(配備予定の空自移動警戒隊を含めても約200人余り)。
 この状況からすると、自衛隊情報保全隊は、奄美大島・与那国島だけでなく、宮古島にも配備されたということであり、続く石垣島にも配備されるは確実だということだ。

 治安出動態勢下に隊員監視から住民監視へと変遷した旧調査隊
 
 本来、「部隊等の運用に係る情報保全業務のために必要な資料及び情報の収集整理及び配布を行う」(「自衛隊情報保全隊に関する訓令」第3条「(情報保全隊の任務」)として、部隊内の「隊員らからの秘密漏洩」のために設置された自衛隊情報保全隊(旧調査隊)は、防衛大臣直轄の「常設統合部隊」として、2009年に新たに調査隊から名称替えしてスタートした。この組織は、全国に中央保全隊ほか東北・西部など5つの保全隊が設置されていることから明らかだが、本来の保全隊の組織的配置は、陸でいえば「方面隊規模の大部隊内」への配置。これが、わずか160人の与那国、約600人規模の奄美、そして約800人規模の宮古島駐屯地に配備されるのは、異例の状況である。

 さて、この情報保全隊が、隊員らの調査・監視業務から、大きく離れて、もっぱら住民の調査・監視、スパイ(諜報活動)に任じるようになったのは、自衛隊の主要任務である「治安出動」と関係している。
  すなわち、1960~70年安保闘争による反戦運動の社会的広がりの中で、自衛隊はその最重要任務の1つとして、この時代に治安出動態勢に突入した。もっとも、この自衛隊の「国民を敵にして暴力的鎮圧」を行うという、血なまぐさい任務は、当然にも自衛隊員に動揺を生じさせることなった。

 この自衛隊の恒常的な治安出動態勢づくりは、治安出動態勢下における情報収集、対住民・市民対策として、旧調査隊の工作員を集会・デモなどに監視・潜入させるとともに、これらの部隊が日常的に「隊員監視」という業務から「住民監視」へと任務を変えていくことになったのである。

 住民を調査・監視し、「島嶼戦争」の「対スパイ戦」の任務にあたる情報保全隊 

 あまり知られていないが、自衛隊法の第78条「自衛隊の治安出動」には、「内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。」と規定され、第79条2には、「治安出動下令前に行う情報収集」として、「防衛大臣は、事態が緊迫し……治安出動命令が発せられる……ことが予測される場合において、当該事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、……自衛隊の部隊に当該者が所在すると見込まれる場所及びその近傍において当該情報の収集を行うことを命ずることができる。」と規定されている。
 
 重要なのは、この治安出動の規定は、国内の大規模デモなどを「間接侵略事態」(デモなどは外国からの教唆・煽動)として認定し、武力鎮圧を正当化していることだ。自衛隊が「災害派遣」などで、あたかも「国民を守る」かのような虚構に惑わされている人々にとって、この国民の正当なデモなどを「外国の教唆・煽動による間接侵略」とする規定は驚くことであろうが、これが自衛隊の本質であり、実態なのだ。

 陸自教範『野外令』『対ゲリラ・コマンドウ作戦』が策定する間接侵略論と情報保全隊の住民工作

 まず、陸自教範『野外令』は、第5編「陸上防衛作戦」の第7節「警備」の項で、警備の目的として「敵の遊撃活動、間接侵略事態等に適切に対処」、「間接侵略事態の様相は、多種多様である。……地域的にも局地的な事態から広範囲にわたる事態があり、その程度も非武装の軽度の様相から武装化した勢力による一般戦闘行動に準じる様相」、「間接侵略事態の主体勢力は、識別が困難であり、地域と密着した関係部外機関との協力なくしては、対処が困難である。また、武器使用に当たっては、非軍事組織に対する行動であることに留意」という(社会批評社刊『自衛隊の島嶼戦争ー資料集・陸自「教範」で読むその作戦』所収)。

