次の2枚は長らくライトニンの代名詞ともなっていた、ブルース・ファンで知らぬ者なしのこのジャケット!ファイア録音と、ほぼ同時期(1,2日違いで録音されたという)、これも名盤の評価の高いキャンディッド盤。
Lightnin' Hopkins ; Mojo Hand ( Complete Session ) (P-VINE PCD-5749)
- Mojo Hand
- Coffee For Mama
- Awful Dream
- Black Mare Trot
- Have You Ever Loved A Woman
- Glory Bee
- Sometimes She Will
- Shine On, Moon
- Santa
- How Long Has That Train Been Gone
- Bring Me My Shotgun
- Shake That Thing
- Last Night
- Walk A Long Time
- I'm Leaving With You Now
- Houston Bound
- Just Pickin'
- Baby I Don't Care
☆1960年11月に録音された「拳骨ジャケ」と共に名盤の評価の高いファイア・レーベルの、オリジナル未収録の9曲も全て収録したコンプリート盤。紙ジャケ仕様。 CD発売年・・・1998年
★試聴 → http://www.allmusic.com/cg/amg.dll?p=amg&sql=10:dcftxqyaldke
たしか僕の最初のライトニン盤はこの『Mojo Hand』のアナログ盤、ただしコレクタブルのリイシュー盤です。当然ですか。タイトルの"Mojo Hand"はこの後も何回も再録されているけど、このファイア・バージョンは覇気も勢いもあり、ある意味完成されたバージョンで、結局これを超える演奏は残されていない。
これはやっぱり、ファイア・レコード Fire Records の社主でプロデューサーのボビー・ロビンソン Bobby Robinson の手腕といえるのだろう。音質とかギターの音色、ドラムの入り具合、エコーの掛かり方すべてにおいてプロの仕事である。ここらが所謂コレクター・レーベルとファイアのような商業レーベルの違いだ。どちらが良いというのではない。例えばこの後取り上げるアーフリー盤にはこのファイア録音よりさらにドロリとした感覚があふれていて、ロウダウンだ。ライトニン・ホプキンスというキャラクターを味わうならアーフリー盤のほうが適しているように思う。このファイア盤はもっと万人向けにできている。華がある、といって良いだろうか。アーフリー盤にはこれがない、決定的な違いだ。
そういったわけでまずライトニンの最初の1枚としてはまず間違いなく万人に進められるし、もちろんそういったものは永遠の基本アイテムとして「Mojoに始まり、Mojoに終わる」ワケです。
このアルバムはそれ以前に吹き込まれたフォークウェイズやトラディッションと異なる点のもう1点はそれまでがライトニンの弾き語りであったのに対し、このアルバムではバックにドラムとベースがつき、そのことでライトニンのギターの自由度が一層増していることで、そのこともこの録音の成功の一因でしょう。特にドラマーが非常にいい。そもそもライトニンは普段はバックがいようといまいと好きなようにやるのでバックはそれに追いつこうと四苦八苦するのが常套なのだが、この録音では不思議と整った演奏が多い。ナゼなのだろうか?おかげでとっちらかった印象がなく、ますます完成度高く感じるのですね。
収録曲はどれも素晴らしいが、やっぱり1曲目の"Mojo Hand "でしょう。この曲ほどブルースの美学をすべてにおいて表しているものはないと言っていいのではないでしょうか?演奏も完璧で最高のダンサーです。最初にも書きましたがこの盤は僕にとって最初のライトニン体験盤だったこともあり、その曲も馴染み深いのだが、"Glory Bee"のようにグッと深いスローを聴かせると思えば、"Black Mare Trot"のようにちょっと軽めのインストなんかもあって思いのほかバラエティーに富んでいるな、と思ったものでした。とりわけ印象深いのはLPでは最後の曲である9曲目の"Santa"。ブルースでもサンタ・クロースのネタがあるのだと始めて知ったのでした。以前「ブルース&ソウル・レコーズ誌のブルース・リリックという連載でこのライトニンの"Santa"が取り上げられていた。その中で中河伸俊氏が指摘している通り録音の翌月に控えたクリスマス・シーズンのリリースを期待していたかもしれない。それにしてもライトニンが歌えばどんなことでもブルースになる、例えばクリスマスでも、という見本のような曲です。
