「プチット・マドレーヌ」は越えたので許してほしい

読んだ本の感想を主に書きますが、日記のようでもある。

引き続き『文学的絶対』を読み進める

2024年04月14日 | 本と雑誌
 さて、引き続き『文学的絶対』を読み進めている。シュレーゲルの『着想集(イデーン)』まで読んだので、ようやく半分を超えた所だろうか。「芸術の限界内における宗教」の所を読んでみて、やはりベンヤミンの『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』の議論と重なるところが多いと思う。ロマン主義には、先日書いたように「断片性」があるわけだが、この断片は「一即多」的な意味において、「制作的」に取り集められる。その取り集められ方が、カントにおける「構想力」と関わるのか、それともヘーゲル的な aufhebung(揚棄)と関係あるのか、という問題がある。シュレーゲルにはそれが、「道徳」と「宗教」の問題として現れる。「一」が「無限」の「断片」と関わる場合、そこには何らかの「制作」としての Darstellen が働いている。これを「構想力」としての生産的「発明」(デリダ)の作用として見るのか、 ヘーゲル的な「揚棄」と見るのか。かつてはヘーゲル的「揚棄」は統一や統合に向かい、「断片」の差異を無化してしまう危険があるので、「揚棄」なき「揚棄」としての「エクリチュールと差異」の問題があったわけだが、ヘーゲルも必ずしも差異を無化するようなことはいっていないはずである。ヘーゲルのいう「絶対精神」は『論理学』によれば「無限に差異化された統一体」という絶対的矛盾の統一であり、これはロマン主義的イロニーとすごく似ている。京都学派とか西田幾多郎的なものともつながるだろう。

 そういう意味で、「一即多」を繋ぐのは、「構想力」なのか「揚棄」なのか、それとも「道徳」と「宗教」という形式での、「無限」と「一」との接触を考えるのか、という問題がある。シュレーゲルはこの「一」と「無限」の接触と、それを一つのシステムとして bilden する作用は「(自己)犠牲」というある種の「神秘」的な用語で説明しようとする。僕なりに解釈すればこの「犠牲」とは、「無限」を前にした「無為」(無為の共同体!)ともいえるし、Ab-grund としての「無-底」への投機ということになろう。そのような「無」への献身、あるいは「無限」へと投機することで成立する「一」と「多」との関わり合いこそが、ロマン主義的イロニーということになる。シェリングの「無底」がロマン主義のイロニーに影響を与えるのは、この「真理」が「無限」という「断片性」であるということと関わっているからだ。

 このような「断片性」は、これも先のブログには書いたが、アジアという「断片性」がヨーロッパ的「真理」としての「無限」や「神」と触れ合う問題として「大東亜」の問題に繋がっている。その「一即多」を可能にしているのが、Ab-grund としての「天皇」と接続されるのだと思う。つまり、「断片」としてのアジアを「天皇」は「大東亜」として darstellen するのだ。それは日本の浪漫主義から、イロニーとしての天皇(制)を模索していたわけで、確か保田與重郎には「文化対策ないし文化建設」という評論があって、そこでは「文化」を守る「天皇」という問題があったはずである(このような論文だったかうる覚えで申し訳ない)。これはのちの三島の「文化概念としての天皇」の〈原型〉のような話であったと思う。このロマン的イロニーは、「天皇」という「Ab-grund」をどうやって、「大東亜」の存在の根拠とするかという問題であった。「大東亜」という言葉を仮に肯定する場合、この「天皇」というイロニーの問題は避けられないわけであり、話をぶり返すと、このイロニー抜きで民主主義下の軍隊が、「大東亜戦争」という言葉を安易に肯定してはいけないわけだ。「大東亜」というのはイロニーにおける「断片性」と「無限」を繋げる「天皇」という問題であり、天皇制的身分制度を民主主義的に排除している国が、今更何を言っているのか、ということだろう。「天皇」をイロニーとして護持したいという右派も、この自衛隊のなし崩しの〈愛国心〉は厳しく批判すべきだと思う。こんないい加減な俗情の愛国心は、「文化」のために百害あって一利なしだと。これは「天皇」というイロニーなしに京都学派のある西洋哲学的部分を愛でて、日本の哲学の国際性を強調するような〈愛国心〉にも批判的に言えることであると思う。京都学派を批判的にロマン主義の文脈で解釈するならば、やはり日本浪曼派とマルクス主義との競合の中で見定めないとだめだろう。文化主義的な京都学派観というのは、以上の意味で、「天皇」という政治的問題を否認してしか成立しないのではないだろうか。これは1980年代の文芸批評家たちがおこなった、京都学派への批判だと思う。これがなかったかのようになるのは、非常にまずい。

引き続き読んでいこう。

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