 そして、結論として「多様な様相に適切かつ主動的に対処するため、早期から関係部外機関と緊密に連携した継続的な情報活動により、適時に情報を入手することが重要」「対象勢力に関する情報を……継続的に確保することが必要」としている。
 
 明らかなように、ここでいう間接侵略事態の対象は、武装したゲリラだけではなく、「非武装程度の様相」の「非軍事組織に対する行動」、つまり、基地・自衛隊に反対する、あるいは戦争に反対する市民・住民ということである。
 つまり、自衛隊は「陸上防衛作戦」の「島嶼戦争」下に、島々の住民対処――これは戦時下の住民避難としての対象ではなく、自衛隊の軍事行動を阻害し、妨害する反対勢力として、住民を対象化しているということだ。
 陸自教範『対ゲリラ・コマンドウ作戦』の第3編「不法対処行動」についても、自衛隊の治安出動下においての、情報収集活動や住民対策を規定しているが、これは別の機会に述べよう。



 自衛隊情報保全隊の住民監視・調査が暴露された裁判

 2007年、自衛隊のイラク派兵に反対する東北6県市民107人らが、自衛隊の情報保全隊の調査・監視の対象となり、精神的苦痛を受けた、として国・自衛隊を訴えた裁判では、仙台地裁・仙台高裁は国に賠償を命じる判決を下し、国・自衛隊はこれに上告せず判決は確定した。
 ここで、情報保全隊が情報収集した内容は、「日本共産党、社民党、ジャーナリストなど報道関係者や、市民や聖職者による自衛隊イラク派遣反対の活動」「反戦運動、また集会などの調査」、その「活動日時・場所・内容、活動に携わった団体の名称や活動の規模、活動団体の代表の氏名など」、「及びそれらの活動が自衛隊関係者または国民世論への影響や活動の今後の見通しの分析」などとされている(Wikipedia)。

 つまり、情報保全隊は、当時のイラク反戦運動に係わる、全国の全ての団体や個人・ジャーナリストなどの情報収集を行っていたということだ。
 このケースは、内部告発によって情報保全隊の調査資料が暴露され、裁判になったというまれな事件である。しかし、かつての1970年前後からの反戦運動では、自衛隊の調査隊が、集会・デモに潜入し、摘発されるケースはたびたびあった。いわば、自衛隊の市民監視態勢は常態化しており、自衛隊もまた、治安出動態勢の一環として正当化していたのだ。

 奄美・与那国、そして「宮古島駐屯地に配置」された自衛隊情報保全隊は撤退せよ!

 だが、現在、先島―南西諸島に配置された自衛隊は、あたかも災害派遣などから「住民を守る」という詭弁を使って、島々の軍事化を図っており、その任務や意図を住民から押し隠し続けている。「住民を守る」とする自衛隊が、なぜ、情報保全隊という諜報機関を配備し続けているのか? この自衛隊当局のウソ、欺瞞を徹底して追及しなければならない。

 例えば、与那国・奄美・宮古島において、防衛省説明会では情報保全隊の配備は、一切説明もない。配備部隊自体が隠されているのだ(奄美では新聞に掲載だが!)。宮古島のミサイル弾体問題と全く同様、自衛隊は住民に対して、配備部隊の編成をも隠し続けているのだ(与那国駐屯地での情報保全隊の配備は、私の請求した情報公開文書で明らかになったのだ)。

 こういう状況が続けば、宮古島駐屯部隊などの、住民から隠された部隊の増強は、留まることはない。一旦配備された部隊の、自治体を無視した大増強が続くことは、沖縄島を見れば一目瞭然である。

 現在、先島―南西諸島の、緊急の重要な問題は、この自衛隊の住民を欺き続けるミサイル弾薬庫などの危険物の排除、住民から隠された部隊配備、そしてなし崩し的に始まる部隊の増強を阻むたたかいとなるだろう。