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「プチット・マドレーヌ」は越えたので許してほしい

読んだ本の感想を主に書きますが、日記のようでもある。

「支持者」になりうる人との議論

2025年07月14日 | 日記・エッセイ・コラム
 所用で実家に数日帰ることになった。久々に会う親族もおり、世代的には団塊後期に位置する親族(男性)との数時間にわたる議論があった。その親族は、僕が高校生くらいから、社会問題や政治についての議論をしてくる傾向があり、頻繁に出会うわけではないが、何年かぶりにそのような状況となった。久しぶりに長く話す機会となり、その親族もどちらかというと、高齢化する僕の両親に対する、時間があったら帰郷して会いに来てほしいという僕への要望と、現代の高齢化社会における共同体の衰弱、そして親族自らの高齢化に伴う心身の不安とに起因する、ロマン主義的な心情から、懐かしさを感じる僕と、とにかく何か議論がしたいという雰囲気に見えた。当然?、議論は参政党の話になる。昨今の典型的な話だが、高齢化した親族はYoutubeを頻繁に視聴しており、議論の根拠をYoutubeの「番組」とYoutuberでほとんどを占めるという、話には聞いていたが、こういう人は実際に存在するのだな、という感慨を抱くほどであった。親族の主張は、ご多分に漏れないものなので要約して書くと、「日本人がないがしろにされて、外国人(特に日本国内に居住する中国人と韓国人)が優遇されている」、「石破首相は外国に有利な政策をしている」、「日本の土地を外国人が買いあさり、日本の高度な技術も盗み取られている」、「クルド人問題」、「自民党の7割の議員が在日外国人である」というものである。僕は、Youtubeの番組やYoutuberの意見が、「フェイクニュース」であることを指摘すると、親族はその指摘は理解するものの、そのフェイクニュースの内容自体を決して破棄しようとはしない。むしろそこに更なる「理屈」を付けて補強する。

 例えばこういうくだりがあった。所謂研究を推進するような有名な大学の大学院は、外国人留学生が多くを占めており、日本人学生の数が少ないという状況がある。そのような状況は危機的で、日本人の学生を増やして外国人留学生を減らすべきだと、親族はいう。僕は、主張の理念の部分での是非はおいておいたとしても、現実的な下部構造の問題として、日本人学生だけで大学の「経営」や「研究」はもはや成立し得ず、そのような現実を無視した主張は、むしろ親族が大事だと言っている「国力」を損なうものではないかと伝えても、親族は、仮にそれで大学と研究が衰退したとしても、また日本人の力で復活させればいいという。僕は一度衰退した大学と研究はそんなに簡単に復活するものではないし、そのような非現実的な主張こそ、親族が掲げる日本が大事だという理念を損なうものではないか、と話したのだが、親族は全く納得しない。ほとんど「玉砕」にも通じる現実を無視した理念を聞くと、親族をこのような思考に追い詰める要因は何であろうかと、考えざるを得なかった。

 親族の、そのような排外主義に基づく日本の「国力」の復活という妄想を聞いていると、参政党についてはどう思っているかを聞く必要がある。親族に参政党への賛否を聞くと、投票する候補には上がってくるという話である。親族も元々は兼業農家であったが、政策的にはおそらくかつては社会党を支持し、そのまま立憲民主を支持していたと思われる。だが、今回は参政党も親族の投票候補の視野に入っている。僕は親族に、参政党の主張が排外主義や差別、あるいは国民主権を毀損する主張をしているが、それでも支持するのか、と問うた。すると親族は、参政党が無茶苦茶な政策や変な主張をしているのは知っているし支持はしない、しかし、自民党や立憲民主、国民民主や維新が日本を貶める政策ばかり提案しているので、それを「懲らしめる」ために参政党が強くなってもらうことは悪いことではない、と答えるのだ。親族は「俺は判官びいきのところがあるで、自民党には反対してきた。やけど今回は、大半の政党が日本を弱体化させる主張や政策をするで、そこにブレーキをかけやなあかん」とも言っていた。僕は、仮にそれで参政党が大きな力を持ったら、その主張から差別の助長や国民の権利が制限されるなど、日本に住む人々が不利益を被る心配はないかというと、親族は「参政党が力を持つほど大きくなるはずがない」という楽観的な見通しを示したのである。この楽観自体が参政党を大きくさせる要因であり、かつてナチが政権をとった原因であろう。親族は各党が主張している日本を強くし、「国民」を幸せにする主張の「良いとこどり」ができればいいのだが、それができないので困っているという。だから、親族にはその中で「日本人ファースト」というわかりやすい主張を支持する参政党が目に入っているのだ。