この『Mojo Hand』はそれこそいろいろなタイトルやジャケットの輸入盤がたくさん流通しているので混乱するくらいです。買うのは難しくないが、やっぱりここは、この「拳骨ジャケ」を紙ジャケで楽しめるPヴァイン盤でしょう。ボーナス曲もちゃんと入っているし。
Lightnin' Hopkins ; Lightnin' In New York (P-VINE PCD-5356)
- Take It Easy
- Mighty Crazy
- Your Own Fault, Baby, to Treat Me the Way You Do
- I've Had My Fun If I Don't Get Well No More
- Trouble Blues
- Lightnin's Piano Boogie
- Wonder Why
- Mister Charlie
- Rainy Highway
- When My First Wife Quit Me
- Walk On
- Lightnin's Guitat Boogie
- Black Cat
- Come Go Home With Me
☆「Mojo Hand]の録音直後・ほぼ同時期の1960年11月15日に同じニューヨークのキャンディッド・レーベルに録音されたオリジナル・アルバムに6曲の未収録曲が追加収録。CD発売年・・・1998年
★試聴 → http://www.allmusic.com/cg/amg.dll?p=amg&sql=10:0ifixqtgldfe
同時期に、おなじニューヨークで、今度はジャズ系のレーベルとして有名なキャンディド・レーベルに録音されたこれまた有名なアルバム。
それにしてもこの頃のライトニンは非常に活発だった。60年の10月にニューヨークに来て以来、10月14日にピート・シガーらとカーネギー・ホールでライブ出演し、26日と翌11月9日にプレスティッジ/ブルースヴィルに2枚のアルバムを録音。後の『Last Night』と『Lightnin'』として発売されたものであろう。さらには上記の『Mojo Hand』を吹き込んだ後、11月15日にこの『In New York』を吹き込むわけだ。
わずか1週間の間に3枚分(未発表になったものを含めればそれ以上)の録音をこなし、それがすべて別々のレコード会社に向けてというだけで何かクラクラする。その勢いは61年になっても止まらず、あのアーフリー盤やヴィージェイ盤といった傑作を作り上げるわけだから、もう・・・ナンといってよいか分からん。
『Mojo Hand』が当初はシングル用に録音された音源に対し、このキャンディド盤は当初よりアルバム用に録音されたものという違いがある。それはジャズ・レーベルとして当然のことで、購買層の違いということです。ジャケットも全然趣味が異なり『In New York』のほうはやたらお洒落に着飾ったライトニンがピアノとその上にぶら下がったマイクの前でアコギを構えてキメテくれている。
そういうワケで決して一般的なヒットを狙ったものではないのだがしかし、これまたファイアとは違う意味でコレクター・レーベルとの違いが見える。フオークウェイズやトラディッション、それにアーフリーも含めても良いが、それらのアルバムを録音したサミュエル・チャーターズ、マック・マコーミック、クリス・ストラックウィッツらは民俗学者や劇作家それに元学校教師といった人たちでそれこそ録音技術ということに関しては長けていない人たちだ。対してキャンディッドはジャズ・レーベル。音楽の内容と同じくらいに音質にもこだわる人たちのはず。
たとえギター1本のことでも例えばトラディッション盤などに感じる不満/退屈さを、同じようなアコースティック・ギターによる弾き語りにもかかわらず、このキャンディッド盤では感じないのは、そういったこともあるのではないかと思ったりもするのです。
このアルバムのハイライトはやはり8曲目、本来のアルバム最終曲でもある"Mister Charlie"でしょう。前半のライトニンの語りにつづいて歌いだす瞬間、グッと緊張が走る。いつ聴いてもスリリング。この曲はこの後も何度か再演されています。ちなみに4曲目の"I've Had My Fun If I Don't Get Well No More"はライトニン作曲とクレジットされていますが、ハウリン・ウルフで有名な"Goin' Down Slow"です。
このアルバムも例のごとくPヴァインによってボーナストラック6曲を収録した形で日本初CD化されたのが98年とすでに10年前。輸入盤では8曲入りのまま。ここはぜひ日本盤を探していただきたい。