比良探検隊閑話

琵琶湖をのぞむ比良山系の主峰 武奈ヶ岳を中心とした山行記録「比良探検隊」番外編。

「2年生の力を借りて」  ( 高校サッカー選手権 埼玉県予選に思う)

2010-08-30 | サッカー
8月も終わろうとしているのに、35度を超える猛暑が続く。

会場となった高校の駐車場は満車となり、係りの生徒が父兄の車を田んぼの沿道に誘導する。


戦いは既に繰り広げられていた。

土と汗にまみれ、背番号も見えないユニフォーム。


テントの中では、じっとボールを追う瞳がある。

試合を見つめる赤いビブスを着た控えの選手たち。

彼らは、どんな想いでいるのか。



入学以来、2年半。「青春のすべてを賭けた」といえば、大げさだろうか。

高校サッカー選手権 埼玉県予選。この試合に勝てば二次予選に進める。

だが、負ければ3年生にとっては最後の試合となる。



サクリファイス「sacrifice」(近藤史恵:著)という小説を読んでいる。

「sacrifice」は「犠牲」。


エースに勝利をもたらすため、アシストに徹するロードレーサーが主人公。

ロードレースと言えば、「ツール・ド・フランス」が有名だが、この小説を

読めば、そのスポーツが如何にチームスポーツであるかがわかる。しかも、

勝利に徹したスポーツであることが。


エースのために「働く」アシストたちは決して、総合優勝を目指さない。

しかし、それ故、エースはアシストに責任を負う、そして叫ぶ、

「非情にアシストを使い捨て、彼らの思いや勝利への夢を喰らいながら、俺たちは走っているんだ。

・・・自らの足下に累々と積み重ねられたアシストたちの犠牲を、わずかにでも無駄にしないために。」



道を挟んだ向かいのグランドでは野球の試合が行われている。そこでも、熱いまなざしでボールを追う

控えの選手たちがいるはずだ。みんなサクリファイスなのか。



試合のあと、ブログを検索していると、今日の試合の3年生と思われるエントリーがあった。

彼の言葉は、決して「サクリファイス」でないことを証明した。


そのエントリーには、仲間たちへの感謝とシード校と戦う決意があった。

何より、「2年生の力を借りて」という言葉が、彼ら3年生の一体感を物語る。

戦う主体が3年生であることを意識させる。


試合に出る、出ないではなく彼らの「代」が主役であって、足りない力を下級生に借りて戦っているという意識。

彼らすべてが、これで終わるかもしれないという不安を抱え、共に戦っていたのだ。


そうであれば、チームスポーツに「サクリファイス」は存在しないのではないか。

小説的には「sacrifice」がよいのであろうが、「役割、参加、貢献」という意味がある「share」の方がしっくりくる。

彼らは、役割を果たし、参加し、そして貢献しているのだ。



彼らの熱い夏は、いつまでも続いている。



サクリファイス (新潮文庫)