 僕は、親族が危機感を感じている共同体の崩壊や「国民」からの搾取は資本主義の問題であり、そのような資本主義からの搾取を批判しない限り、親族のいう危機感は拭い去れないだろう、と思っている。そこで、親族の抱いている危機は、ほとんどが資本主義が引き起こしたもので、それを批判する必要があるのではないかというと、「その部分では俺も左かもしれやんが、左の政党は支持できやん」と答えた。親族のこの発言から見ても、親族が言う危機は本来資本主義の搾取とその脱構築作用によって、自分たちのなじみの場所が解体されていくという危機のことであって、それは資本主義批判することでしか明らかにできず、対抗することもできないはずである。しかし、親族も多くの人も、資本主義を批判するということ自体は否認するようになっている。その否認によってさらに危機感が募る。僕が冗談めかして、「もうそこまで行ったら参政党みたいなもん支持してお茶濁すんじゃなくて、左になってしまえばええやん」といったが、親族は苦笑いしていた。

 階級や労働の問題自体が資本主義によって脱構築されていくことで、本当は「誰」(どの階級)が搾取しているのかが見えにくくなった結果、親族も含め多くの人が「搾取する主体としての外国人」にその矛先を向けるようになった。親族が見ているYoutubeという巨大メディアやグーグルこそ、むしろその搾取をする主体であるにもかかわらず、そこで垂れ流されるフェイクニュースによって自分の「真の敵」を否認し、目を背けさせられることで、偽の対立と偽の原因としての排外主義へと導かれる。Youtubeとそこで手先になっているYoutuberこそが、親族を含む危機を抱く人々の欲望や金を搾取しているはずであるのに、親族らはそれらが垂れ流すフェイクニュースを信じながら、偽の対立と偽の原因である「外国人」への憎悪へと至る。参政党もそのような大資本家たちの「手先」のはずである。にもかかわらず、親族をはじめ危機を抱く人々が、そのような資本家の「手先」に希望を見出さなくてはならないとは、みじめこの上ない様相である。資本主義への批判の矛先を常に否認させ、そこから逸れさせる力が資本主義自体には宿っている。

 親族とは4時間以上議論しただろうか。親族もしきりに積極的な参政党支持ではなく、消極的な選択としての参政党支持だとしきりに言うのだが、それこそが最も問題のあるシニシズムだろう。このシニシズムこそ、現状肯定そのものでしかない参政党の主張を、変革の希望として認識させるものであり、この資本主義シニシズムこそ、 排外主義や差別を「空気」のように「日常」として認識させてしまう基盤となる。そしてそれは、その「空気」や「日常」を批判する見地自体を喪失させてもしまうだろう。親族と話す限り、参政党を「消極的」に支持する人の中には、搾取に対する怯えとこれまでの秩序の喪失という喪失感がある。それは「左」によって批判的に考察され政策に取り込まれなければならない要素が多分に含まれる。意識的に資本主義批判と「左」へと親族を誘導して話す中で、親族もある部分は「左」であることを認めている。だとするならば、この「左」を理念の上でも下部構造の政策の面でも、左翼の政党は主張し続けるべきであるし、否認することなく、資本主義批判をするべきである。大衆の支持を失うかもしれないから、天皇制を肯定し、資本主義を肯定する左翼政党は、参政党と何も変わらなくなる。

 精神分析的な事実だと思うが、人々の欲望に沿った形で何かを提案しようとすると、常に裏切られる。「人々のため」になる政策が不興を買うのは、それ自体が人々の欲望の核を否認したものであるからだ。なぜ「国民」の権利や、人間の権利を制限しようとする政策が支持されてしまうのか、労働者自身が不利になる政策を熱狂的に支持するのか、それはそれらが人々の欲望の核に触れているからである。それが分からないと、参政党を支持する人が愚かで蒙昧な人にしか見えないだろう。それはおそらく間違っている。共産主義の理念である資本主義批判には、そのような人々の欲望の核に触れるものがあるはずなのだが、左翼政党が理念を捨てて資本主義の中で人のためになる、人々に受けの良い政策を提案し続けたとしても、それは欲望の核を否認し続ける限りにおいて、無意識の次元で裏切られ続けることとなる。

 議論の後、久しぶりに会ったということで地元の食堂で親族と一緒にご飯を食べた。その後の親族の家族の話によると、意見は真っ向から対立し、かなり不快な表情で僕の話を聞いていたその親族は、久しぶりに僕と議論ができて飯が食えたといって喜んでいたそうである。そしてその親族は常に、食事中も、時間があったら故郷に帰って来いと、僕に対していっていた。僕は地元の食堂で料理を運んできたこの店員も、参政党支持の可能性はあるな、と思いながらご飯を食べた。

 地元の神社の近くの畑に鹿がいたので写真で撮る。


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